side キルア=エンドレア ~マーキスの能力~
都市には火を放たれ、私達は多くの民を誘導しながら逃げなければならなかった。
戦況は騎鳥軍の副団長であったダルタニアンの起こした反乱が決め手となり、敗戦、さらには多くの民が殺される大虐殺が始まろうとしていた。
「お前達は先に行けっ!!」
「ダメだ!ガイアスもあの数を見ただろう!!もうそこまで迫っている!!」
「知っている!!それでも俺はここで時間を稼ぐ!!ダルタニアンの策略に気づけなかった俺に後始末をつけさせてくれ!!うぉおおおおお!!!」
「兄さん!!」
「止めるんだ!キルア!!お前まで行ってはならん!!」
「にいさぁあああん!!!」
伸ばした手は結局届かず、あのまま兄さんは行ってしまった。
あのまま兄さんに加勢していればもしかしたら戦況を変えられたかもしれないのに…
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ーー
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「おい、大丈夫か?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
つい考えてしまうな、いけない今はこの重要な作戦を成功させる為に集中しなければならないのに…
「しっかりしてくれよな、昨日アリアに触られたことがいくらショックだったからって…」
「なっ!それはもういい!!」
まったくこの男は何を考えているんだ!
マーキスはうんうんと腕を組みながら笑う。
今私達はアリア達と別れ、都市の南にある水門の近くまで来ている。
サルク運河は一昨日の大雨で川の水が増し、大きくうねりをあげて流れているのがここへ来る途中に見られた。
「着いたな、ここが水門だ」
幾重にも水を調整する門のような壁が張り巡らされている。
これはそういったマジックアイテムの一つなんだろう。
詳しくは私もわかってはいないのだが、この壁自体に魔法術式が組み込まれていて、門を水が流れるたびに威力を弱め、水量を調節するものらしい。
現在は一昨日の大雨の影響か、サルク運河に繋がる水門は固く閉ざされている。
しかし、予想以上の大きさだ。
5メートルにもなる高い壁がそびえ、その扉はちょっとやそっとの攻撃では傷がつかないような鋼鉄の扉だ。
「私もここに来るのは初めてだが… ここに来て難題だな、私の魔法で壊せるかどうか怪しい…」
これだけ大きな水門だ、穴をあけるのも容易ではない…
「安心しろ、俺がここに来た理由はそれもあるんだ」
マーキスは得意げな顔で親指を立てて笑う。
「少し離れて見てな」
そういえばこの男はアルテアの勇者なんだったな、実際にその能力は見たことがなかったが…
少しマーキスから下がり、様子を見る。
マーキスは腰を落とし、大きく息を吸い込み、拳を引き絞り水門の前に構える。
破壊できるというのか… この強固な水門を。
「【防御破壊】!!」
繰り出した拳は衝撃波を放ち、いとも簡単に5メートルもなる水門をまるで砂場を崩すようにあっけなく破壊して見せた。
激しい地響きとその威力が、その脅威を物語る。
「どうだ!」
得意げにこちらを向きマーキスは笑う。
さすが勇者の能力だ、あんな大きな水門を一瞬で。
幾重にも連なっていた水門は激しい音を立てて崩れていく、と同時に水圧を制御していた水はその制御を失い、一気に都市に流れ込んでいく。
マーキスを連れて。
「ぶぅわ、た、助けてくれ!!!」
「お前は馬鹿なのか!!」
飛翔し、流されるマーキスを捕まえ、陸に引き上げる。
「げっほ、げっほ!! た、助かった~」
ずぶ濡れのマーキスは地面に寝そべり、顔を青くしている。
