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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第五章 大陸戦争
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巡り合わせ

【リーゼア同盟軍 左翼】



 飛び交う魔法は大地を焼き、土煙が舞う。

 本格的に激突した両軍は一進一退の攻防を繰り広げていく。



「アリア! 左だっ!!」


「うぉおおお!!」



 盾持ちのガードナーの突進を避け、迫っていたランサーの槍を掴む。

 そのまま槍の威力を流すように背後に回り込むと、がら空きとなった背後に一撃をいれた。



「ぐぶっ……」



 膝から崩れ落ちるランサーを横目に直ぐにその場から飛び退く。


 直後先程までいた位置には燃えさかる業火が着弾し、地面を抉った。



「ファイ…… ぐあっ!?」


「魔法は撃たせない」



 集団からやや離れた位置で杖を翳していたソーサラーは、キルアさんの攻撃により魔法を中断せざるをえなくなり、孤立する。



「おおおおお!!!」


「「「うぐっ!?」」」



 デニーは幾つもの鎧姿のガードナーを吹き飛ばし、道を作っていく。

 その開かれた道に雪崩れ込むように味方が援護に回っていく。 周囲の冒険者とも連携を取り合い、少しずつ前線を押し上げていく。



「アイスニードル!」


「ウォタラ!!」



 屈強な冒険者の一人が激しい氷の槍を呼び出し、密集した敵軍に向かって放った。

 さらにもう一人の冒険者から繰り出された水魔法が放たれ、周囲には幾つもの水たまりが広がっていく。



「ちいぃ、下がれっ、下がるんだ」



 敵軍の指揮者と思われるエルフの男が声を荒げて後退を命ずる。



「追え!! 敵が逃げる!」



 冒険者の一人が剣を掲げ、進めと促してくるのをデニーが止める。



「待て、深追いはするな。 今は落ち着くんだ」


「だが、奴らが」


「いいんだ。 罠の可能性も考慮しなければならない。 迂闊に追えば伏兵に横から腹を刺されかねない」


「キルアさん、隠れている敵はここから見える?」


「見えないな、だが奴らの動きはどうやら私達を個別に相手したいとみえるな」



 集団戦の特徴は、主に盾役であるガードナーを前衛に置き、中衛にランサー等の援護攻撃を得意とする者を、後衛にアーチャーやソーサラーを置くのが一般的であり、規模が大きくなればその守りも堅牢なものとなる。


 だからこそ数は何よりも武器になり、数で勝っている私達が連携を取るのを嫌ってこのように誘い受けを狙ってきている。


 傷ついた者達を戦闘不能にさせることは大きなアドバンテージとなるが、それにより進路を乱されたり、追ってきた者達を罠にはめ、形勢を逆転されることは多々あることだ。


 この場合一番まずいのが孤立することである。


 集団戦はいかにその連携を崩すことであり、散らすことが大事とされている。



「このまま進もう。 敵が逃げた先には鬱蒼とした森林地帯だ。 視線も通りづらく奇襲されやすい。 そちらに行くよりもこのまま道なりに進む方がいい」


「傷を負った者は後方へと回れ、ある程度傷が癒えるまでは援護に回ってもらったほうがいいだろう」



 この場で共に行動している冒険者の数は八人ほどで、戦闘にも慣れているのか連携がとりやすかった。

 私達と似たバランスであり、前衛であるガードナーが一人、中衛ランサー二人、格闘士一人、剣を手にするブレイバーが二人、後衛ソーサラー二人という構成だ。


 先程の交戦により負傷した格闘士を一旦下げて、どうやらソーサラーの一人を中衛に置くことにしたようだ。



 その時シーレスのノイズがはしる。



『アリアか? 進行状況はどうやらアリア達のところが一番進んでいるらしい。 中央と右翼が苦戦を強いられている状況であり、こちらからも人を動かした。 そこから大きな岩肌が見えるか?』



