side ヘンリエッタ
ドルドの話の続きにあたる話です。少し痛い描写が描かれておりますので注意を!
【ガルド大陸南部平原】
世の中は常に弱肉強食であり、人類が常にその頂点に立ち続けてきた。
だが、人類は進化を遂げ、区別が付き、また優劣もおのずとはっきりつくようになっていく。
己こそが人類の頂点だと言わんばかりの傲慢な人間達。
彼らは当たり前のように生き物を殺し、その生活を奪っている。
これが正当だと。当たり前なんだと。
罪悪感をまったく感じたりもしていない愚かな人間。
魔物や動物、人間にたいして違いなどあるのだろうか、同じ等しく肉であることに変わりはないのに。
彼らは知らない。
正当に自分たちが生きているこの世界で人間は頂点に立っているのではないと。
彼らは自覚しなければならない。
お前達も等しく強者からみたら捕食対象だということを。
彼らは諦めなければならない。
足掻くことすら無意味だということを。
「私の前に居たのが運の尽き…」
ヘンリエッタはふぅと短く息を吐いた。
体のあちこちに血がこびり付いている。
「……」
無言で手を使い払いながら汚れを落としていく。
水浴びしたい…
ただただヘンリエッタは自分の体についた汚れを落としたかった。
起用に8本の蜘蛛の足を動かし、死んだ冒険者のまだ服がボロボロじゃない男に近寄ると、その来ている服をはぎ取った。
脆いなぁ…
そのボロボロになった布切れを使ってヘンリエッタは自分に付いた血をふき取っていく。
「綺麗になった、なったかしら」
その血の付いたボロ布を捨てると、ヘンリエッタは再び死んだ冒険者の付近によると顎に手をあてて悩む。
その姿は年頃の女の子がかわいい服を選んでいるようにもみられる姿だ。
だが、目の前に並んでいる、というより無残に散らばっている死体を吟味して選んでいる姿は恐ろしくも見える。
「これにしようかしら」
それは、ソフィアという女性冒険者だった。
他の服はどれも血で汚れ、まともに着れそうなのはこのソフィアという女性冒険者の服だけだった。
それでも多少の血は付着しているのだが、ヘンリエッタのお眼鏡にかなったのはこの服だった。
細心の注意を払い、破かないように服を脱がせていく。
合成キメラであるヘンリエッタの力は驚くほど強く、力の加減を間違えればすぐに破けてしまう。
「よし、よし…」
なんとか上着である服を脱がすことに成功し、満足感を得る。
「やった、やったかしら」
服を掲げ、上からそれを着ようと被る。
2本の角が邪魔だったが、ここでも集中力は途切れず、頭が通る。
腕を通し、下まで後は降ろすだけだった。
「あっ、私翼あったの忘れてた」
ドラゴンのような翼が背中から生えているおかげで、胸までは下げれたが、引っかかってそれ以上は下げれない。
仕方ないか…
ビリビリと胸から下の服の部分を切り取っていく。
これで… よし!
うん、かわいい。
くるりという表現が正しいかどうか判断に困るが、器用に足を動かし回る。
ガチャガチャと耳障りな音が響くが、ヘンリエッタは気にもしないのか上機嫌になる。
「そろそろ出てきてもいいんじゃないかな?」
誰にともなく上機嫌でヘンリエッタは答える。
まるで最初から隠れていたのがわかっていたかのように。
「すでにバレていましたか…」
この平原には大きな岩が多く、隠れようと思えばいくらでも隠れられる。
ただ、いくら隠れるのがうまかろうと、ヘンリエッタはその赤い目に映ったものの温度の細やかな変化も気づけるのだ。
離れた岩陰から出てきたのは50歳後半に見えるヒューマンの男性。
「あなたは誰? 私はヘンリエッタ、よろしくね」
ぺこりとお辞儀をするが、可愛い少女ではなく、人造キメラである彼女がやるとより一層恐怖が増す。
「儂はただの村長だ。名乗るほどじゃないよお嬢ちゃん」
その村長と名乗る人物は、茶色い麻のような素材の大きめの布をただ巻き付けてるみたいな奇妙な格好をしている。
「不思議な服ね、なんていうの?」
「ワフクというものだよお嬢ちゃん、服に興味があるのかな?」
優しい口調と笑顔ではあるが、手は腰に括り付けられている武器に伸びていて、呼吸も荒いので余裕ではないのだろう。
その武器もよく見る銀色の剣ではなく、黒い筒のような物の中にしまわれているみたい。
珍しい武器、初めて見る武器だわ。
「これでも一応女の子だから」
性別なんてものはたまたまこの体の持ち主が女だっただけであり、私としてはどっちでもいい情報なんだけども。
不思議とこういう奇妙な行動を取るのも悪くないと思う。
「それよりもその村長さんはなんで隠れていたのかな?逃げ遅れたってわけじゃないんでしょ?」
「…お嬢さんをこの先に行かせたくはないのでね」
眼つきが変わる。
先ほどまではただの優しそうなおじいちゃんでしかなかったのに。
面白い、面白い、何を根拠に勝てると思っているのかしら。
さっきもあの人達の戦いには参加せずにただ見ていただけの貴方が。
よっぽどの自信があるのね。
知りたい、知りたい、何をこの人は持っているのか。
私に勝てると踏んだその理由を。
何を考え、何を思って、私という化け物の前に立っているのかを。
「実にシンプルでわかりやすい、だけど貴方もみていたのでしょう?先ほどの遊びを」
「お嬢ちゃんはたしかに強い、だけどな、若い者の未来は守らねばならんのだよ」
「なるほどねぇ…」
「ハイスピーダー、ハイオーバーパワー」
上級強化魔法、身体的能力の向上であるこの魔法は自身のスピードと攻撃力を一時的に2倍近くにまで引き上げる。
似た魔法は先ほどの冒険者も使っていたが、人間の限界を超えた力であっても、私のような創られた者の力の足元にも及ばない、ということを学習していないと見える。
この人間もまた、ただの暇つぶしでしかないか。
村長は踏み込み、駆け出す。
武器はその筒の中に入れたまま、腰に手を添え、瞬時に目前まで迫る。
人間にしてはなかなか早いほうだけど、武器もろとも掴んでしまえば、意味などない。
村長は低い体制のまま、掴もうとする私の手めがけ、抜刀する。
「【完全切断】」
「あれ?」
ありえないことに防御力、攻撃力ともに優れている私の手をあっさりと切断する。
赤黒い血が迸る。
すぐにその場から飛びのき村長から距離を取る。
弾き飛ばされた私の右手は宙を舞い、ぼとりと地面に落ちた。
村長は剣を払い、またすぐに筒の中に戻した。
「見つけた、見つけたのよ」
能力者、アルバラン様が探し求めている能力者。
まだこんなところにも居たとは知らなかった。
ようやく私も貢献できる。
「あはははは…」
こんなに嬉しい事はない。
急に笑い出した私に怪訝そうな顔をする村長。
力を切断された部分に注ぎ込むと、ズルンと傷口から新たな腕が生えてくる。
「化け物め…」
そんな言葉をぼそりとつぶやくのを私は聞き逃さなかった。
人間でもなく、魔物でもない、化け物。
そう、私は化け物なのだよ。
だから、足掻くだけ無駄だということをわからせないといけないね。
殺さないように注意しなくちゃ。
「あははは… さぁ… 再スタートかしら」
村長がこんなに… 強い… だと…