「まったく、途中までは凄いと思ったのに最後ので台無しだよ」
「そ、そんなこというなよ、まさかこんなに一気に水が押し寄せるなんて思わなかったんだよ」
水門が壊れたおかげでサルク運河から流れる水は濁流となり、一気に音を立てて都市の中に流れ込んでいく。
「それよりもこれで作戦の一つはクリアしたな」
「ああ、さすが勇者の力だ、水門が一瞬で砕けていったのには驚いた」
「これは【防御破壊】っていう能力でな、どんな硬いもんでも破壊できちまう能力で、おまけに魔力を込めれば衝撃波も飛ばせる力だ」
「凄いな、その能力は」
「まぁ、一日の回数制限付きだけどなっと、よしここにも人が集まってくるはずだからな、第2作戦といくか」
「ああ、ここからは私も力になるぞ」
都市へ入ると騒ぎを聞きつけて早くも裏切った騎鳥軍の兵やガルディアの兵がやってきた。
「なっ!? 水門が!!」
「誰か水門をふさげ!!都市に水をこれ以上入れるな!!」
騎士たちは慌てふためき、混乱は成功したようだ。
「貴方達は邪魔です!!ガイアスを返して貰います!!」
「ぐぅお!!おのれ!!キルア=エンドレアめ!!ダルタニアン様に伝えろ!!」
「この死にぞこないがぁああ!!」
剣で突進してくる男を弾き、流れるようにそのまま反撃、腕を切りつける。
次々に切りかかってくる者共を躱し、鮮やかにねじ伏せていく。
「この程度か!そんなものではこのキルア=エンドレアは倒れはしない!」
「複数でかか… おぼっぉ!!」
「女性相手に複数はちょっとおかしいんじゃないか? キルアさんこっちは俺が受け持とう」
「助かります」
後ろをマーキスさんに任せ、目の前の敵と対峙する。その数は騒ぎが大きくなるにつれて時間とともに段々と増え始めていた。
「ハイスピーダー!ウィンドエレメント!!はぁあああ!!」
「ハイスピーダー!ハイオーバーパワー!!ぅおおおお!!」
強化魔法を施し、敵の群れに突っ込んで切り伏せる。
だが、彼らも訓練された騎士達だ、統率を取り始め、その動きも最初の頃に比べ鋭くなってきている。
「アイスランス!!」
「クッ…」
魔法職もどうやら集まってきたようだな…
バク転で氷の弾丸を躱し、強化されている兵が果敢に突っ込んでくる。
それを弾き、反撃に転ずる。
そんな攻防を幾度もなく繰り返して時間を稼ぐ。
敵がこちらに集中するように。
「はぁ… はぁ…」
それにしても数が多すぎる… キリがない…
「はぁ… 大丈夫か?」
「なに… 問題はない… このまま時間を稼ぐぞ」
「援護は任せろ」
ここはまるで戦場の舞踏会だ。
昔誰かがそんなことを言っていた。
踊るように戦い、剣と魔法が入り乱れる戦場は綺麗で美しい。
「ぅおおおおお!!」
「させるかぁあ!!【防御破壊】!!」
砂塵が舞い、血が流れ、叫び声や、武器のぶつかる音は音楽なんだと。
そいつは狂っていると思った。
そんな奴が普通であるはずがない。
そう早く気付くべきだったんだ。
「はぁ… !!避けろ!!マーキス!!」
「ぅおっ!!」
「ぐぅ!!」
「大丈夫か!!キルア!!」
「ぐぅ… 問題…ない!! 軽く切れただけだ」
そいつはいつも私の兄であるガイアスが気に食わなかった。
私だけにはわかった。
その笑顔の裏には狂気の心が隠れていることを。
「はぁあああああ!!サイクロン!!」
そいつだけは、私の手で始末するべきだったんだと。
みんなを裏切り、あまつさえ、故郷を奪ったそいつを。
「フン、この程度、サイクロン!!」
暴風が新たに巻き起こった黒い暴風に飲み込まれ離散する。
中空から青い翼を広げ、やってきた奴はそのうすら寒い笑顔を顔に張り付ける。
「やはりあなたは愚かですね、再び戻ってくるとは」
「ダルタニアン!!」




