形勢逆転
まるで彼女の声に呼応するかのように群がっていた魔物は軒並み吹き飛ばされる。
一瞬の光景に思わず息を呑む。 あれが一軍を滅ぼす力の一端である【能力】なのだと。
彼女を中心に広がる衝撃に思わず足がふらつく。 おそらくは彼女を中心とした阻害効果がひろがっているのだろう。 認識されている私よりも魔物は激しく吹き飛ぶ。
だが、やはりその【能力】は不完全なのだろう。 マーキスさんの【能力】に比べると大幅に劣る。
何か条件でもあるのか、それとも言葉が違うのか。
しかしこれは好機だ。
魔物達が体制を崩している隙に、次元収納から小型のハンマーを取り出し、ありったけの力を込め天井目掛け放り投げる。
遠心力を加え、渾身の力で放り投げたハンマーは大きな音を立てて天井に衝突し、屋根を支える骨組みである梁を突き破ると軋みを上げた天井が一気に崩落する。
崩壊した屋根は瞬く間に二階席を飲み込んでいく。
「なあっ!?」
ドルイドは私の突然の行動にあっけにとられたらしく、そのまま瓦礫に巻き込まれていく。
思った通りの造りだ。 貴族の建物は見えるところであればふんだんに金をかけ、豪華に立派にしていくのに従って、目に見えない部分は疎かにしがちだ。
建物の中でも特に屋根を支える梁の存在は特に重要で、それが劣化したり折れたりした場合屋根が崩壊する。
だが、残されている時間は少ない。
次元収納からチェーンアームを取り出し、勢いよく射出する。
屋根が落ちるまで数秒もかからない。
着弾したチェーンアームは私を引き寄せる。 それと同時に屋根が落ちている事に驚愕している彼女を抱き寄せ、一気にバーカウンターの隙間へと体を潜り込ませる。
直後、轟音と共に激しい衝撃が響き渡り、屋根が魔物達を押しつぶしていった。
砂埃舞う中、崩壊した瓦礫の下、高価なバーカウンターは壊れることなく私達を屋根の崩壊から守っていた。
あくまでもこれは賭けでしかなかった。 この支えとなっているバーカウンターが無かったら私達も例外なく瓦礫に押しつぶされるところだったのだから。
さらに、頑丈ですらなかったらそのまま壊れていた可能性もあった。
そんな奇跡的に近い条件を満たしたことで、これがあまりにも無茶な賭けであったことに今更ながら血の気が引いていくのがわかった。
「はぁっ、はあっ、 だ、大丈夫ですか」
咄嗟だったために乱暴に抱き寄せてしまった彼女は私の腕に包まれたまま体を震わせている。
「た、助かったの……?」
涙目で見つめる彼女との距離が異常に近い。
四方を瓦礫に囲まれお互い密着し、身動きが取れないせいだが、非常にこの状態はまずい。
暗がりの中、彼女の息遣いだけがなまめかしく耳元に聞こえる。
思わず顔が赤くなる。
「っつ…… 一旦ここから出ましょう」
「はい」
腕を押し、身動きが取れないほど積まれてしまった瓦礫を動かしていく。 かなり埋もれてしまった為に動かすのに苦労し、瓦礫の山から這い出た頃には空が白んできていた。
「はぁ、はぁ…… ようやく出れた……」
「あの魔物達は……」
見渡せば崩壊した屋敷は外壁だけになっており、おそらくこの瓦礫の下にあの魔物達は下敷きになったはずだろう。
おそらくドルイド=アンダーソンもだ。
あの崩壊のタイミングでは闇魔法の転移ですら間に合わない。
確実に巻き込まれたはずだ。
その時、地震のような揺れを感じ、思わず屈んでで揺れに備える。
「きゃあ!?」
バランスを崩した彼女の手を取る。
震源はこの真下。 この揺れは下から響いている。 まさか……
直後瓦礫が吹き飛び、額や腕から血を流したドルイド=アンダーソンが恨めしそうな瞳で這い上がってくる。
「この失敗作がぁああ!! よくもこの俺に血を流させたなぁあああ! 許さんぞ! お前だけはこの手で殺してくれる」
狂気を孕んだ叫び、その張り付いた笑顔も醜く歪む。 怒りに染まり、まるで人が変わったかのようだ。
仕留め切れていなかった。 血を噴出しながらドルイドは腰に差していたレイピアを抜く。
「この私こそがあのお方のお役に立つのだ。 失敗など許されないのだよ」
そのレイピアは普通の物とは違う。 紫色の煙を噴出し、怪しく先端が揺れ、まるで生き物のように脈打つ。
あのレイピアもまさか魔剣の一つなのか!?
冷酷な笑みを浮かべるドルイドはゆっくりと歩み寄る。
その時であった。
「アリア殿は本当に厄介事に巻き込まれやすいのだな」
上空からの声に見上げると茶色い翼の生えた騎士、頼りになる仲間、騎鳥軍副団長キルア=エンドレアが瓦礫の上へと降り立つ。
「今度からは私の意見も聞いてくれると嬉しいんだがな」
フルプレートのギガントの騎士、元ガルディアンナイト隊長デニーはゆっくりと幻覚魔法の施された布を払いのける。
その布は景色に溶け込む貴重な代物。 ギガント程の大きさの物をいったいどこで……
「お前達……」
「私達は冒険者【オルタナ】だ。 仲間の危機に手助けするのは当然の事、裏切らないことを固く誓っている。 違うか?デニー」
「違わないさ。 頑固な仲間をフォローするのも仕事の内だ」
「そういう事だ。 お前が邪魔だと思おうが私達は私達の意志を貫く。 ただそれだけだ」
「ありがとう……」
私は…… 良い仲間をもったものだ……
ドルイドはその細い瞳を見開き、狂ったように声を荒げる。
「調子に乗るなよ? 愚民ども。 たかが雑魚が増えただけの話。 浅ましくもこの私を倒そうとお考えのようだが、その余裕をへし折って絶望に染めるのもまた一興。 かかって来いその自信を砕いてやるからさぁああああ!!」




