番外編 ~花火1~
夏!!ということで番外編を書いてみました!
1年前の事件が起こる前の話です!どうぞお楽しみください!
【約1年前 ガルド大陸 首都ガルディア、ブレインガーディアン第1部隊室】
「うぁー暑いっすね、こうもこんな蒸し暑い日に書類の山を片付けろと言われてもやる気が起きないっすよ…」
ジャスティンはテーブルの上に積んである書類の山にうんざりしながら深くため息を吐いた。
「もー!!暑いって言わないでよーせっかく頑張ろうって我慢してたのにジャスティンのせいでやる気が無くなっちゃったよー」
とうとうパトラはペンを放り出し、テーブルに突っ伏してしまった。
「あーやる気がでないよぉーたいちょー、外はあんなに楽しそうにお祭り騒ぎだっていうのに、私達はなんでこんな暑い部屋に籠って書類の整理なんかしなくちゃいけないんですかぁ」
「上の指示なんだから仕方ないよ、騎士団長のトリシアさんだって頭に冷却魔法のマジックアイテムを貼って仕事をしてるし、何より昨日から寝てないらしいからね…」
さきほどできた書類に判を押してもらうために騎士団長室に行ったら、目の下にクマを作り、虚ろな目で書類の山を一人で片づけているトリシアさんの姿があった。
ブツブツと何やら不気味な呪いの言葉を発しながら仕事をするトリシアさんはかなり恐ろしく見えた。
あの一人で片付けている書類の量に比べれば私達に回ってきている書類の山が軽く見えてしまうのが不思議なほどだ。
そう、アレに比べたらいくらかマシなのである。
「ひぇえええ… この書類よりも多いの? お、お疲れ様ですだねほんとに…」
「あ!」
唐突に黙々と仕事をこなしていたセレスがおもむろに声を上げる。
「私が氷結魔法でこの部屋の温度を下げてみますよ!」
「おお、さっすが優等生だったセレスは発想力が違うね!この暑さから解放されるならさっそくやってみようよ」
パトラとセレスは生き生きとこうしたほうがいいんじゃないかと話し込んでいる。
「嫌な予感がするんだが…」
「カナンは心配性だなっ、こんなあっつい空間に居続けたら茹でじゃがになっちゃうよ私達!!」
「茹でじゃがって表現使う奴初めて見たっすよ… ホクホクになるんすか…」
「ささ、そうと決まれば善はウサギのなんとやらだよっ!!」
いそいそとパトラは部屋から飛び出し、食堂へ走っていくと大きな鍋に水をタプタプに入れて戻ってきた。
「これをこーして、たいちょーも見てないで手伝ってくださいよー」
むすっとした表情でパトラは部屋の角に水の入った鍋を置いた。
いったい何をしようと言うんだ…
「部屋の四隅に氷を作れば自然に涼しくなるという私のアイディアです!どーですか?天才と呼んでくれてもいいんですよ!」
びっと私に指をさしてどや顔でパトラはうんうんと頷いている。
「て、天才なのか!?パトラ!!」
「もう、あんまりパトラを調子に乗らせないでください兄様」
「ああ、つい、でも今までそんなこと考えた事もなかったからな、まぁやるだけやってみよう、四隅に水を入れたものを持ってくればいいんだな」
「そーです!なるべく水をたっぷり入れられる大きいのがいいですね」
「わかった」
しばらくするとジャスティンもカナンも大きめの鍋に水を入れて部屋に戻ってきていた。
「この労働ですでに汗だくなんすけど」
「おーい、そこ危ないぞ」
「おわっ… 隊長… 風呂用のタンクなんていったいどこから持ってきたんすか…」
「ん? 普通に廃材置き場だが… おっと安心してくれちゃんと洗ったから綺麗な水だぞ」
「こんなに水いるんですか?」
カナンが青ざめた顔で聞いてくる。
「さぁ… まぁ少ないよりはいいだろ」
ドシンという大きな音を立てて風呂用のタンクを降ろし、これで準備は整った。
