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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第四章 リーゼア大陸
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 ネア様は地面へと降り立ち、両手で握りこぶしを形作る。

 細い体に似つかわしくない体術に【ヴァルハラ】の恐ろしさが垣間見える。


 鋭い視線は上空に停滞するヘンリエッタに向けられ、ネア様は腰を落とすと大きく息を吸い込む。

 心なしか体から噴き出る蒸気の量が増えた気もするが……


 一体何を……


 大気が揺れる。 張りつめた空間が歪む様にぐにゃりと歪む感覚。

 平衡感覚を失うような前後左右不安定な感覚は、ネア様から発せられている。



「【龍眼】」



 濃いネイビーの瞳は瞬く間に金色へと色を変えていく。

 それだけじゃない、ネア様は徐に虚空へと手を伸ばし次元収納らしきものに手を突っ込んだ。



 訝し気にその様子を見るヘンリエッタは再び白いサーベルを造り上げていく。


 ネア様が取り出したのは黒の光沢のある革製の手袋。

 それを徐に両手に嵌めるとネア様は不敵に笑う。



「さて、続きじゃの」



 地が爆ぜる。


 踏み込んだネア様は一直線で上空へいるヘンリエッタへと向かう。


 速い。


 だが、ヘンリエッタもその真紅の瞳を動かし、目標を捉える。


 硬質なそれでいて甲高い音が響き渡る。


 火花を散らし、ネア様の拳とヘンリエッタの白いサーベルはぶつかり合う。


 軍配が上がったのは拳のほうで、白いサーベルは脆く崩れ去る。


 だが、それは既に分かっていた事らしく背後から二本目を取り出し、的確にネア様の死角から襲う。


 その攻撃を紙一重で躱し、肉薄する距離にまで詰める。


 激しい殴打はヘンリエッタの肉体を引き千切るかのように吹き飛ばしていく。



「ぎぃいいい!!!」



 崩れかけた腕を動かし、ヘンリエッタはネア様の体へと糸を張り巡らせていく。 



「細切れになれっ!!!」



 交差するように腕を動かすヘンリエッタだったが、既に交差する腕は残されていなかった。



「あぁああああ!!!」



 まるで吹き飛ぶかのように距離を取るヘンリエッタ。

 額からは汗を流し、息も絶え絶えだ。



「フレア!!」



 灼熱の爆炎が息つく暇を与えずにヘンリエッタを包み込む。



「【完全切断】」


「!?」



 瞬く間に爆炎は切り裂かれ離散していく。 まるでヘンリエッタを避けるようにして。



「お主…… その力をどこで……」



 先程の余裕など消え失せたかのようにネア様は驚愕に目を見開く。


 文字通り直撃するはずだった爆炎魔法は横一線に切り裂かれていたのだ。

 魔法を切る。 このこと自体が既に以上の域に達している。


 炎や爆炎という気体に限りなく近い魔法を切り裂くのはほぼ不可能に近い芸当。

 たとえ切り裂いたとしても瞬時に元の形へと戻ってしまうからだ。


 それを可能足らしめるのが、異世界人の力【能力】だ。



 ヘンリエッタの傷は再び修復されていたらしく、すっかり元通りとなっている。



「ふぅ…… 秘密かしら……」



 そう、ヘンリエッタは【能力者】でもあったのだ。



「マクミラン!! さらに強化するのじゃ!!」


「はい」



 叫びにも似たネア様の言葉により、マクミランさんは懐から結界魔法のマジックアイテムを取り出し、ベランダの床へと並べる。


 マクミランさんが手を翳すと、先ほどの光よりも強い光が溢れ、固有結界へと伝わっていく。



「ぐっぐぅうううう!?!?」



 まるでそれは突如降りかかる重力のような衝撃がヘンリエッタに襲い掛かる。


 ついに宙へと羽ばたく事すらできなくなったヘンリエッタは地面へと墜落していく。



「お…… のれ……」



 それを追うようにネア様は地上へと急降下、ヘンリエッタの投げ出された両手、蜘蛛の脚を瞬く間に粉砕する。



「が…… ぁ……」



 四肢を潰されたヘンリエッタは苦悶の声を上げる。



「これで終わり」



 ネア様は拳を引き絞る。


 だが、その一撃は振り落とされることは無い。



「……アリア、どうして止めるのじゃ」



 体は自然と動き、私はネア様の前へと立ちふさがる。

 どうしてもこれ以上は戦ってもらいたくはなかった。


 本来であれば、私を狙い襲ってきた相手に対し情けを掛ける事等あってはならない。


 だが、心が叫ぶのだ。 


 立場は違えどこの子も私と同じなのだと。

 王女の肉体が私をそうさせるのか、はたまた合成キメラという歪な同じ存在に同情しているのかそれはわからない。


 きっと浅はかな考えなのだろうか。 



「この子も被害者なんです。 私はこの子の元の姿、サーシャ=ウル=ガルディアだった頃に会ったことがあるのです。 放っておくわけにはいかない」



 たとえ心があの時と違っていても、私は迷わず割って入るだろう。



「……アリア」


 少し悲し気な表情を浮かべたネア様はふっと力を緩める。

 体から立ち上っていた赤い蒸気は鳴りを潜め、瞳の色も元のネイビーに戻っていく。


「マクミラン…… 後を頼むのじゃ」


「はい」


 マクミランさんは手際よく魔封じの鎖でヘンリエッタを捕縛していく。


 この選択が間違いかと言われればそうなのかもしれない。


 だけど、私は何度同じ壁にあたったとしても変わることは無いだろう。




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