特別編 その2 ~2~
店長と呼ばれたオネエの熊型獣人は緑のエプロンのポケットから依頼書の用紙を取り出す。
冒険者の依頼というものは大きく分けて二種類。 一つ目は依頼者が冒険者組合に正式に登録し、依頼を他の冒険者組合と連動して依頼するやり方。 そして二つ目、依頼者が直接依頼書を書き、冒険者本人へと契約を結ぶやり方。 今回は二つ目の名指しの依頼という事になる。
「直接の依頼という事ですか?」
「ええ、もちろん報酬は弾ませておくわよ!」
「あ、でも店長、ここを建てた時のお金ってそんなに残ってなかったんじゃ……」
「あらやだッ!! なんでそのことを先に言わないのよッ!!」
二人は顔を見合わせ落ち込んだ表情をみせる。
その表情から余程重要なことだったらしい。
なんだかいたたまれないな……
「あー…… 私達がここに立ち寄った目的なんだが、休める場所を探していたんだ。 それに食料も心もとないから暖かな食事を頂けると嬉しい」
本来の目的は休める場所を見つける事だった。
キルアさんもシェリアも同じように頷く。 今は金銭面よりも物資の支給の方が有難い。
その事を伝えると獣人の二人は手を取り目を輝かせる。
「それは本当!? 食事と宿ね、お安い御用よッ!! 腕によりをかけてミィシャちゃんが振舞うわよッ」
「はいっ、頑張りますよ!!」
ずいっと店長は私の顔の前に顔を寄せると、嬉しそうな声で答える。
だから…… 距離が近いっ……
圧迫感に苛まされ、店長は話し始める。
「それで依頼内容の話なんだけどね、このマジックアイテムを使ってこの海の家【アクアマリン】に来たくなるような写真をたくさん撮って欲しいのよ! もちろん私達も色々協力はするわよッ!」
手渡されたのは緑色の四角い木箱のようなマジックアイテム。
どうやらこの箱の側面を回すことにより写真が撮れるものらしい。
「貴方達もこの先の冒険者の街を目指しているんでしょ? そこで写真を宿泊施設に配って欲しいの。 そうすればここの事が知れるでしょ? お客さんも集まる! 君達の知名度も上昇! いいことずくめの目白押し!」
黒髪獣人のミィシャさんは瞳を輝かせ飛び跳ねる。
「うん、それなら私達が広告塔となってここの良さを広めましょう!」
シェリアは楽し気に手を叩く。 たまにはこういうのも悪くはない。
「なら決まりねッ!! 実はその撮影にぴったりな良いものがあるのよ!」
パンと子気味良い音を響かせ店長はシェリアとキルアさんの肩を掴むと、奥にあるカーテンの部屋まで歩き始める。
「これから二人にはこの撮影に相応しい格好に着替えてもらうので、男性の方はここで待っててもらいたいです!」
「え? あ、ああそういうことか」
ミィシャさんに呼び止められ、袖をくいっと引かれる。
何だろうと思い屈むと耳元でミィシャさんは小さな声で話しかける。
「覗いちゃ駄目ですよ?」
吐息が耳に当たりこそばゆい。
しかしそれ以前に私が覗くと思われている事が心外だ。
というか店長はいいのか? 男じゃないのか!?