「ささっ、先生やっちゃってくださいよー」
「もう、そんなに見られると恥ずかしいよ」
みんなの視線がセレスに集中する。
ふぅと小さく息を吐き、セレスは魔法を紡ぐ。
「コールドブレス!!」
急速に四隅にあった水が瞬時に凍る。
瞬時に…
凍る。
「ガタガタガタ… せ、成功… だね…」
青い顔でガタガタと震えるパトラはいい笑顔でサムズアップする。
「ど、どこが、っすか!!」
「ささ、寒すぎるんだが…」
「おかしいなぁ一番弱い出力なのに…」
「そ、そんなことより早くここから出ないと死ぬっすよぉ… うゎあああああ手がドアノブにくっついてはがれないぃいいいいい!!!」
「あれ?あっちに美味しそうな食べ物があるぞ、みんなあっちだ」
「カナン!!しっかりしろ!そっちは行っちゃいけない!!」
「安心して!反対属性の魔法を使えば氷は解けるはず!!ヒート…」
「「それはやめたほうがいい」っす!!」
しゅんとなっているセレスは可愛いのだが、まずいな、どんどん温度が下がってきているぞ…
「ヒートブレス、いったい何をやってるのかしら貴方達は…」
ドアを開け、この夏なのに季節感を無視した黒いドレスのエルフの女性、カナリア=ファンネルが反対属性の魔法で氷を溶かしていく。
呆れ顔のカナリアがため息を吐きながら魔法を使い、この冷凍室を解除してくれた。
「た、助かったっす… このままドアの一部になるとこだったっすよ…」
「はぁ、何をしてるかと思えば… セレス、力の制御はなかなかできていないみたいね、後で教えてあげるからこれにサインしてね」
「うぅ… 始末書… ですか…」
「当たり前でしょう… まったく、そうそうこんなことするために来たわけじゃないのよ、今日の首都のお祭りがあるのはみんな知ってるでしょう?」
「まさか!!遊んできていいと!!」
パトラが目を輝かせながら期待に満ち溢れた顔をしている。
「残念、貴方達は住民達の誘導係よ、そして同時に周辺の警護をお願いできるかしら?」
「そんなぁー」
がっくりとうなだれるパトラをセレスが宥める。
「要人警護か?」
「ええ、宝石商のドワール=エドマンよ、名前くらいは知ってるでしょ?」
宝石商ドワール=エドマン、相当な資産を持っており、彼が経営している店の売り上げは国家予算にまで届くかといわれるほど有名な男だ。
そんな人物がなぜこんなイベントに参加するんだ…
「【花火】よ」
「はなび? なんだそれは?」
「知らないのも無理はないわ、異世界人が作り上げたといわれる空に打ち上げる花は今回のイベントの隠し目玉ですもの、ドワール=エドマンも好奇心が強い人でこの【花火】を目当てに見に来るみたいなのよ」
空に打ち上げる花か…
「当然こんな人混みが多いとこにそんな富豪が来たら狙われる危険があるのよ、それを私達騎士団が全面的にバックアップして警護するっていうのよ」
「上からの指示か?」
「そうよ、トリシア騎士団長も荒れていたわ…」
さっきの光景を思い出したのかカナリアは青い顔で遠くを見ている。
「夜までに時間はあるのだし、今のうちに準備をしておいて、それとアリア達第1部隊は西区を担当してもらうから」
はいっと手渡されたのは都市の地図で、編成部隊のおおまかな配置場所が記されていた。
「それじゃ頼むわね」
そういうとカナリアは部屋を後にしていった。
「ほーら、追加の仕事だぞー」
「うわぁー、お祭り行きたかったのにー」
「しょうがないよパトラ」
「混んでるとこあんまり好きじゃないんすけどねぇ」
「少し出店で食べるくらいならできるだろ」
…この時はまだあんなことになるとは誰も思いもしなかったのであった。
ちゃんと本編も考えているので安心してくださいね!




