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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第四章 リーゼア大陸
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side カナリア=ファンネル ~魔法適正~

【リーゼア大陸 首都ゼアル】



なんとか首都ゼアルまでたどり着くことができた私達はその日のうちに荷物を運び、翌日からはゼアル騎士団の指揮下に入ることとなった。


ゼアル騎士団との交流を果たしたのは騎士団長であるトリシアさんの尽力のおかげ、やはりドラゴニア族であるフォルスさんの愛弟子という事が一番の要因だったのだろう。

岩礁が並ぶこのあたりは押収した貴族の屋敷が一つあるだけで、都市部からはそれなりに離れた位置にある。

鎖国国家であるリーゼアの首都ゼアルには他種族を嫌う者が多く存在する。

その為に仮の処置として首都からは少し離れたこの場所を提供して頂いた。



ここの空気もガルディアとは全然違うのね……



目を閉じ、息を吸い込めば街の内部にいるというのに潮の香りが色濃く感じる。

リーゼア大陸はそれだけ水の恩恵を受けている事に違いないのだろう。



「カナリア、待たせてしまったかな?」



そう声を掛けるのは噂の騎士団長、トリシア=カスタール。

先程ゼアル騎士団の本部へと向かっていたが、どうやら用を済ませ戻って来たらしい。


まぁそういう私もトリシアさんにシーレスで事前に呼び出されていたのだけれど。



「いえ、私も今来たところですので」



振り返り、見上げるとそこにはトリシアさんの他に同じくらい背の高い長い黒髪の女性が一緒に立っていた。

顔は凄く整っていて悔しいけど美人と呼ぶにふさわしい女性。

恰好はシンプルな黒いシャツと動きやすいジーンズ姿、手抜きのように見えるけど自然に彼女に合ってるような服装であった。



「紹介しよう。 こちらがリーゼアの勇者である。 フェン・リージュンさんだ」


「は、初めましてカナリア=ファンネルさん。 今日はどうかよろしくお願いします」



そう、今日私がここに呼ばれた理由はリーゼアの勇者である彼女、フェン・リージュンさんの魔法適正を調べる為だ。


緊張しているのかフェンさんはところどころ挙動不審だ。

顔は凄く大人っぽいのになぜかそういう仕草は同性から見ても可愛らしく思える。


それにしてもなぜ私の周りは背の高い女性が多いのかしら……


胸も…… 大きいし……


ちらりと自分の控えめな胸を撫でおろし、小さくため息を吐く。



「初めましてフェン・リージュンさん。 そう緊張なさらずテストと言われても気楽に思ってくれてかまわないわ」


「は、はい」



ガチガチね…… 逆にここまでだと珍しいわね。



まぁトリシアさんが言うには人慣れをあまりしていないと聞いていたのでわかっていた事だけど。



「カナリア、ガルディアの勇者のデータは持ってきているな?」


「はい、ここに」



シーレスでの通信で私が持ってくるようにと言われたのはオクムラタダシの魔法適正のデータ。

そういえばこの直後にトロンが行方不明になったんだっけ……


勇者という言葉にあまりいい思い出が無いのはきっとこのせいね……



「これを参考にして今回は行っていく。 早速始めようか」


「はい」



■ ■ ■ ■ ■



この場所は近くに大きな建物もない為こういったテストにはもってこいの場所だと思う。

稀に異常な数値をたたき出すセレスのような天才もいるけどあくまでもこれはテストの範疇。

障害物になる様な建物もなく、人もあまり寄り付かない押収された貴族の館の庭はそういうのに向いていた。

魔法を使用するフェン・リージュンとは対角になるように私は立っている。

その理由は狙う目標を定めているほうが魔法は成功しやすいからだ。


それに私であれば魔法の対処にも問題なく行えるというトリシアさんの考えでもある。



「ストーン!」



フェン・リージュンは手を翳し、土属性魔法を発動させる。


翳した手の前には小さな小石が生まれてはボロボロに崩れていく。


これは土属性に適性が無い証拠。



これも合わないのね……



適性があるかないかはその魔法の完成度による。

ちゃんとした形を造り自在に動かせるのであればその魔法は自分に合った魔法だと言える。

魔法として発動はするものの、本来の大きさより若干小さいのであれば使える魔法。

形が崩れ、すぐに魔法が掻き消えるのは合わない魔法。


