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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第四章 リーゼア大陸
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フェンの能力

 音が、景色が流れるようにまるで逆再生されるかのように巻き戻る。


 ドルイドの【加速】による攻撃はフェンに当たる直前、フェンの唱えた【拒絶】によりまるで弾かれるように吹き飛ばされる。


 これがフェンの持つリーゼアの勇者の能力。


 おそらくは時間操作の類だろうか……

 痛みが晴れたことに疑問を感じ、左足を見ればドルイドに吹き飛ばされる前の無傷な足に戻っている。


 這いつくばった姿ではなくしっかりと二本の足で立ち、瓦礫の上を踏みしめる。



「これは…… いったい……」



 キルアさんも傷が癒え、その驚くべき現象に言葉を失う。


 攻撃を放ったドルイドはどうやら壁際まで吹き飛ばされたらしく、崩壊した瓦礫を押しのけ恨めしそうな瞳でこちらを睨む。


 視線を彷徨わせ倒れていたデニーの方へ向けると、先ほどまでの夥しい出血が無くなっている。



「な、何が…… 起こったんだ……」



 おそらくだが、彼女はドルイドの攻撃された事実そのものを拒絶し、無かったことにしたらしい。

 この能力こそがフェンの本来の【拒絶】の能力。



「はあっ、はあっ……」



 肩で息をするフェン。 慌てて駆け寄り肩を抱き倒れないように支える。



「大丈夫か!?」


「だ、大丈夫です。 上手く発動できてよかった…… 」


「ありがとう。 君のおかげで俺もデニーも助かった。 本来ならば君に頼むのは間違っていると思う。 だけど、負けるわけにはいかないんだ。 フェン、俺達に力を貸してくれないか?」



