初恋という名の病気。
人は夢を追いかけるように、虹に向かって手を伸ばす。それはまるで「未来」に夢を見る少女が、人との出会いと別れの儚さを知ってしまったかのような、美しい時間だった。
「未来さん・・・葵空未来さん・・・?」
「あ、はい・・・。」
息苦しい病院の待合室、氷のように冷たい壁、多くの人からの視線と共に自分の名前が病院内を反響していく。
こちらへどうぞとやさしい笑顔で案内してくれた先には、病院かと疑うほどふくよかな体状の先生が待っていた。すごい色をしたクルクルまきのキャンディが胸ポケットに入っているのではないかと一人で妄想してしまいクスっと笑ってしまった。
「どうなさいました?」
「いえ、なんでもありません。」
先生は不思議そうな顔をしていたけれど私は笑いをこらえることしかできなかった。後々考えてみると、あの時先生は病状の事を聞いたのではないかと思いちょっと恥ずかしくなった。
「そうですか・・・。では、どうなさいました?」
先生の声はありえないほど心にスルリと入ってくる。イメージとは真逆の声だったことに驚きつつ、病状を答えた。すると先生は真剣な顔でさらに詳しく聞いてきた。病院の先生が患者さんに病状をさらに詳しく聞くなんて・・・。
‐回想
一年とちょっと前に私のクラスに転校生がやってきた。彼は、親の仕事の事情で東京からこんな田舎に越してきたらしい。素直にもったいないと思った。田舎にずっと住んでいる私にとって東京は、若者たちにとっての海外であり、子供たちにとっての夢の国ネズミーランドと言ったところだろうか。まさに憧れ、夢の土地であった。
話を戻そう、彼の話に・・・。彼は数日でクラスに馴染んだ。私は半年もかけてやっと友達と呼べるような人ができたというのに。運動が得意だった彼は、体育の時間にすばらしいと思うくらいの運動神経を見せ付けた。おまけにその容姿やしゃべり方、学問にいたっては完璧と言ったところだろうか、まるで非の打ち所がない。そうなってくると当然女子にもて始める。この前なんて昇降口で、彼が下駄箱を開けると、中からは大量の小包とラブレターであろう手紙がわんさかあふれてきていた。
「誰だよーバレンタインデー作ったやつは」
そう言いながらもうれしそうな笑顔はどこか見惚れてしまうようだった。思えば、彼のことをいつもどこかで気にして生きていた自分がいた。
「こんなタイミングで悪いんだけど、これもらってくれない・・・?」
頬を赤く染め、息が荒くなる。自分の心臓の音が彼に聞こえてしまうのではないかと心配でたまらない。もし、彼が私を嫌っていたらどうする。もし、彼の言っていたことが冗談じゃなくてほんとうに迷惑しているとしたら・・・。そんなことばかり考えてしまい彼の顔を見るのなんて忘れていた。
静寂が立ち込める中、彼は徐にこう答えた。
「やっぱ、チョコって言ったら手作りの手渡しだよな!」
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「なるほど、そうですか。」
先生は微笑んで私にこう言った・・・・・
「若いっていいですね~」
今日の診察はこれでおしまい。
ありがとうございました。。