かつての仲間
透明な球体の膜へと手を伸ばすとまるで引き込まれるように中へと引っ張られる。
「うおっ!?」
体制が崩れるのをなんとか堪え、引き込まれるその先へと歩みを進める。
眩しい光が全身を包む。
その光が収まるとそこはまるで別世界であった。
広大な荒野が一面に広がり、見上げれば先ほどまで居た中庭の場所がかなりの大きさになっている。
まるで縮小された世界。
その荒野の中央に集まるのは青い騎士服を着た騎士が数十人。 そして懐かしい顔ぶれも見られた。
思わずその懐かしい後ろ姿に声を掛ける。
「カナリア!!」
びくりと小さな体が跳ねる。
黒のレースをふんだんに使用したドレス、ピンク色の髪は天辺でお団子を形作り、垂れ下がった前髪が風で揺れる。
あの頃と変わらないブレインガーディアン第六部隊隊長カナリア=ファンネル。
振り返り唖然とした顔で私の姿を捉える。
「あ、アリア!? えっ!? 本物なの!?」
「アリアだ。 間違いねぇ」
その隣に立つのは黒髪の筋肉質なギガント、驚いた顔で嬉しそうに笑う第三部隊隊長カルマン。
そして、咥えていたキセルを落としたのはワフクに身を包んだ青髪のヒューマン、第七部隊隊長キール。
三人とも無事だったのだな。
思わず笑みが零れる。
「アリア殿の知り合いか?」
キルアさんは穏やかな声で耳打ちする。 その息が耳に掛かり少しこそばゆいと同時に無性に恥ずかしくもある。
「あ、ああ。 私が騎士だった頃に仲間だった隊長達だよ」
「ブレインガーディアンの隊長達か」
デニーは頷き、三人の姿を見つめる。
「えっ!? はっ!? し、知り合いだったのですか!?」
ブルムンはそのことに非常に驚いているらしく、先ほどよりも挙動がおかしくなり始めている。
青い騎士服を着た人達の中から一人紫色の髪をお団子にして、青い眼鏡をかけた緑色のローブを羽織るメアン族の女性が私達へと歩み寄る。
「ブルムン、連れてきてくれてありがとうございます。 私がゼアル騎士団の副隊長を務めますモルファと申します。 以後お見知りおきを」
「あ、はい。 私は【オルタナ】のリーダーであるアリアと言います。 今日は誘って頂きありがとうございます」
少し頭を下げるとモルファさんは眼鏡を指で押し上げ、話し始める。
「ええ、話はマクミラン様から伺っております。 それにしても連合軍の方とは随分と面識があるようで、まぁそれもそうですか。 貴方は元ブレインガーディアン第一部隊隊長であるアリア=シュタインで間違いありませんね」
「うっ」
どうしてそれを、という言葉が出る前にモルファさんは続けざまに話す。
「そして貴方がアルテア大陸騎鳥軍副団長キルア=エンドレア、ギガントのお方がガルディアンナイト隊長デニーですね。 随分異色の組み合わせでありますね」
いったいどこからその情報を!?
まだこの大陸へと渡って間もないというのにあまりにも知られ過ぎている。
「ゼアル騎士団の情報量を舐めないで頂きたい。 服装や恰好が多少違くても調べればわかるのです」
小さな胸を張りどや顔で眼鏡を押し上げるモルファ。
そこに割って入るのは背丈が子供と同じほどに小さいエルフの女性であるカナリア。
「無事なら無事って伝えなさいよッ!!」
不機嫌そうな顔で私の腹をぽかりと殴る。
その手には力は入っておらず、震えていた。
「悪いな…… あの時は助かったよ」
「馬鹿。 来るのが遅いのよ。 皆心配してたんだから」
目元に光る何かを指で弾き、カナリアは不機嫌そうな顔でそっぽを向く。
「あの…… まだ私が……」
「それにしても、随分と探し回ったんだぜ? ま、俺は生きていやがると思っていたがな」
懐かしい笑い声でカルマンは笑う。
「あの……」
その時ドカリと肩を組まれる。
「おいおい。 隅に置けないなアリア~。 どこからこんな美人を連れて来たんだ? 妹ちゃんが見たら怒り狂うこと間違いなしだぞ?」
ニカりと笑うキールさんはちらりと横目でキルアさんを見る。
「キルアさんは仲間です。 キールさんが期待している関係ではないですよ」
「そういうことだ」
「相変わらずかぁ、まぁアリアらしいがな」
「っつ!? 私の話は終わってませんよッ!! なんですか、さっきから私の話を遮って!! 終いには泣きますよ!! ええ、泣いてやりますよっ!!」
急に態度を変えたモルファさんに思わず戸惑う。
まるで拗ねた子供のように泣くモルファさん。 だが、周囲はまるでいつもの事かのように笑っている。
これが…… 普通なのか……
「わーった。わーった。 ちゃんと聞いてやるからよモルファ嬢」
カルマンが苦笑いで宥める。 ガルディアに居た頃もなかなかこういった光景は見ないものだ。
モルファさんは銃著不安定なのかな?
モルファさんは目元の涙を拭い、腫れた瞳で話し始める。
「い、いいですか、この場所ではあらゆる魔法や攻撃がぶつかっても時間が経てば修復されます。 その為この場所で私達は模擬戦を行うのです。 いくら強大な魔法を行使してもこの空間は破壊することが出来ません。 今日の任務内容は後に来る大陸戦争に向けての個人の能力の向上です。 ここで実戦に限りなく近い模擬戦を行う事で戦場での役割を決めていきます」
なるほど、戦争での戦いは主に地上戦。 個人の力がいかにどこで発揮できるかが重要となる。
そしてこの広大な荒野であれば、余計な障害物もない為に実力が見やすいのか。
球体の中という異空間の中であっても不思議と肌を撫でるような風が吹いている。
これも魔法の力なのだろうか。
「勝負は一回限り一対一で行います。 実戦を想定して戦ってもらいます。 ……そうですね、今日はゲストの方も来ていますし、一試合目、カルマンVSデニー。 二試合目、キルア=エンドレアVSキール。 三試合目、カナリア=ファンネルVSアリア=シュタインで行きましょうか」
「なっ!? 私達も模擬戦に参加するのか!?」
「ええ、見学だけというのはあまりにも寂しいですから。 それに、知っておきたいのですよ貴方達の実力を、私達は定期的に模擬戦を行っているので戦力はわかっているので」
「へぇ、あの神童との戦いかよ。 いいじゃねぇか、細かい事はよ」
「やり辛い相手だ。 相手がカルマン殿とは……」
デニーが珍しく言葉を漏らす。
「デニーはカルマンと知り合いだったのか?」
「ええ、私がブレインガーディアンに居た際に配属されたのがカルマン殿の部署だからな」
「そーゆーことよ」
なるほど…… だからか……
「私はこの男とか」
「君と戦えるなんて光栄だ」
キルアさんは差し出された手を払いのける。
「私をその辺の女と思わないで貰いたいな」
「気の強い女性は嫌いではない」
キールはニカりと笑う。
カナリアは私を見ると零すように笑う。
「まるであの頃に戻ったみたいね」
「ああ、随分と懐かしいものだな」
「言っておくけど手加減なんてしないわよ」
「ああ、そのつもりだ」




