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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第2章 アルテア大陸
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差別

アリアの過去話になります。

 絵本の内容がきつすぎてあまり売れなかったことをシェリアは話してくれた。


 差別か…


 あれはいつだったか…

 セレスが来て間もないころだったかな…


 ーーーーーーーーー

 ーーーーー



『10年前、ガルディア都市北区とある公園』



「お願い!私の帽子を返して!!」



 セレスがうちに来たばかりの頃、セレスはこのあたりにいない種族な為、いつも深く帽子を(かぶ)っていた。

 そしてまだ僕にも慣れていないセレスはいつも一人で遊んでいた。


 そのため、一人で遊ぶ帽子を深く被った姿を不思議に思った悪ガキ共が、ある日セレスの被っていた帽子を奪ってしまった。



「なんだよ!いいじゃねえか!!」


「おい! こいつ頭に角生えてるぞ!」


「うぇ!? まじだ! きもちわりぃ!!」



 その当時の子供の言葉は残酷でセレスは凄く傷ついていたな。

 たまたまその近くを通った僕は、一目散に群がる悪ガキ共の前に()って入って言った。



「気持ち悪くなんかない!!セレスは僕の妹だぞ!!」


「お兄ちゃん…」



 初めて会った時から気持ち悪いだなんて思ったことは一度もなかった。

 ただ綺麗な銀髪を、小さな角を、帽子で隠しているのがもったいないくらいだと何度も思ったほどだった。

 だからセレスを悪く言われたとき酷く頭にきてしまった。



「なんだよ!誰かと思ったら魔法も使えない落ちこぼれじゃねえか!!」


「どけよ!!落ちこぼれ!!」


「お前らそろいもそろって気持ち悪いんだよ!!」



 僕はセレスを守ろうと必死に手を広げ、悪ガキ共から帽子を返してもらおうとした。

 僕もその当時魔法が使えないこともあっていじめられていた。


 それまで悪ガキ共にはなるべく相手にしないように生きてきたのだ。


 だけど妹ができて、その妹のセレスが悪ガキ共にいじめられてるのを見て、いてもたってもいられなかった。



 思うよりも先に体が勝手に動き出していたのだ。



「どかない!!僕はなんて言われてもいいけど妹に言ったことだけは絶対に許さない!!謝れ!そして帽子を返せ!!」



 自然と叫んでいた。

 妹は僕が守らないといけないと思った。



「落ちこぼれのくせになまいきいうんじゃねえ!!」


「気持ち悪いものに気持ち悪いといって何が悪いんだよ!!」



 そこからは子供同士の取っ組み合いの喧嘩、というわけにはいかなかった。

 圧倒的にその時点で差があったのだから。



「ぐっ!? ぶっ!?」



 腹を、顔を、何度も殴られる。



「落ちこぼれが何をしようと無駄なんだよ!!」



 複数による、魔法を使った一方的ないじめ。


 体は二人の悪ガキの地属性魔法バインドによって押さえつけられ、一人に一方的に殴られる。

 運が悪いことにその悪ガキ達はそこそこ魔法が上手かった。



「やめて!!お兄ちゃんをいじめないで!!!」



 泣きながらセレスが悪ガキに訴えかける。

 それでも一方的ないじめは止むことはない。

 体には傷が増えていくばかりだ。



「うるさい!!お前も同じ目にあわせてやろうか!!」


「ひっ!?」


「やめろォ!! ぞれをじだらぜっだいにおまえだぢをゆるざない!!!」



 口の中は殴られたせいで切れ、血の味がして、体もすごく痛い。

 それでも、なぜか力は自然とあふれ出てくる気がした。


 ぶちぶちと筋繊維(きんせんい)が壊れるのも気にせず、魔法に(あらが)おうと必死にもがく。



「!? おい! なにしてんだ! 魔法がゆるんできてるぞ!!」



 悪ガキの一人は慌てた様子でさらに私を殴りつける。



「ぶっ ガハッ」


「やってる!!けどこいつ、なんだ!? 魔法を無理やり」


「やばいぞ、魔法が壊れる!!」


「ぅおおおおおおお!!!!」



 無理やりバインドの魔法を壊し、悪ガキの一人にに殴りかかろうとしたとき急に限界がきた。



「あ… れ…」



 膝ががくんと力が抜け、倒れるようにしてそのまま私は意識を失った。


 しばらくすると意識が戻り、なんとか(まぶた)を開けると、驚いたことにセレスが悪ガキどもを魔法で痛めつけていた。


 おぼろげな意識の中、圧倒的なセレスの魔法の力に憧れを抱いたと同時にひどく悔しくなった。



「く… そ… 魔法が僕にも… あれば…」



 地面に倒れて、歯を食いしばり、その光景をただ見ていることしかできなかった。


 僕はなんて無力で弱いのかと…


 僕は…


 どうしようもなく弱い…


 薄れゆく意識の中で騒ぎに駆け付けた人たちが集まっていくのが見えた。

 そこで僕の意識は再び闇に落ちていった。



 再び目が覚めるとよく見る自分の住んでいる屋敷のベッドの上だった。


