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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第四章 リーゼア大陸
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特別編 その2 ~6~

 私達が戻るとそこには疲れ果てているデニーの姿と満足そうな笑顔を浮かべた店長の姿があった。


 建物の壁を背にしてもたれ掛かるデニーは終始大きなため息を零す。

 いったい何があったのだというのだ……


 そんな様子を横目で見送り、ログハウスの中へと入る。



「おかえり~どうだった?」



 テーブルに肘をつきひらひらと手を振るのは黒髪の獣人であるメィシャさん。



「ええ、言われた物は取ってきましたよ」



 すっと鞄から出すように次元収納から青白く光る花を差し出す。

 その光はあの洞窟の時と変わらず仄かに発光する。



「この花の名前はなんて言うんですか? 初めてみたのですが」



 シェリアがメィシャさんに尋ねると、瞳を細く、懐かしむ様に答える。


「この花の名前はね【レインブルー】。 雨の日にしか咲くことのない青い花という意味の花よ」


 レインブルー…… たしかに洞窟の内部はまるで雨が降ったかのように濡れていた。

 今もその花は水滴を滴らせるほど濡れている。


 その花をメィシャさんは受け取ると用意してあった花瓶に飾る。



「散るのも早いんだけどね、それでも飾っておきたかったんだ。 なんたって今日はここを初めて訪れてくれた記念の日だからね」



 そんな優しい目をしてテーブルを撫でるメィシャさんはどこか違った表情であった。

 シェリアは私に視線で訴えかけている。 あの話をするべきかどうか迷っているのだろう。



「その、あの洞窟は前も行ったことがあったんですか?」


「ん? ああ、ちょっと昔にね、今はもう行くことは止めたんだけどね」


「どうして止めてしまったんです?」


「その様子だとあの石碑は見たんだね」


「はい」


「あれはね、私の弟が眠っているんだ」


「つっ……」



 メィシャさんは伏せられていた写真立てを起こす。

 そこには楽し気に笑うメィシャさんと黒髪の同じ獣人の男の子の姿。 その特徴はあまりにもメィシャさんに似ている。 おそらくその男の子がメィシャさんの弟なのだろう。

 そうだったのか…… だからメィシャさんは長い事行くことを拒んでいたのか。


 メィシャさんは無理矢理笑顔を作る。



「このお店は元々は弟がやりたいって言ってたんだ。 今日はようやくその夢が叶った。 だからせめて弟が好きだったこの花を飾ってあげたかったんだよ」



 まるで泣いているかのような花は鈍い光を放ち続けている。

 それは嬉しさなのか悲しみからくる涙なのかどちらにもとれるようにも見える気がする。



「だからさ、改めてありがとうね。 この花を見るとすぐ傍に弟も一緒にいるようなそんな気もするよ」


「メィシャさん…… その事なんですが……」



 思わず言いかけた言葉を飲み込む。 服の裾が強く摘ままれている。

 ああ、言わなくてもわかってるよシェリア…… シェリアも見えてるんだろ?


 ちらりと視線を移し、シェリアを見れば青い顔で必死に頷く。

 動悸が激しくなっているのがわかる。 体がまるで鉛のように動くことを許してくれない。



「ん? なんだい? 何か気になることでもあったのかい?」


「あ…… いや……」



 言葉は途切れ途切れ、まるで喋るなとでも言いたげなその視線が突き刺さる。

 そう、私達にははっきりと見えているのだ。



「疲れたよね、今お茶を入れるから待ってて」



 天上に張り付いているさっきのアンデットが。

 その生気を失った顔は真っすぐ私達を捕らえ、口元からは体液を零し、その黒ずんだ指がきちりきちりと動くたびに寒気がはしる。


 いつからそこに居たのだろうか。 いや、それよりもこの状況をどうすべきか。



「ふぅ…… うぅぅ……」



 シェリアが吐く吐息が震えている。

 動かせるのは辛うじて指先だけ…… 聞いたことがあるこれはたしか金縛りという奴だ。


 アンデットは私達を先ほどと同じように眺めるだけ。

 だがそれが気味の悪さを増長させている。



「はい。 お待たせぇ、メィシャちゃん特製ハーブティー」



 ことりとテーブルに置かれたのはハーブの香りのする紅茶。

 氷がカランと動きグラスの音色が響く。



「ん? どうしたの二人とも? ずっとそっちばかり見て」



 くるりと振り返ったメィシャさんは私達が目を離せないでいる天井へと目を向ける。



「ん? ただの天井が気になるの?」



 え? 見えていないのか!?

 視線をメィシャさんに移し、もう一度天井へ戻すと先ほどまで居たアンデットは忽然と姿を消していた。



「いな…… い!? っはぁあ!」


「ぷはぁ!! 金縛りが解けた!」



 急に呼吸を思い出したかのように空気が流れ込んでいく。

 シェリアも同時に解けたようで大きく息を吸い込む。



「どうしたの!?」



 メィシャさんはわけがわからないといった風だ。 まぁ見えていないのだから急な行動の私達に驚いている事なのだろうが。



「い、いやさっきそこにあ……」


「あ?」



 言葉が出ない。 まるでその言葉を忘れてしまったかのように抜け落ちているのだ。



「シェリア…… 言えるか?」


「私も同じです。 言えません」


「そうか…… ごめん、なんでもないんだ」


「うぅん、なんか気になる感じだけどまぁいっか。 二人とも相当お疲れのようだし休むといいよ。 あ! ふひひ、ちょうど二階に余ってる部屋があるからそこで少し眠るといいよ。 お姉さんは少し出てるからさっ」


「い、いや…… 止めときます」


「う、うん…… 今は眠くないかな」


「そう? まぁいいわ、二人には二人の距離感があるわよね。 あ、店長」



 ゆっくりと扉が開かれる。

 そこには笑みを携える店長の姿。



「若いっていいわねぇ。 これは今回の報酬よ。 色々お願いしてもらった分弾ませておいたわよ」



 手渡されたのは袋に入った金銭。 それはずっしりと重さを感じる程入っていた。



「こんなに!? 受け取れませんよ!」


「いいのよ。 その分宣伝すればすぐに戻ってくるわよ。 気にするんじゃないわよぅ」


「そうそう、若者は御厚意に甘えるべきよ」



 にひひと笑うメィシャさんはシェリアに小声で耳打ちしている。



「……に充ててもいいのよ?」


「にゃにお!? 言ってるんですか!!」



 顔を真っ赤にして否定するシェリアの様子を眺め、鞄へと報酬をしまう。


 外は既に暗くなり始めている。 明日出発する為にも今は十分な休息をとらなければ。



 それにしてもさっきのはいったい……

 思い起こすのは先ほどの気味の悪い光景。

 あれから悪寒はなくなったものの、嫌な気配は消えていない。


 疲れているだけだったら良かったんだがな……


 その夜私とシェリアはあのアンデットの存在が気になって眠ることが出来なかった。


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