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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第四章 リーゼア大陸
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懐かしい再会

 トリシアさんに促され、近くのブラウン色の来賓用だと思われるソファーへと移動する。


 トリシアさんは手に持つランプに灯りを灯し、テーブルの上へと静かに置く。

 オレンジ色の優しい光が二人の影を写し揺らめく。


 柔らかなソファーへと腰を降ろすと、トリシアさんは何故か隣へと座る。

 対面が空いてるのだが。


 急に距離を詰めるトリシアさんに視線を彷徨わせる。



「どうした? 随分緊張しているようだが?」


「い、いやってからかわないでくださいよ」



 トリシアさんは笑顔で微笑む。



「ははっ、相変わらずの反応だな。 その反応だと彼女もできてないみたいだな」


「らしくない事しないでくださいよ」


「久しぶりだったからな、弟の成長を見ていたわけだよ」



 騎士団長になる前、隊長であった頃のトリシアさんはいつもこうして私をからかってきたわけだが、騎士団長となってからは随分そんなやり取りもなかったな。

 そういえばよくトリシアさんは私の事を弟扱いしていた。



「それよりもトリシアさんはどうしてこんな時間にこのような場所に?」



 もう灯りも消された室内は驚くほど静かで、先ほどの騒動の後だというのにどうしてトリシアさんがネア様の屋敷に居るのが不思議でならなかった。



「ああ、先ほどまでネア様と少し話をしていたのだよ。 途中でどこかへと席を外していたが、ちょうどさっき戻ってきてね」



 トリシアさんはテーブルに置いた書類をトントンと指で叩く。

 なるほど、私がヘンリエッタに襲われる前にネア様はトリシアさんと会っていたのか。



「それにしてもアリアと会うのはあの日以来だな。 今まで何があったのか教えてくれないか?」



「そうですね……」



 私はトリシアさんにこれまでの経緯を掻い摘んで話した。


 アルテア大陸での奪還の戦い、ガルディアンナイトとの戦い、全て話すには時間が足らなすぎるが、要点を絞って話すとトリシアさんは深く頷く。



「そうかアリアは冒険者になったのだな。 アルテア大陸の現状は知っていたつもりだったが…… アルバランが王として君臨するようになってからの動向がまだ読めてなくてな、そういった経緯があったのだな」


「はい。 セーブザガーディアンも最初から支配下にあったらしく、統括であったドルイド=アンダーソンとも戦いました。 奴は【能力】を用い、その能力のリスクに耐えきれず崩壊していきました」



 一騎当千の如く凄まじい力を持つ【能力】ではあるが、それ相応のリスクを晒している。

 力に溺れた者の末路ということだろう。



「そうか、最初から間違っていたのだな…… それにテオもか……」



 急に顎に手を添えて考え込むトリシアさん。



「……どうかしましたか? 何か引っかかることでも?」


「いや、何でもない。 明日はアリア達はどうするんだ?」


「私達はトリシアさん達が明日ゼアル騎士団の軍事演習の方へ向かうと聞いていたのでそちらに行こうと思っていました」



 トリシアさんは朗らかな笑みを見せる。



「そうか。 それはカナリア達も喜ぶな、こちらに来ているのはカナリアとカルマンとキールだ。 きっとあの三人もアリアに会いたがっているはずだ」



 懐かしい名前に胸が弾む。



「三人ともリーゼアにきているのですね」


「ああ、詳しい事は明日三人にも伝えておくよ。 なんでも明日は模擬戦をやるらしいからね、そっちの冒険者の仲間達も誘って見においでよ」


「はい」


「おっと、そういえば君が一番心配していたであろう第一部隊の事なんだが……」



 思わず息を呑む。



「アリアを逃がした後カナリアと二人で監獄へ忍び込み奪還したよ。 今はこの大陸の南の離れた大陸にいる」


「本当ですか!?」



 私の替わりに囚われてしまった皆は無事…… よかった。 


 トリシアさんは私が喜ぶのを見ると少し申し訳なさそうな顔でポツリと零す。



「ただ…… その道中でセレスは何者かに連れ去らわれてしまった。 おそらくだが、ガルディアに……」


「そんなっ…… 」



 クソッ…… セレス……

 なんとか救える方法はないのか!?



「トリシアさん、ガルディアにまた忍び込む方法はないのですか?」


「助けたい気持ちはわかる。 だが、今ガルディアは軍事力強化の為に厳戒態勢を引いてる。 潜入するのは不可能だ」


「ぐっ…… そうですか……」


「セレスも弱い人間ではない。 今アリアが無理に乗り込んでも返り討ちに合うだけ。 今は機会を待つんだ」


「ですが……」


「気持ちはわからなくはない。 だが今はその時期じゃない。 後にゼアルとガルディアは大規模な大陸戦争に発展するだろう。 狙うとすればその時だ」



 やはり避けられない戦いになってしまうのか……

 だがその混乱時であれば囚われているセレスを助け出せる。

 もはやそれしか手が無いか……


 徐にトリシアさんは私の頭をワシワシと撫で始めた。



「なっ!?」



 思わず飛びのく、トリシアさんの突然の行動に動揺が隠せない。



「あら? いつもセレスにしてあげてた割にされるのは苦手なの?」


「み、見ていたんですか」


「まぁ、あまり思いつめるんじゃない。 なにかしら他にも悩みを抱えて処理しきれなくなるのがアリアの悪い癖みたいな所があるからね。 さて、あまり長居してもあれだからそろそろ私は戻るよ」



 トリシアさんはすっと立ち上がり、私を見つめ笑う。



「じゃあ、明日楽しみにしているよ」


「はい。 それではおやすみなさい」



 去っていく後姿を見送る。


 再び灯りの消えた廊下には静寂が戻ったのであった。 






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