 体が痛く、顔も腫れていて、動かすのがとてもつらかった。



「気が付きましたか?」



 優しい声に目を向けるとメイド姿のフリーシアさんが、台車に治療薬と包帯が入った箱を運んできてくれたところだった。


 起き上がれないほど痛くて仕方がなく、顔だけフリーシアさんに向ける。


 フリーシアさんは困ったような顔で僕の頬に触れ、話し出す。



「どうしてこんな無茶をしたんですか?」


「どうしても許せなかったんだ」



 フリーシアさんは台車から治療薬をとり、僕の腫れている(ほほ)に塗っていく。

 薬草の鼻を刺激する臭いと、傷口が沁みてとても痛かった。



「妹が… セレスがいじめられるところを見ていてもたってもいられなかった」


「でもこんなにボロボロになるまで…」


「それでも、僕の初めてできた妹なんだ、僕が守ってやりたかった」



 思い出すのは意識が途切れる寸前、セレスが悪ガキ共をコテンパンにやっつける姿。



「でも、僕は弱かった… どうしようもなく」


「……」


「悔しかった、なんで僕はこんなに弱いんだと!! 僕が!!… 魔法が無いから…」



 声は既にあきらめが混じり、ため息が漏れる。



「強くなりましょう、アリア様!」



 泣きそうになるとフリーシアさんは僕の手を取り、僕の目をまっすぐ見つめ朗らかに笑う。



「今はまだ弱いかもしれません、だけど魔法なんかなくても強くなる方法はいくらでもありますよ」



 包帯を巻きながらフリーシアさんはさらに続ける。



「身近に強い手本がいるのですから、頼ったらいいのですよ、強くなる方法を!」


「いったい誰に…」


「テオ様ですよ」



 フリーシアさんは指を伸ばし窓を指さす、窓の外では訓練で汗を流すテオの姿があった。



「そうか、教えてもらえればいいんだ」


「そうです!アリア様はとてもお優しい方ですからきっと10年もすれば立派な騎士になれますよ!私が保証しますよ!!」



 フリーシアさんはその大きな胸を(ほこ)らしげに張って答える。

 優しいと褒められ、照れてしまいフリーシアさんから目線を外してしまう。



「そっか… 騎士か…」



 騎士は弱い人を助け、守る存在だ。

 昔見た絵本に出てくる騎士がそうだったように、僕も妹を守るため強くならないと。



「ありがと、フリーシアさん」


「まずは怪我を治してからですからね、それからゆっくりやっていくんですよ、私もテオ様に話してみますから」



 フリーシアさんはメッと僕に指を刺して釘をさす。

 フリーシアさんに苦笑いして、早く傷が治るように祈った。



「それと、もう入ってきても大丈夫ですよ」



 ガチャリと部屋のドアが開き、セレスが泣きそうな顔で走ってきた。


 良かった… セレスは怪我なんてしてないみたいだ…



「お兄ちゃん、ごめんね、痛い?」


「痛くないよ、もうへっちゃらさ!」



 必死に強がる、決して妹にはかっこ悪い姿なんてみせたくない。


 …でも、もうボコボコにやられちゃった後だからなぁ…



「そっか、あのね…お兄ちゃん助けてくれてありがとう!」


「うーん… 僕がやられてただけだからなぁ…」


「そんなことないよ!カッコよかった!!」



 セレスは満面の笑みで答える。

 そっか、それなら… よかったかな。



「それと、これ、一緒に食べよ」



 差し出されたのはノイトラさんが作ったお菓子だ。



「セレス様、アリア様は今食べ物が…」


「いいんだ、フリーシアさん」



 フリーシアさんの静止を断り、セレスからお菓子を受け取る。



「うん、ノイトラさんが作ったお菓子はすごく美味しいね!」



 口の中が切れていて、血の味がしてなにを食べているのかわからなかったが、セレスは上機嫌で同じお菓子を食べる。



「うん、あたしこれ、好き!」


「そっか」



 はにかむ笑顔がまぶしくて、この笑顔を守りたいと思った。



 ーーーーーーー

 ーーーーー

 ーー




 思えばあそこから始まったんだったな…


 セレスは無事なんだろうか…


 不安が顔に出そうになるのを押し込め、今は自分ができることをしようと気持ちを切り替える。


 続きが気になったが、絵本をテーブルの上に置き、立ち上がる。

 続きはまたここに戻ってきたときに見るとしよう、しばらくはここが拠点になるのだから。



「着替えて朝食をとったらまずはどこから行こうか?」


「そうですね、西にそのまま進むと首都アルタがありますけど、そこは占拠されているので、別の北にこのまま向かいましょう、何か足取りが掴めるかもしれません」


「そうか、それじゃ着替えが終わるまで外で待ってるから終わったら呼んでくれ」


「はい、わかりました」



 軋むドアを開け、雨がしとしとと降る外に出る。


 扉を閉め、上を見上げると昨日と変わらない曇天の空と、わずかに顔を濡らす雨がまるで空が泣いているように見えた。




この世界に傘はありません(´・ω・`)濡れていってね

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