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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第五章 大陸戦争
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すれ違い

 パトラを連れてやってきたのは王宮の中庭。 

 日射しが照らし青々とした果樹についた霜がキラキラと輝いている。

 この場所はネア様が管理している果樹園の一つ。 そこに実る果実は王国ブランドがつくほどの品質を保っていると噂では聞いている。

 今は冬の十八週目、後二週間もすれば小さな黄色い蕾みも花を開くことだろう。


 そんな場所にはこの都市を流れる水が水路に巡っており、丸い宝石を象った噴水が置いてあるのだ。


 ネア様が管理しているここならば他の人達も入っては来ないだろう。

 移動している間にパトラは落ち着いたのか、キョロキョロと辺りを見渡している。



「それにしても驚いたよ。 パトラ達もこっちに来ていたんだね」


「うん。 この感じやっぱり偽物じゃない本物のたいちょーだ。 良かった見つけたのが私で」



 パトラはほっと一息胸をなで下ろす。



「どういうことだ?」


「まぁ…… うん。 カナンだったらちょっとどんな行動に移ったかわからないしね。 カナンはまだたいちょーのこと誤解しているみたいだから」



 そうか…… 私があのとき国王暗殺をしたと思い込んでいるのか。 あの後誤解も解けずに離ればなれになってしまったのだから仕方のないことだ。

 あの時は逃げることに必死で余裕などなかった。

 だが、パトラは何故国王を暗殺したのが私の姿を真似た偽物だと気づいたのだろうか?

 あの姿は私から見ても本当にそっくりだと思ったほどなのに。



「パトラは…… 私が国王を暗殺していないと何故言い切れるんだ?」



 パトラは朗らかに笑う。



「見てればわかるよ。 たいちょーはそんなことする人じゃないって、カナンも本当はわかっているはずなんだけど…… セレスの件もあったから自信をなくしてるんだよ」


 セレス…… たしかトリシアさんが言っていたのは逃げ出している道中で捕まってしまったという話だったか。 私があの時もっとしっかりしていれば……



「あのセレスがそう簡単に捕まるわけがないからきっと騙されてって……」



 きっと頭のいいカナンはそれで誤解してしまったのだろう。 セレスが抵抗もなくついて行く理由としては私がそこにいると考えるだろうから。 



「だから見つけたのが私で……」


「こんな所に居たのかパトラ!!」



 パトラの話を遮るように背後から鋭い声がかかる。

 慌てて振り向けば、そこには髪を短く切ったカナンの姿。

 私の姿を捉えると、一瞬の動揺ののちに表情は怒りに変わっていくのが見て取れた。



「あちゃー…… 捜索のマジックアイテムの存在を忘れてた」


「っつ!! 今すぐパトラから離れろ!!」



 カナンは右腕を軽く振ると、手に持っていた筒状のものが伸び、三つ叉の鋭い槍へと変わる。



「カナン、違うんだ。 私は……」


「黙れっ! 何度信じようとした俺達を欺いたのかわかっているのか!! よりにもよってその姿になるとは」


「カナン!! 違うの!! 今度こそ偽物じゃない!!本物のたいちょーなんだよ!」


「パトラっ! 俺達の油断がフォルスさんの命を危険に晒したんだろ!! 忘れたのか!?」


「うっ」



 パトラはカナンのその言葉を聞いて思わず黙ってしまった。

 まるでカナンの口ぶりではあの国王暗殺以外にもあったように聞こえる。



「……どういう事だ?」


「惚けるな!! セレスのことも騙しやがって!! 俺はもう二度と騙されんぞ」



 カナンは槍を構え大きく息を吐き出す。



「ここで仕留める。 【龍撃】」



 青白い光がカナンを包む。 これはいったい……


 カナンが踏み込むよりも早く動き出したのはパトラだった。



「フリーズ」



 まるで瞬時にカナンの背後へと回ると両腕を動かないように固定する。



「ぐっ!! パトラ!! 何をするんだっ!!」


「よく見てっ!! あのネックレスに見覚えはない!?」



 パトラが私の首元を指さす。 それはいつも私が肌身離さず身につけていたネックレス。

 きっとそれなりの値段がしたはずなのに、五人分お揃いがいいとカナンとジャスティンが選んで買ってくれたシルバーの翡翠が埋め込まれたネックレスだ。


 私はこのネックレスをお守り代わりにいつも身につけていた。

 少し長いこのネックレスは服の中に普段は隠れて見えない。



「あの時見落としていたけど、フォルスさんを襲った偽物はネックレスをしていなかった。 こんな些細なことかと思うけど、私はいつもたいちょーがこれを貰ってからずっと身につけていたのを知っていたの!」



 だからパトラはあの時私に抱きついてきたのか…… このネックレスを確認するために。


 パトラは髪をかき上げると胸元にしまっていたネックレスを指でつまみ上げる。

 それは私が貰ったものと同じ翡翠のネックレスだ。



「……それだって本物かどうかわからないだろ」



 カナンは視線を床へと落とした。



「あの時すぐに助けにいけなくて本当にすまなかった。 本来であれば私が守らねばならなかったのに」


「たいちょーも大変だったってカナリアさんから聞いてたから気にしないで……」



 パトラは無理矢理笑顔を作った。 あの頃とは何もかもが変わってしまった。 心から笑えるには時間がかかるだろう。



「パトラ行こう。 ジャスティンが待ってる」


「う、うん。 またね、たいちょー」


「ああ、またな」



 その事実を受け入れるにも時間がかかるのだろう。

 変わってしまった時間は取り戻せない。 再びあの頃みたいに笑い合える日々が来ればいいのだが。


 そんな事を考えながら去って行く後ろ姿を眺めていた。





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