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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第1章 ガルディア都市
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元々人であった物

夜にも更新しようと思ってるのでこうご期待です。

 


「ぅおあああああああああああああああああああああ!!!!!」



 絶叫に近い叫び声を上げた少女の母親らしき女性の体は、ボコボコと泡立ちみるみるうちに肥大していく。 変化が止まるころには体長五メートルほどの異形な化け物へと姿を変えていた。

 赤髪は地面に着くほどに伸び、爪は刃のごとく鋭い。 獲物を探すような眼はもはやいままで人間であったことすらわからないのであろうひどい有様であった。



「お…… 母さん……」



 振り向いた異形なる者は感情はもう残ってはいないのだろう、娘を前にして肉食獣が獲物を狙うような眼を向け、雄たけびを上げながらその凶器となった爪で引き裂くかのように振りかざした。



「危ない!!」



 考える暇もなく即座に少女をすくい上げ、その場から離脱した。

 するとさっきまで少女がいた場所は大きくえぐられ、もしもあのままであったら少女の命はなかったであろう。



「この外道がぁあああ!!」


「マア…… 精々時間を稼いでクダサイ」



 怒りのままに叫んだ。


 許せなかった。 これは人を人とも思わない外道のやることだ!

 この子が一体お前に何かしたというのか!!




 そこでようやく気が付く。


 私にしがみつく少女の背が震えていることを。



「ゴメン、大きな声を出してしまって……」


「あり…… がと…… 私の為に怒ってくれて」



 赤い髪の少女はぎゅっと服の(そで)を握り、漏れる泣き声を押し殺しながら必死に耐えていた。


 私は…… この子の為に何ができるだろうか……


 ひとまず安全な場所まで移動し、そっと少女を降ろす。


 こうして改めて少女を見るとこの大陸出身でないことがよくわかる服装と姿であった。


 赤い髪は手入れされていたのがわかるくらいに艶やかで肩までの髪を何か所か結んでいる。 フードをかぶり隠していたのであろうこの大陸にはいない猫耳であり、その翡翠色(ひすいいろ)の瞳には今も涙が(にじ)んでいた。 幼い顔立ちでありながらも年齢はおそらくは十六歳くらいのようであり、恰好は大きなフード付きのコート、中はシルクのようなきめ細やかな刺繍(ししゅう)(ほどこ)された服を着ていた。


 この姿には見覚えがある。 アルテア大陸の獣人種(ケモッテ)である。



「ここで待っていてもらえるか?」


「お願い! ……お母さんを…… 楽に…… してあげてぇ」



 涙ながら嗚咽(おえつ)を無理やり抑え込み、絞り出すように話した言葉は、胸の奥に深く刺さった。


 私は何の為に騎士になったんだ! 悲しみから人々を守る為だろ!! 