カーテンが閉められ、なまめかしい衣服を脱ぐ音が響く。
慌てて後ろを向き、雑念を消えろと心に言い聞かせる。
すると中でこちらにも聞こえる声が響く。
「なっ!? これを着ろというのか?」
「えぇええ!? ほ、ほとんど隠せてないじゃないですか!」
「アンタ達良い武器を持っているんだからアピールしていかなくちゃ駄目よッ!!」
「そうですよぅ、個人的にはこっちの方が似合うと思います」
「む、無理無理無理!! 見えちゃうよ!!」
「これは装着するのが難しいな」
「き、キルア!? ほんとにこれにするの!? わ、私も……」
「違うわよ、これはねもっとこうするのよッ」
「ひゃぁあ!? どこ触っ、あんッ! 待って待って、自分でする、からぁッ!!」
シェリアの叫び声はこちらにまで聞こえる。
考えるな、これはまやかしだ。
うろうろと歩き回ること数分後、カーテンは勢いよく開けられる。
「お待たせしたね! 実に完璧に仕上がったよ」
「びっくりすると思うわぁ、私達の目に狂いわなかったのねッ!」
エプロン姿の二人の後ろから現れるのは斬新な布面積の少ない黒の水着を着用したキルア=エンドレア。
凶悪な胸はさらに過激な物へと変わり、思わず私の方が目を逸らしてしまうほど。
それにしても布面積が少なすぎるっ!! 一歩間違えればはみ出てしまうほどに絶妙に収まっている胸はキルアさんにとっては気にすることでもないのか堂々した出立だ。
「ん? 何故目を逸らすんだ?」
「それを私に聞かないでくれ」
慣れるには十分な時間が必要だ。
そのキルアさんの後ろに隠れるようにカーテンを体に巻き付けたシェリアは赤い顔でミィシャさんに尋ねる。
「ほ、ほんとにこの格好で写真を撮るの?」
若干頬は上気し、涙目となってしまっている。
「ええ、大変お似合いですよ。 さぁさぁ恥ずかしがってないで」
「ああっ!?」
カーテンを思い切り引っ張られ水着姿のシェリアの姿が露となる。
シェリアの水着は緑色のビキニ、胸元には可愛いリボンが結ばれている。
髪に赤いハイビスカスの花飾りが添えられ大変似合っている。
「はうぅ…… 変じゃないでしょうか?」
「凄く似合っているよ」
顔を真っ赤にしたシェリアは慌てて外へと駆けだしていく。
ミィシャさんがニヤニヤとした笑みを浮かべ歩み寄る。
「お兄さんも隅におけませんなぁ」
「う、うぅん」
■ ■ ■ ■ ■
ログハウスの中をある程度撮影し終わり、今度は外での撮影に映ることとなった。
天気はこれ以上ない程晴れ渡り、日差しは暑いほど。
外観や、綺麗な湖を撮影しているとふと声が掛かる。
「んふふ~ お兄さんやぁい、こっちでちょっと手伝ってもらいたい事があるのよねぇ」
ふわふわとした呂律で話すのは、獣人のミィシャさん。
その手には氷の入ったグラスを手に持ち、私を手招きする。
この感じ、まさか酔っているのか?
見れば店長もお酒を作り飲みながらシェリアとキルアさんと話している。
とりあえず呼ばれたのでミィシャさんの元へと駆け寄る。
「なんでしょうか?」
「ふふっ、今度はぁ私も撮ってあげるからぁ、ちょっとこれを」
ミィシャさんは撮影のマジックアイテムを私から受け取ると、エプロンのポケットから透明な液体入りの瓶を代わりに差し出す。
「これは?」
「これはねぇ、日焼け止めなの。 この天気でしょ? 水着の彼女達にぃ塗ってあげて欲しいの」
「私が…… ですか?」
ミィシャさんはふらつく足取りで私の手をしっかり掴むと軽くウインクする。
「君にしかできない事なのよっ」
ミィシャさんはそう呟くと鼻歌を歌いながら徐に砂浜に布を敷き始める。
「はいはぁい。 二人とも今から日焼け止めを塗るからうつぶせになってくれるかしら」
「む、わかった」
「はい」
素直に従い砂浜に敷かれている布に寝そべる二人に思わず汗が流れ落ちる。
これは絶対私が塗るとは思っていないな……
ちらりと視線をミィシャさんへと移せば既に撮影の準備は済ませている。
うつぶせになる二人の背後へ回り、蓋を外す。
まずはキルアさんからか……
刺激の強すぎる背中、翼の部分を避け、垂らすように液体をかけていく。
くっ、目のやり場に困る。
「ひうっ、思った以上に冷たいのだな」
普段は聞けないような甘い声がキルアさんの口から洩れる。
「はい。 でも慣れてくれば大丈夫になりますよぅ」
ミィシャさんは嬉しそうに撮影機を構えながら話す。 顎でくいっともっとかけろと促してくる。
複雑な気分でさらに垂らしていく。
「んっ…… ふぅっ…… くっ」
甘い声がキルアさんの口から洩れるたびに罪悪感に苛まれる。
「キルア?」
横で同じように寝そべっていたシェリアが異変に気付き、振り返る。
「アリア様…… 」
「い、いや、これはだな。 やってくれと頼まれて……」
その瞬間ぱぁんという音が響き渡る。
しっかりと私の頬にはシェリアの手の跡が残ったのだ。
ミィシャさんはその後笑いながら交代、私は再び撮影へと回り、今度は二人が湖に入りながら、楽しむ様子を何枚か撮影したのであった。




