File1-1 生命を分ける。思いの味
夢の時を砕かれた塵が舞う、混沌の中。私の悪戯な妹心が掴んだ思いつきは、フレンチトースト。
別名ダメになったパンと言われる、卵と牛乳、甘い香辛料を混ぜたカスタード液に浸し、焼き上げた、焦げめがビターな香りが醸し出して甘い香りを引き立て、噛めばプリンっとふわっとした食感がたまらない、スイーツである。
ちなみに、昔食料を得るのが難しかった時代。大切に取っておいた、傷んで味が落ちてしまったパンをなんとかして美味しく、頂く方法がないかと考案された料理。まさしく、今のダメになった兄に対しては、最良な逸品である。
だが一応にも、パンはもちろんあるがぱっとみて、冷蔵庫内にあったのは、牛乳といちごのジャム、マーガリン程度しかなかった。これでは不味いものはできない。もしも卵があったら、塩コショウを振った目玉焼きでも乗せようとも考えたが、その考えは、儚く落とした皿のごとく散った。
その破片が、昔どこかの某グルメアニメで紹介されていた、牛乳と醤油を混ぜたら卵かけご飯の味になることを、記憶のタンスから引き上げてきた。その瞬間、顎に人差し指と親指を付けて軽く決め顔をしてから醤油を手に取り材料を揃えて、本当の意味でのフレンチトースト作りを始めた。
時は経ち、もはや少し正気に戻って(なんで、こんなふざけた料理を作ってているのだろう)と考えはじめた頃、食事をする机を見るとそこには、兄の生命の息吹を失った死んだ魚のような顔で席に座り、手に頬を乗せて肘を付く姿で、私を見つめていた。
思い出すと同時に、ちゃかりできるのを待っていた状況に、ビクつきながらお皿に盛り付け、その上にマーガリンを塗りジャムをかけ、醤油をひと回しして、席の隣に立ち、軽く音を立ててお皿をおいた。
その音に反応して、まるで数日間何も食べていない、蛇がカエルを睨む感じに見つめるところを観察していると、思わず吹きそうになったが静寂する、空気にすり潰され抑えることができた。
数秒見つめた、後に私の目に合わせて、無言の眼差しから(これは大丈夫なのか)と聞いてくる瞳に向かって、小さく斜め上に鼻息混じりに頭を振り、食べさせるように背中を押した。
意図をさしまた、軽く見つめて片手で持ち、万引きをする勢いで口に隠すように一口頬張ったり、口の動きが止まったかと思えば、再び口を動かして喉にも詰まることなく、流れていった。
「あれ?」
私は、普通に考えて顔を歪めたり、吐いたりするかと思っていたが、予想もしていなかった反応に言葉を吹き漏らし、顔を引きつらせた。
その表情を見てか、2つにフレンチトーストを裂いて、私に手渡した。されるがままに口に入れてみたら、原因がわかった。
口いっぱいに広がる、ぬるいジャムとマーガリンがギトギトした食感と混じり、ぬめりを帯びていたが醤油の塩気が効いていて、皮肉にも不味いジャンルには属しているのだか、その中でも美味しい部類に入る味なのだ。
この味と同じ複雑な感情を抱いている間に、さっきまでいたはずの兄が私の腹の中に行ってしまった、フレンチトーストのごとく姿を消し、兄の部屋がある二階からトビラが閉まる音が輝きの揺らめきを消す風のように、リビングルームに響き広がっていった。
「皮肉だ・・。今なら、兄を救える言葉がたくさん溢れ出てくるのに、外に溢れ出てくるのは、涙だけだよ・・」
部屋中の静寂をほのかに照らしていた、灯火が涙で濡れ、煙が立ち込め先が見えない心情の中「プルルル・・」と固定電話の音がなり響いった。
こんな、真夜中に鳴る電話の音に不信感を抱きつつ、涙を拭い軽く咳払いをして、電話に出た。
「こんな夜ヤブにすみません、御門社の御門 レイアと申します」
この妙なカリスマ性がある声に、記憶のタンスが引き出されてひっくり返るような、恐怖と憎しみが心の古傷に塩を塗られる刺激に引きつけられるようにその男の話を聞くことにした。
ここで一つ語っておこう、生命は、うまい状況と不味い状況下で、生きるための希望を抱くことは、共通しているが違いとしてわ。
そこに、『やらなければ、死んでしまうか、逃げる』かの二択しかないことを覚えておいてほしい。