「君の無念は必ず晴らす! だから私からもお願いだ、そんなに自分を責めないでくれ君のせいなんかじゃない!」



 少女の手からは血が流れていた。 母親を失ったショックと何もできなかった後悔で地面を何度も、何度も叩いたのだろう。 それ以上に少女の心は傷ついたのだ。


 苦しかったのだ。


 叫んでいたのだ。


 自分のせいだと何度も責め立てたんだ。



「あ…… りがとう…… 騎士さま……」



 少女は座り込み(こら)えきれなくなった思いを吐き出すかのように泣き出した。


 もう我慢しなくてもいいんだ。 君が悪いわけじゃない。


 振り返り、少女の母親だった者に向けて再び歩き出す。



「隊長! どうやらまだ大きくなってるようです!」


「あれが人間だったなんて…… とてもやりずらいっす……」


「兄様! 絶対にあの母親の魂だけは救ってあげましょう!」


「こんなのあんまりだよ…… 私たちがなんとかしなきゃ」



 想いは皆同じだった。



「ああ、母親の無念を晴らすぞ!」


「「「「はい!!」」」」



 絶叫が轟く。



「うぉあああああああああああああああああ!!!」



 五メートルほどに大きくなった体はこのダンジョンの天井付近までに到達し、その威圧感はさっきまでの大鬼をはるかに凌駕するものである。

 見境なく当たり散らし、破壊を尽くす姿はもはや災害に近しいものであった。



「今楽にしてやるからな……」



 一直線に駆ける。 次元収納から長剣を引き抜き、地面を火花を散らせながら腕と思われる個所を切り上げた。



「ハァアアアアアア!!!」



 手応えはあるがその肉塊はとても固くなかなか刃が奥まで入っていかない。



「おぁあああああああああああ!!」



 複数に増えた腕を振り回し私をを吹き飛ばそうと迫る。



「隊長!!」



 ジャスティンが盾を構え、(かば)うように振るわれた腕との間に体を潜り込ませる。

 金属同士がぶつかるような激しい音をたてて、盾に腕が当たる。 その衝撃はかなりのもので二人は吹き飛ばされる。



「ぐっ! 重!!」


「っ!!」


「フリーズ!!」



 大きな氷柱の刃が肉塊に激しく突き刺さる。



「ぉうああああああああああああ!!!」



 雄たけびをあげ、その動きを鈍らせるとすかさずカナンとパトラが援護射撃を行った。



「アクアショット!!」


「ウインドショット!」



 次々に打ち込まれる水属性と風属性の弾丸は大きく肉塊を(えぐ)っていき、吹き飛ばしていた。

 だがまだ足りない。 瞬時に肉塊は元の形へと再生していく。



「ぉうあああああああああ!!」



 複数の腕を暴れさせ、頭上にあった大理石の鍾乳洞を破壊していく。

 急いで大楯を次元収納から取り出し、ジャスティンを引っ張り大楯の中に隠れた。



「シールド!!」



 セレスのほうは、大きめのシールドを展開したようだ。 散弾の如く降り注ぐ鍾乳石(しょうにゅうせき)はその強固なる守りに防がれた。


 大楯をすかさず収納し、今度は次元収納からシルバーのハルバードを取り出し、迫りくる腕を(かわ)し、切り刻み、そのまま回り込む様に駆け出す。


 ジャスティンとカナンは避けながら確実に肉塊を少しずつ(えぐ)っていった。

 確実に小さくなっていくのがわかるくらいに私達は攻撃の手を緩めず、たたみかけていた。




「なにをちんたらやってるんだお主は」



 どこからともなく発せられた知らない声に私達は動きを止めざるを得なかった。


 痩せぎすの召喚士の足元には影が広がっていき、中から一人の男が現れた。


 黒い純度の高いフルプレートを着込み、大きな長剣を担いだ大男。


 その姿はあの時のまま、そうか…… 繋がっていたのか……




「助かりマシタヨ、もう魔力が底をついて居たのでネ」


「一旦戻るぞ馬鹿者が、あれほど手を出すなといっただろうが」


「お前が早くしとめないノガ悪いんですよユーアール」


「お主は先に戻っていろ、儂も挨拶がてらすぐ戻る」



 影に飲まれる奴隷商の男はその姿を消した。


 高度の転移魔法…… クソッ……


 目前に歩み寄るフルプレートの男に視線を向ける。



「お前はあの時の……」


「また会ったな小僧、お主らとはどうやら深い縁があるようだな。 だが惜しいのう」



 黒色のフルプレートの大男は続ける。



「フレアエレメント! ハイオーバーパワー!!」



 爆炎が長剣にまとわりつき男は地面に思いっきり長剣を叩きつける。



「フレア!!」



 すかさず左手に火球を作り前へと突き出す。

 叩きつけた長剣の先からは火柱をあげた爆炎がフレアによって威力を増し、まるで爆炎の巨大な塔のようであった。


 天井まで覆うほどの熱量の暴力が押し寄せていく。


 その爆炎の波は瞬く間に肉塊を飲み込み、こちらに迫っていた。



「ウォータ!!」



 とめどない水の津波が爆炎と衝突し弾ける。 セレスが放った魔法でなんとか爆炎を押しとどめることに成功したようだが、力は拮抗していて完全にはいまだ退(しりぞ)けてはいない。



「そこの娘もなかなかやりおるわ、時間が無いのが実におしい、また次回会うときは派手にやりあおうぞ」



 その言葉を残し黒いフルプレートの男は足元に広がった黒い闇に飲まれていく。



「くそっ!」



「いったいこの都市で何がおころうとしているのでしょう?」


「それよりもあの大型の魔物は!?」



 視線をさまよわせ、さっきの大型魔物を探すと、そこには焼けただれ動かなくなった肉の破片が落ちているだけだった。

 この様子だと魔物は完全に息絶えたようだった。 


 ……結果的に倒したのは私達ではない。


 複雑な感情が入り交じる。


 はっ、あの少女は……


 少女のもとへと急いで向かった。

 うずくまり母親の最後を目に焼き付けていたのだろうその目はもう泣いてはおらず、新たな決意を胸に秘めた顔をしていた。



「……終わったよ」


「ありがとう…… ございました。 騎士様名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、私はアリア=シュタインだ。 君の名前はなんて言うんだい?」


「アリア様…… 私の名前はシェリア=バーン=アルテアと言います。 気軽にシェリアと呼んでください。 助けて頂きありがとうございますそして失礼ながらもお願いがあります! 私に剣を扱うすべを教えてくれませんか」



 バーン=アルテア? どこかで…… まさか……



「な!? その名を聞くかぎり君はアルテア大陸の姫君なんだろ? そんな君が剣なんて」


「私が…… 私が力があれば母さんを救えたはずなのに、絶対にあの男を許さない! そしてこの手でいつか殺してやる!!!」



 フーと気性を荒くしたシェリアは手から血が出てるのも気にした様子もなく歯を食いしばっていた。



「復讐するというのか……」


「ええ、私はもう決めたんです」



 ぎゅっと今度は切なそうに体を抱え悲しい目をしたシェリアはどこか大人びて見える気がした。



「考えておくよ、それにシェリアはこの大陸からしたら敵側の人だ、確実に狙われることが多いだろう。 騎士団のほうも安全ではないからしばらく身を(ひそ)められるところを探さないとか……」


「そうですね、この猫耳や獣人特有の体なんかはあまり隠し通せる自信がないです」



 誰にも見つからない場所…… か。



「うーん…… あ! 一つだけ隠れられそうな所があったな! ここを出たらまずはそこに身を隠して生活してくれ、私もたびたび訪れるから」


「ありがとうございます! アリア様!」


「アルテア国の姫様に様付けで呼ばれるのはちょっとアレじゃないか? 私のことはアリアと呼んでくれ」


「いえ、私はアリア様と呼ばせていたただきます! これだけは変えられません!」



 その熱意に思わずたじろぐ。



「そうか…… わかった。 じゃあとりあえず上の階で戦っているはずの勇者達と合流しようか」



 私たちはシェリアを引き連れ、上の階に戻るため歩き出した。



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