side カナリア=ファンネル ~裏切り~
続きです!夜も更新する予定です。
ねぇ… なんでこういう風になっちゃったのかな…
巨大な斧は顔のスレスレを風を切るように掠めていく、あれに切られたらひとたまりもないことは誰にだってわかる。
そのまま打ち下ろされると爆ぜるように地面から水が噴き出し、そのままの勢いで切り上げを行う。
何度も見てきているからわかる、アルフレアの得意とする攻撃。
ひらりと避け、バックステップで大きく距離を取る。
「チッ」
赤い髪はとても綺麗な色をしていて、高い身長は私の憧れだった。
アルフレアは赤い髪を振り上げ、その手に持つ巨大な斧で再び私に近づこうと接近する。
「アイスニードル!!」
アルフレアは身軽な身のこなしで無数の氷柱を次々と避けていく。
「サンガー!!」
避けた隙を狙い、音速の雷撃を飛ばす、普通ならば避けるのに気を取られ、雷撃の反応に遅れる。
だが、アルフレアは持っている巨大な斧を高速で回転させることによって、雷撃をも防いでいく。
「その攻撃は想定内のうちさね」
そうだよね、防がれるよね、
だって…あんなに一緒に魔法対策の摸擬戦をした仲だもの…
「今度はこっちの番だよ、ハイスプラッシュエレメント!ハイスピーダー!!」
高等の水属性付加魔法、スピードの強化、ほんとに、私を殺す気なのねアルフレア…
水の奔流が巨大な斧に纏わりつく、それを眺め、思い出す。
私はアルフレアの水魔法が綺麗だと話したことがあったよね…
アルフレアは実は繊細で可愛いものが好きで、でもそれを似合わないからと言って隠していたっけ。
中でも水魔法はアルフレアが一番得意とする魔法で、細やかな水を操る技術はとても綺麗だった。
「フライ!!コンセントレイト!!」
私が一番知っていた。
その技も、仕草も、一番近くで見てきたから。
だから私も本気でいくよ。
「ようやく本気かい、浮いてからが怖いのはアタシもよく知っているさ」
一瞬だけアルフレアの表情が曇った、すぐに突っ込んでくる様子はなく、おそらく次の攻撃はこう来る。
「ウォタガ!!」
「フレア!!」
同時に展開された爆炎と豪水魔法は衝突し、激しい水蒸気となり、離散する。
その勢いは辺りの家屋を吹き飛ばしかねない威力だった。
辺りには水蒸気が舞い、とても濃い濃霧となる。
その濃霧はアルフレアにとって有利に働きすぎる。
濃霧で辺りは何も見えず、だが水の弾丸が私を貫こうと幾度も撃ち込まれる。
それを買い潜るように飛翔し、幾度もギリギリで躱していく。
風を切るように、空中へ飛び上がり、濃霧を晴らすため下に向かい手をかざす。
「トルネド!!」
巨大な竜巻が下に向かい噴出される。
もうこの付近にいるのは私とアルフレアしかいない、躊躇って今まで使わなかった攻撃じゃないとアルフレアは倒せないわ!!
竜巻は真っすぐ、その威力を持って霧を晴らし、アルフレアに向かい突き進む。
「マッドストリーム!!!」
振り上げた巨大な斧の先からとてつもない水圧の濁流が竜巻に向かい噴出される。
すごい攻撃、あの巨大な竜巻が押されていく、だけど攻撃に集中しすぎて足が止まっているわよアルフレア!!
片手を風魔法の維持で固定したまま、もう片方の手を振り上げる。
「クエイク!!」
「グゥウウウ!!!」
アルフレアのいる地面から無数の槍が飛び出し、アルフレアの体を次々と突き刺していく。
「ガハッ… に、二重… 魔法…」
私の得意とする二重魔法、まさかこんなことで使わなきゃならない時が来るなんてね…
体を貫かれたアルフレアは力無く崩れ落ちて壁にもたれかかる。
中空でそれを眺めていた私は、涙が流れていた。
ねぇ、なんでこんなことになっちゃったのかな…
私は大切な仲間を傷つけたくなかったのに…
はっと気づいて地面に降り立ち、慌ててアルフレアの元に駆け寄る。
もうわかっている。
だけど駆け寄らずにはいられなかった。
私のせいなのに…
「ハイヒール!!」
血だらけのアルフレアに駆け寄り、大きく空いた空洞を塞ぐ為に触って回復魔法をかける。
血はどんどん溢れ出て、魔力の少ない状態では一向に塞がる気配を見せない。
ダメだ!塞がらない!!
こんなはずじゃ…
こんな… はずじゃ… なかったのに…
「ハイヒー… あうっ!?…」
意識の残っていたアルフレアに思い切り突き飛ばされ、地面に転がる。
「やめ… ろ… もう… いい、アタシは… たすから… ないよ」
振り絞りだした声は今にも途絶えてしまいそうだった。
「ダメよ!!まだ助かる!!」
「ばか やろ… 余計な… こと… するな」
ふと突き飛ばされた時にアルフレアに何か一緒に送り付けられた気がした。
そこには血に濡れた一つの鍵があった。
顔を上げアルフレアを見ると少し微笑んだような顔をし、血まみれの腕で髪を触る。
そこで全てわかってしまった。
気づいてしまった。
アルフレアはとても口下手で、嘘をつくときの癖がある。
隠し事がいつも下手な私の親友。
嘘をつくとき、いつも髪をいじる癖がある。
私だけが知っていた。
最初から嘘をついていた。
私を怒らせ、戦わせる為に…
どうして今になって気づいちゃったのかな…
立ち上がり、鍵を握りしめ、前を向く。
私の親友を最後に目に焼き付けるために。
「反逆者…め… 牢屋に… ぶちこまれ… ろ」
「私達は絶対に捕まらないわ!!」
「そう… か」
あまりにも下手すぎる嘘。アルフレアは少し微笑んでそれから目を閉じる。
握られた手のひらは痛いほど血が滲み、私はくるりと向きを変え門の外へ走る。
走れ。
走れ。
「うっ…うぅうううぅう」
涙が止まらない、それでも進むしか今はないんだ。