 相手は能力者。 対抗するすべはおそらくフェンの能力以外にないのだろう。

 俺達ではあまりにも能力者に対して無力だ。

 経験も知識もそんなものなどまるで役に立たないほどの壁が存在する。


 能力者と俺達はあまりにも力が違いすぎるのだ。



「もちろんです。 私も闇魔法で援護します」



 瓦礫を押しのけたドルイドはゆらりと起き上がり、顔を歪ませる。



「惨めなものですね。 そんな小娘に力を頼ろうとは…… 英雄の名が廃れるのでは?」


「私は英雄などではない。 私自身には力もなくその資格すらない。 仲間に助けられ運よく生き延びたまでに過ぎないのだから」



 賛辞の言葉も賞賛も私が受け取っていいものではない。

 ただ運がよく、これまで上手くいったのも仲間達のおかげである。



「まぁいい。 足掻いたところで私の【能力】に対抗するすべなどないのだから」



 来る。


 ドルイドは踏み込み、レイピアを振るう。

 先端は鋭く伸び、獲物を仕留める肉食獣のような動きでキルアさんへと向かって行く。



「まずはお前だ鳥人!!」


「スプラッシュエレメント!!」「フリージングエレメント!!」



 キルアさんの細剣に水流が纏わりつき、デニーの金槌に冷気が纏わりつく。


 二人が同時に武器を振るうとキルアさんの剣の剣先から水流が迸り、デニーの金槌の冷気でそれが瞬時に氷となる。



「チィ!!!」



 いくら優れた武器であろうと直前に出された壁に対応するのは難しい。


 激しい音を立ててレイピアは氷に阻まれ、弾かれる。



「ダーク!!」


「そんな初級魔法私に効くとでも…… チィッ!!!」



 そうだ。 この魔法は視力を奪う為の攻撃だけじゃない!! この魔法の最大の利点は発生する黒い霧によっての目くらましだからだ。



「うぉおおおお!!」



 次元収納からナックルを取り出し、ドルイドの腹部へと一撃を入れる。



「ぐぶっ!!!」



 大きくドルイドは吹き飛び壁へと叩きつけられる。

 レイピアを伸ばし過ぎていたが為の防御の隙をついた攻撃。


 だが、完全に当たる瞬間、奴は大きく体を逸らし威力を弱めた。


 すぐに態勢を立て直したドルイドは再びあの能力を使用する。



「【加速】!!」


「フェン!! 最大で頼む!!」


「はいっ!! ダーク!!!」



 周囲を覆うような濃い黒い霧は、瓦礫だらけの外壁だけの屋敷に充満していく。


 何も見えない。 


 だが耳を澄ませば煩いくらいに響き渡る早い足音がその場所を教えてくれる。


 飛びのき、横に居たフェンを突き飛ばす。



「きゃあ!?」



 直後、肩に激痛が走る。



「ぐぅっ!!」



 全て躱すことはやはり困難だったらしく、右肩をかなり刺され抉れてしまった。

 だが、目論見は成功だ。



「邪魔ばかりしやがって!!!」



 吐き捨てるようにドルイドは悪態をつく。


 この状況で狙われるのは必然的にフェンだというのはわかり切っていた。

 後はどう攻撃を避けるかだったが、お互いに盲目であれば音に頼るほかない。



「がぁっ!!」



 ドルイドから苦悶の声が上がる。



「我らは元より音を頼りに生きて来た。 見えない状況下でならこちらに分がある」



 キルアさんがドルイドを切りつけたようで、翼を広げ大きく距離を取った。



「調子に乗るなよっ!! 【加速】」


「【拒絶】!!」



 貫かれたはずだったキルアさんの体は瞬く間に逆再生され、負傷する前へと巻き戻る。



「はぁっ、はぁっ…… やらせないよっ……」


「ぐぅうう…… 貴様ァアアア!!!」


「砕け散れぇええええ!!」



 デニーが振るった金槌は冷気を纏い瓦礫を吹き飛ばす。

 氷を纏った瓦礫はドルイドへと迫る。



「あぁあああああ!!! 邪魔だぁああ!!」



 無数の突きは瓦礫を砕き、細やかな破片へと変える。


 破片を陰にして、次元収納から長剣を引き抜き振るう。

 長剣は大きな弧を描きドルイドの左腕を切り飛ばした。



「ぎゃああああああああ!!!」



 鮮血が舞い散り、ドルイドは絶叫を上げる。



「終わりだ。 ドルイド=アンダーソン」



 それでも倒れることはなくドルイドは歯を食いしばり、レイピアを握りしめると雄たけびをあげる。



「がぁああ!! こんな場所でぇ終わるわけにはいかないんだよおぉおおおお!!!」



 なんという執念。



「【加速】ぅうう!!!」



 その時だった。


 何かが音を立てて崩れゆく音が響く。



「は?…… おい……」



 見ればドルイドの足がまるで砂のように崩れていく。


 体の崩壊は止まらずまるで彫刻が崩れていくようにドルイドの体にヒビが入ると、瓦礫に倒れるようにドルイドの体は投げ出された。



「そん…… な…… どう…… して……」



 やがてその体は砂の粒子となり、後に残るのはドルイドが着ていた衣服だけがそこに取り残された。



「勝ったのか……」


「そうだ。 奴は能力を使いすぎたんだ。 その代償がこれだ」



 デニーは徐にドルイドが着ていた服を瓦礫の上から拾うと砂が勢いよく零れ落ちていく。



「聞いたことがある。 能力者は凄まじい力の代わりにそれに相応するデメリットが存在すると」



 そういえばマーキスさんの能力は回数制限があるって聞いていたな……



「おそらくだが、その能力が強ければ強いほどその影響は大きいのだと思う」



 ドルイドは能力に体が付いていかなくなったのか……


 ということは全ての能力者は何かしらデメリットがあるという事、フェンのデメリットはなんだ!?


 慌ててフェンの方を振り返ると青い顔をしたフェンはこちらに笑いかける。



「フェンは体に異常はないか?」


「……えっと ……今私に話しかけましたか?」


「え…… もしかして声が聞こえていないのか?」


「ああ、そのようだ。 フェンの能力のデメリットは聴力の低下だろうな。 まだ能力は二回しか使っていないからそこまで強い影響は出ていないみたいだが……」



 デニーは顎に手を置き深く考え込んだ。



「おそらくはこの症状も一時的な物のはずだ」


「なるほど。 今後は過度の仕様は控えたほうが……」


「待て、誰かくるぞ」



 キルアさんのその張りつめた声に再び緊張が走る。



「ここに居ましたかフェン様」



 その声は聞きなれない声であった。 


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