逃走
夜にもう一話上げる予定なので今回は短めです!
息が切れる。
それでも駆ける足は止まることを許さなかった。
周囲を見渡しても私しかいない、すべての時間がまるで止まっているような私だけがここに取り残されているような気分になる。
額から流れる汗が肌を伝い思わず顔を拭おうとする。
「そうか、もう右手は無いんだった…」
虚しく独り言をつぶやく。
いまだに残る右腕の感覚に慣れずにアリアはただ目的地に向け走り続ける。
初夏に入るこの時期の風は生温く、ひどく汗をかいているアリアにとってとても気持ち悪いものに思えた。
南区の路地は商業区という事もあり、複雑に入り組んでいる。
そして似たような建物も多いことから南区で迷子になる人達は以外と多い。
アリアはそういった迷路のような路地を縫うように迷わず進んでいく。
「うっ!?」
壁際に寄り胃の中のものをぶちまけるかの如く吐き出す。
いまだに襲い来る吐き気をなんとか堪え、再び歩き出す。
アリアはカナリア達と別れた後それを繰り返していた。
吐いても吐いても気持ち悪さが消えることがない。
私はあの時自分の死を身近に感じた。
死んだと思った。
何も報いることができないまま、何もわからないまま死ぬんだと思った。
だから生きていることが不思議で仕方なかった。
痛みはカナリアが魔法で無理矢理直したため今は何も感じない。
感じないからこそ気持ちが悪い。
数分前まではとてつもない痛みで死にかかっていたのに、走れるほどに回復している。
気持ちが悪い。
魔法とはいったいなんなんだ。
なぜ私だけが使えない?
気持ち悪い。
全て、全て吐き出してしまいたい。
後ろのほうで激しい爆発音が響き渡る。あんまりのんびりするわけにはいかないということが嫌でもわかってしまう。
アリアは壁づたいに路地を進んでいく。
「ようやく、ここまで来れた」
荒い息を整え、周囲に誰もいないことを伺う。
見られてはいけない。知られてはいけない。
いつもより用心深く確認したアリアはターナーの家のドアを開く。
「いらっしゃ……!?!? アリアさん!! どうしました!?」
「アリア様!?う…腕が……」
ドアを閉めると気が抜けたのか足に力が入らず思わずその場に座り込んでしまった。
ターナーさんとシェリアが青い顔で慌てて駆けてくるのがわかる。
だが、疲労がピークに達している私はそこで意識を手放すのであった。
ーーーーーーーーー
side シェリア=バーン=アルテア
私とターナーさんは新しい武器を作成している最中でした。
ターナーさんの家は私が前に住んでいたところとは違って、色々な武器が置いてあったり、すごく大きな部屋があったりと興味を惹かれるものばかり溢れています。
ターナーさんは異世界人の孫らしく【武器創造】という特殊能力を引き継いでいて、私やアリア様に様々な武器を提供してくれます。
「シェリアちゃん、今回のアイテムはどうかな?」
私はターナーさんから作ってもらったアイテムを受け取り色々と動かして確認をしてみる。
「すごいですね!ターナーさん!楽々とこんな重いものが持ち上がりますよ!!」
えいと持ち上げたのはすごく重そうな金属。それを片手で楽々持ち上げる。
「うん、ちゃんと使えるみたいで安心したよ。その腕輪が重力の増減をしてくれるから、それをつけているときはシェリアちゃんも意識すると重くなったり軽くなったりできるはずだよ」
「ほんとだ!すっごく今度は重くなりました!っとと危ない危ない」
一気に重くなった金属を再び軽くしてそっと元の位置に戻す。
「ほんとに何でも作れちゃいますね」
「ありがとう、あ、それとねもう一つ完成したのがあるんだ!」
ターナーさんは次元収納付きの袋の中をまさぐっている。
すると突然家のドアが開いた。
そこには血で汚れた鎧姿のアリア様が倒れるように入ってきました。
「いらっしゃ……!?!? アリアさん!? どうしました!?」
よく見ると右腕の部分が抉られたようになくなっていることに気づいた。
「アリア様!?…う…腕が…」
私達が慌てて駆け寄るとそのままアリア様は崩れるようにして座り込むと気絶してしまった。
どうしてアリア様がこんな目にあっているのですか!?
「シェリアちゃん!とりあえず奥にアリアさんを運んであげて、僕は少しこのあたりの隠蔽魔法を強くしてみるから!」
「はい!!」
さっきターナーさんから頂いた腕輪の効果で重さを気にせずアリア様を持つことができた。
私はアリア様を運び、奥にある私達がいつも寝るベッドの上にアリア様を寝かせる。
「腕の怪我が酷い…回復薬を探さないと」
私は訓練でいつも怪我が絶えないのでターナーさんから薬が入っている所を教えてもらっている。
たしか上の棚にあったはず…
あった!!
棚から塗るタイプの回復薬と包帯を取り出すとベッドに寝ているアリア様の右腕の付け根をまくり上げる。
「すみません、アリア様」
傷口は塞がってはいるものの魔力で一時的に留めているだけのようで、少しでも衝撃を与えてしまうと開いてしまうそんな危険な状態だった。
「っつ!?」
塗り薬を開けると薬草の鋭い香りが私の鼻を刺激し、涙が出そうになる。
こんなもの、アリア様の傷にくらべたらどうってことない!
塗り薬を掬い上げ、腕の付け根にゆっくりと塗っていく。
あとは簡易的に包帯をぐるぐると巻いていく。
包帯がずり落ちないようにしっかりと止める。
「ええっと…あとは、クリーン!!」
ひどく汗をかいていたし、血の汚れがひどかった状態だったのでクリーンをかけ清潔に保つ。
「ありがとうシェリアちゃん」
ふと後ろから声をかけられ振り向くとターナーさんがひどく疲れた顔で戻ってきた。
「ターナーさん、アリア様の治療は一応終わりました」
「僕のほうも念のため隠蔽魔法が施してあるマジックアイテムを作り出して設置してきたからこれで大丈夫だと思うよ、魔力がギリギリになっちゃったけどね」
「ターナーさんも休んでください」
「っつ…私は…」
「「アリアさん!」様!」
アリア様が目を覚まし、周囲を確認している。まだ寝ていらしてもいいのに。
そして左腕で無くなった右腕の方をさするように触ると一瞬驚いた顔をしていた。
「これは…シェリアがやってくれたのか?」
「はい、酷い怪我だったので」
「すまないな、ありがとう」
「それで、なにがあったのですか…」
「ああ、それは…
私はその話を聞いて驚きを隠せないでいた。