非常にこういったテストをするうえで初期魔法は見た目にもわかりやすい。


本来であればその人にあった魔法が一つ、もしくは二つ存在し、それを鍛錬によって伸ばしていく。


使い込むことによって消費魔力を押さえれるようになったり、威力が底上げされたりもする。


極まれに魔法力を持たないアリアみたいな人も…… でもアリアは参考にならないわね…… 本来であれば魔法力を持たない人間なんていないのだから。



これで火、水、風、光、雷、土と適性は進んでいったわけなのだけれど……



今のところ結果は思わしくない。

全てが魔法になる前に崩れてしまうのだ。



「さ、才能がないのでしょうか……」



凄い落ち込みよう…… 見た目とのギャップがありすぎるわね……



「そんなことはありませんよ。 まだ魔法を使う事自体慣れていないのですから、魔法に必要なのは確固たる想像力なのですよ。 具体的にどのようになってほしいか強く想い描くのです」



そう、トリシアさんの言う通り魔法は構築する図面を只知っているだけでは発動などしない。


その魔法を理解し、形を思い描くことで初めて魔法となる。



「次で最後ですね、次は闇属性です」


「闇…… ですか……」



その日向のような顔が一瞬影を生む。

どうにも先ほどとは違う雰囲気に思わずこちらまで息を呑んでしまう。


フェンさんはすっと手を前に突き出し、瞳を閉じ魔法を紡ぐ。



「ダーク」



突き出した手の平から漆黒の大きな闇が光をも飲み込んでいく。

初級闇魔法ダークは、相手の視界を暗闇に染める阻害魔法。 効果は一時的に盲目にするだけであり気を逸らす程度のことにしか使えない。


だがこの魔法は一瞬で私の視界を闇に染め、音さえも消し去った。


例えるならばこの世界に一人だけ闇に取り残された錯覚に陥る。


これは適性があるって次元じゃない……


魔法を深く理解しているからわかる。



これは心のトラウマだ。



「エスナ」



浄化魔法を自分に施し、視界がクリアになっていく。



「適正魔法は闇魔法ね」


「……そうですか」



複雑そうな笑みを浮かべるフェンさん。

闇の想像力が大きいという事はそれだけ何かががあったということだから。



「数値も他の勇者であったオクムラを遥かに凌ぐ適正率ですわね。 トリシアさんはフォルスさんの闇魔法と比べてどう感じましたか?」


「ああ、フェンさんの方が威力も扱いも上のような気がする。 まだ慣れていないだけで使いこなせればフォルスを超える闇魔法の使い手になれるよ」



トリシアさんがこう言うのは珍しい。 おそらく本気でそう思っているのだろう。



「あとは【能力】の問題ですよね」


「……はい」



異世界人には共通して【能力】が備わっている。


本来であればこの世界に来た際に知りうる情報の一つらしいのだが、フェンさんは告げられなかったのだそうだ。



「まずは私の【能力】を見てもらった方が話が早いね」



トリシアさんは地面に両手をつき、【能力】を発動させる。



「【土木操作】」



手をついた地面から木が伸び一本の大きな大樹を作り出した。



「私の【能力】は姉から譲り受けたものでね、地中の土や木を操作して自在に操ることが出来る【能力】なんだ」


「な、何もなかった場所にこんな大きな木が……」



フェンさんは大木を見上げ驚きの声を上げる。



「何か手掛かりはないかい?」



フェンさんは悲しそうに首を横に振る。

これだけで何かが掴めたら私達は必要ないのだけれどもその心配はなさそうね。


私達は能力について調べ、独自の仮説を考えている。



「過去に、いいえ、前の世界で印象的な出来事や職業は思い出せるかしら?」



【能力】は過去、前に異世界人が居た世界で印象に残っている言葉、物、状態に起因する節がある。



必ずしもではないが…… オクムラはこの世界をゲームのような世界だと言った。

トリシアさんの姉の婚約者が譲り受けた【土木操作】、それは元をたどると異世界人であった婚約者の父に当たる人物。 その人の前の世界の職業は建築関係であったという。


そして、異世界人である村長。


彼は前の世界で剣道を習っていた高校生だった。


この【能力】がなにかしら前の世界に関係するものだとしたら、ある程度予想が立てられるはずなのだ。

口をつぐみ、今にも泣きそうな瞳でフェン・リージュンは語り始める。



「……私は…… 過去に虐待を受けていました……」



この話は聞くべきでは無かったのかもしれない。


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