 先程よりも落ち着いた声音のメルアーデは私にその先を見ろと促す。

 ちらりと視線を移せば数百メートル先に大きな岩がむき出しとなった地帯が広がっており、そこだけやけに静かなのが窺える。

 視線を動かし、左右を確認すれば戦っている喧噪は聞こえてくるもののその先にある巨大な岩が連なる地帯は戦いの音さえしない。



『その先は伏兵が隠れている。 迂回してなるべく中央に寄らないように進んでくれ』



 そこでシーレスの通信は途絶えた。

 おそらくネア様の【龍眼】で潜伏していたのがわかったのだろう。

 俯瞰して上空から見えるために伏兵の存在をいち早く教えて貰えるのはこれからの戦いにかなり有利に働くだろう。



「聞いてくれみんな、この先の岩場は伏兵が潜伏している」


「なるほどな、やけに誰もここまで迫ってきていないのはそういう魂胆か」



 キルアさんは振り返り、やけに追っ手がこちらに来ていないことに納得を示した。



「ああ、恐らく中は入り組んだ迷路状になっているはずだ。 それにあの岩の間を通り抜けようと進めば必然的に分散する形になる。 メルアーデが言うには迂回したほうが良いということだ」


「ならばあの地帯を避けて大きく右にということか」


「ああ」



 冒険者達も迂回案には賛同してくれ、このまま岩場を避けて進むことになった。

 地図通りに進めばこの迂回した先には敵の拠点である要塞が見えてくるはずだ。



 的確な空からの案内によってこれまで多くの戦いを避け、ここまで消耗もせずに進めてこれたのは偏にネア様の【龍眼】によるものだろう。

 要塞にたどり着けばまずは閉じられているだろう門をいかに開かせる事が必要になってくる。

 そこではもはや戦いは避けることはできないはずだ。


 後続に続く部隊の為にはなんとしても切り抜けなければならない重要な役目。


 だがそれを易々と許してくれる存在ならばここまで苦戦することはないのだろう。



「もうこのような場所までたどり着いてしまったんですね」



 やはり待ち構えていたか。

 まるで最初からこの場所へやって来るのだとわかっていたように次々と転移魔法により現れてくる幾つものガルディアの騎士達。


 その騎士達を従えているのは黒いコートを羽織った女性だろうか。

 こんなに暑い日射しの中、不自然なほどにフードまで被った女性は手に鞭を持っている。


 何もかもが怪しいその存在の声になぜだか懐かしさを感じた。



「デジショナルオーガ、無頼虫」



 怪しい女性が手にした薬品を二つ地面へ投げつけると、浮かび上がる魔方陣。

 その中から這い出てくるのはやけに大きな体を持つ赤いオーガと全身刃物のような機械のような体をした二足歩行の昆虫。


 あの薬品は召喚魔法が込められたマジックアイテムなのか?

 それにあんな魔物は見たことがない。 もしや合成獣の一種か?

 警戒心を強め、それぞれが武器を構え始めた。



「グルルルル!!!」



 赤いオーガは口から涎を垂らし、大きく息を吐く。



「キィイィィイ!!」



 刃物の昆虫は甲高い音を立てながらその数多の目をこちらに向ける。



「避けては通れないみたいだな」


「……残念です。 貴方にだけは会いたくは無かったのに」



 その時突然突風が吹き荒れ、黒いフードがまくれ上がり、女性の顔が露わになった。



「っつ!?…… どうして」



 黒いショートの髪、褐色肌のエルフ女性。

 いつも私達にお世話を焼きたがっていた仕事熱心な彼女の顔は今は悲しみに彩られ、真っ直ぐ私の目を見る。



「……フリーシアさん。 何故貴方がここに……」



 あの優しかった彼女の笑顔はここにはない。


 似合っていたロングドレスのヴィクトリアンメイドとしての姿はここにはない。


 あるのはただ彼女が私達の敵として目の前に立ち塞がっている事だけだ。

 メイドであるはずのフリーシアさんは一度もそんな姿を見せなかった。

 騎士を従え、操られているような素振りや言動も見られないことからこれが本来のあるべき姿なのだと実感する。



「今まで…… 騙していたのかフリーシアさん」


「……デジショナルオーガ、無頼虫、奴らを殲滅しなさい」


「っつ!!」






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