夢
浮遊感と様々に移り変わる景色に私はまた【夢】を見ている事に気づく。
何度目になるだろうか、はっきりと自覚する【夢】を見るのは。
今までに無意識に知らない目線で見るものはいくらでもあった、だがこうして自分が自分だと認識できるのは【あの炎の村の夢】以来だ。
何かを伝えようとしているのか、それともただの妄想なのか。
景色はようやく落ち着きを取り戻し、固定される。
どうやら目に映る景色はどこかのお城の中のようだ。
ガルディアの王宮、ではなさそうだな、淡いベージュの壁と様々な高級そうな置物が立ち並ぶ廊下を私は走っている。
視線は固定されていて自由に動かすことができないが、自分が誰かの目となってこの景色を見ている事がわかる。
その目の持ち主である人はどうやら焦っているのか、息が荒く、どうやら手には剣を持っているらしく、何かに追われているようにも感じた。
視線は前を向いたり後ろを向いたりとせわしなく、その目を持つ者はある部屋に入り、その追手から逃れようと身を隠していた。
これはいったいなんなんだ…
傍観者となり、ただその人の目線でこの景色を見ている私には何が起こっているのか理解するのは難しかった。
しばらく身を潜め、誰も来ていないことがわかると、その人はふぅと深く息を吐き、立ち上がり、辺りを確認し始めた。
ここは王宮のような場所の寝室の一角らしく、ベットとテーブルがあり、大きめのクローゼットが置いてあったりもした。
窓から差し込む光が日中の出来事であるのが伺える。
目になってる人は息を整え、部屋から出て、辺りを確認しながら奥に進んでいく。
すると曲がり角で思わぬ人物と遭遇する。
「驚かすな、テオじゃないか…」
その目線の持ち主の声は女性だった。
曲がり角で鉢合わせたのは腕から血を流し、負傷している小さい頃に見た若い日のテオそのものだった。
「グッ… やっぱり、***様でしたか、ここを知ってるのは貴方と俺くらいですから…」
肝心なこの視線の持ち主の名前が聞き取れなかったが、どうやら視線の持ち主とテオは知り合いのようだ。
テオは片手を抑え、出血がこれ以上でないように抑えている。
「ヒール」
柔らかく温かい言葉。
どうやらこの視線の持ち主が回復魔法を使ったようで、テオの傷ついた腕が少しずつ治っていく。
「ありがとうございます、自分は回復魔法を使えないので助かります…」
「気にしなくていい、それよりテオ、このまま逃げられると思うか?」
テオの表情が険しく曇っていく。
「わかりません、未知の能力を使う者で、勝てるかどうか… 皆やられ、俺もこうして…」
「そうか、覚悟を決めなければいけないな」
「***様!何を考えているのですか!貴方がいなくなってしまったらこの国は終わりです!今は…」
「いいんだ、テオ、何も言わなくていい」
泣きそうな辛そうな視線をこの目の持ち主に向けるテオ、こんな姿を見るのは初めてだった。
「もうこれ以上私の為に皆が尽くさなくてもいい、投降するよ」
「そんなっ… 俺たちは… クソッ!!」
壁を叩き、怒りを露にする、そんな姿も初めて見るものだった。
「せめて最後のお願いだ、私と共に来てくれないか、一人ではさすがに心細い…」
どうやら視線の持ち主は震えているようで、握っている剣がカタカタと揺れている。
「***様… 俺達は常に貴方と共にあります、最後までお守り致します」
泣きながらテオは言う。
「フフ… 大の男がそんな顔をするな、最後まで付き合わせてしまってすまないなテオ」
テオの涙をその人は拭い、その手をぎゅっと握る。
「もう時間がない、行こうテオ」
「…はい」
駆け出し、外に出ると、そこには何かがあったのだろう、瓦礫の山と、おびただしい死体数々が目に飛び込んできた。
「ようやく出てきたか」
頭上から聞こえるその声は酷く聞いたことのある声だった。
視線が上空に向けられる。
今の面影を残す若き日のアルバランの姿がそこにはあった。
そこで急に視界はノイズが入ったようにちらつき、唐突に【夢】から離脱した。
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ーーー
ー
瞼を開け、目に入るのはテントのつなぎ目の姿で、【夢】から覚めた事に気づく。
雨は夜中のうちに止んだみたいでテントに打ち付ける雨音はしなかった。
頭が痛い。
虚脱感と共に襲い来るのは頭痛。
そうだ、あの【夢】もこの頭痛を伴うものだった。
そしてこの【夢】も起きた今でも鮮明に覚えている。
これは夢じゃないのか?
疑問が浮かぶが、頭痛と共に思考がまとまらず、考えを放棄した。
体を起こし、次元収納から昨日しまった鎧を取り出し、着替えていく。
気持ちを切り替え、テントから出ると、まだ早朝らしくほかのテントは寝息がちらほらと聞こえてくる。
雨はどうやら降っておらず、上を見上げると鉛色の曇天が空を覆っている。
あちこちに昨日の雨の水溜りができていたが、村に張り巡らされている水路のおかげでしばらくすれば引いていくのだとわかった。
まだ時間があるが… どうしたものか…
辺りを見渡すと焚火をしているのか小さな煙が上がっているのが見えた。
行ってみるか…
煙が上がってるほうへ行くと驚いたことにマーキスさんが石の上に座り、火を着け、何かを準備している最中だった。
「マーキスさん、早いですね何をしているんですか?」
「ん? ああ、アリアか、今は朝飯の準備ってとこだな」
水はけがいいのかそこは濡れてなくて、木材をくべて火を起こしていた。
「手伝います」
「助かるよ」
慣れた手つきで食材を切っていくマーキスさん、私は焚火をもう一つ作りながら、疑問に思ったことを口にする。
「随分慣れていますね、元の世界でもこうして食事を作っていたんですか?」
「ああ、前に居たとこでは俺が毎日息子に飯を作っていたからな…」
なぜだかこれ以上は聞いてはいけない気がした。
マーキスさんは懐かしそうなそれでいて悲しそうな顔をする。
「早くに妻に先立たれ、男で一つで息子を育ててきたんだ… そりゃ俺はしがないボクサーの一人で稼ぎも少なければ、ぼろい家に男二人で住むのはなにかと不便だったさ」
マーキスさんは大きな鍋に食材を入れ、手際よく進めていく。
「それでも、そんな貧乏でまともじゃない俺の飯をおいしいと言ってくれる息子が嬉しくてよ、この料理にだけは自信があるんだよ」
マーキスさんは話しながら調味料を加え、炒めていく。
「病気になんかならなけりゃ、もっと美味い飯を食わせてあげれたんだがな…」
ぽつりと零すようにマーキスさんは呟く。
「えっ?」
「いや、なんでもねえ、アリアはそこの鍋にこれ入れてくれ」
マーキスさんに手渡された食材を受け取り、違う鍋に加えていく。
今の話はマーキスさんの心の傷だったのだろうか…
次第に辺りにはいい匂いがたちこめていき、テントから起きてくる人も徐々に増え始めた。
焚火に集まる人は次第に増え、マーキスさんの指示のもといたるところで朝食の準備が進められていく。




