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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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side カナリア=ファンネル~告げられる真実~

【リーゼア大陸 南部】


 ドラゴンとの戦いを終えひとまず冒険者組合本部へと集まることとなった。


 私は魔力の疲労や怪我で本来ならば安静にしているのがいいのだが、今回ばかりは話を聞かなければならないと思い参加している。


 治療道具が船に積んであったおかげで応急処置だけは済ますことができたのが幸いだ。


 ここは冒険者組合本部の会議室と呼ばれたところで、ギガントでも入れるような広い造りになっている。

 簡素なテーブルに椅子が立ち並ぶいわゆるシンプルな作りになっていて、しばらく誰も使っていなかったのだろう薄らと埃が積もっていた。



「クリーン」



 浄化魔法を発動させ、大方の埃を吸い込んでいく。

 これで咳き込むことなく座ることが出来るだろう。


 準備はこれで完了。

 綺麗になったテーブルと椅子に次々に座っていく。


 私達側に座るのは、左から順に私ことカナリア=ファンネル、カルマン、キール、村長と呼ばれる村の代表者、第一部隊であるジャスティン、カナン、パトラ。


 対面には騎士団長ことトリシア=カスタール、Sランク冒険者の管理者フォルス。



「カナリア、体の方は大丈夫かい?」



 トリシアさんが不安そうな顔で聞いてくる。

 トリシアさんもあのドラゴンの攻撃は食らっていたのだが、ほぼ無傷に近い。

 やはり私と騎士団長の力の差はかなりのものなのだろう。 



「まだ痛みますが、平気です」



 きっとこれも強がりだって見抜いてるんだろうけど……



「そうか、遅くなってしまってすまない。 こんなことになる前にもっと早くリーゼアへ渡るべきだったのかもしれないな……」



 いつになくトリシアさんの表情は暗い。



「あの、いったいガルド大陸では何があったのですか?」



 私達と分かれて既に四ヶ月が経とうとしていた。その間はガルド大陸に残っていて、連絡のつかなかった

 第二部隊隊長のストライフ=バーンを探しに行っていたはずなのだが。


 トリシアさんはその表情のまま話し始めた。



「そうだね、当初の目的はストライフを連れすぐにリーゼア大陸へ渡るはずだった。 だが、私が道中で見たものは地獄だったんだ。 ある村は女性や子供までも無残に殺され、酷い有様だった。 そんな村や抜け殻のように誰もいなくなった街を通ってようやくストライフが駐屯していた村まできたのだが、そこに彼はいなかったよ」



 テーブルの上にことりと刃こぼれしている剣が置かれる。


 これはまぎれもないストライフ=バーンが所持していた剣だ。



「こりゃあ行方不明ってゆうよりは……」



 カルマンの言う通り、騎士が剣を捨てることなんてまずしないだろう。

 それだけで何が言いたいのかわかる。 それだけで十分すぎた。



「ああ、遺体は見つけることはできなかったが、村の状態から見ておそらく……」



 トリシアさんが言葉に詰まる。


 咳払いを一つしてトリシアさんは続ける。



「それから私はできるだけ情報を集めていたんだ。 これから何が起ころうとしているのかをね」



 この閉ざされた場所では情報なんて入らない。 外が今どうなっているのかそれは貴重な情報だ。



「ガルド大陸、いいや首都ガルディアを納める新たな王アルバラン=シュタインは、アルテアを落とした」


「そんな馬鹿な!? あのテオさんと渡り合える実力の持ち主であるアルテア王が敗れたのか!! いくらなんでも早すぎる」



 キールが驚愕の声をあげる。



「たしかに随分早いのう…… たしか、停戦になる前、五年程力は拮抗状態のはず。 四ヶ月そこらで落とせる国ではないはずだが」



 村長はぴくりと眉間に皺を寄せる。


 そう、長らくアルテアとは停戦を結んでいたのはあまりにも力が拮抗していたからである。

 アルテアにはグルータルという魔物を使役して構成されている騎獣兵や、上空からの奇襲に特化した騎鳥軍、獣人族の奥の手である幻獣化を使用する等、脅威的な戦闘力を誇る戦闘集団国家だ。


 そんなアルテア大陸の頂点に立つ王が敗れた。

 これが何を意味するかは言わなくてもわかるだろう。



 それだけの力を保有している事の証明にほかならない。



「だが得てしてこの話は事実だ。 冒険者組合にもこの話は流れている」



 フォルスさんは腕組みをしながら答える。



「アルバラン=シュタインはそれだけで終わるような男ではない、おそらく近いうちにリーゼアへと本格的に攻め込むことになるだろう」



 アルテアは小国であったが、軍事力が高かった。

 それが敗れ次に狙うリーゼアはさらに大きな国家だ。


 つまり……



「本格的な大陸戦争が始まるのね……」



 今度は先の戦いなど話にならないほど大きな大陸間の戦争へと発展する。



「もはや時間の問題だろう。 まだガルディアの動きはあまりないようだが、必ず歴史上最大となる戦争に発展する」



 再び大陸間が炎と血に彩られるのだろう。



「そうなる前にちゃんと話を聞いておきたい。 フォルス…… この大陸で何が起こったのだ?」



 息を呑むような沈黙が降りる。


 フォルスさんは渋い顔をしながらもポツリと話し始めた。



「あまりいい話じゃない…… それでも聞くのか?」



 皆の気持ちは一つだ。 隠され、知ることを許されなかった真実が知りたい。



「そうか…… あれは十年も前になるときだろうか、突如私達は住処を奪われたのだ。 あの焼け落ちた集落の名はアレクサルド。 ドラゴニア族の国家もあり、皆が平和に暮らしていたのだ。 

 赤い鎧の騎士軍が現れるまでは……」



 赤い鎧の騎士……



「街は焼かれ、逃げ惑う人々は次々に殺された。 いや、殺されるだけならまだいい。 そのドラゴニア族の肉体は生物兵器の実験に使われた。 さっきも見ただろ、人間を魔物へと変貌させる魔道具の力さ、その力により多くの者がドラゴンへと姿を変えた」


「人間を魔物に変える魔道具!?」



 ガタリと先程まで静観していたカナンが驚きの声をあげる。



「知ってるっす…… 俺らも見たっすよ人間を魔物に変える魔道具」


「あれか…… アリアが報告した緋色のダンジョンの内容だったな……」



 トリシアさんも記憶に新しいといったところか。

 それにしてもそんな魔道具が存在していたなんて……



「では何故、フォルス殿はそのことを知って尚、今ドラゴンにならずにすんでいるのだ?」



 村長が眉根を上げ、核心を突く。


 そう、何故フォルスとセレス、ミラは無事だったのか……



「私は偶然だよ。 刻印を体に刻まれ、この大陸内からドラゴンを出さないように縛られたのさ。 仲間が次々魔物へと変わる中私はずっとその光景を見せられ続けたのさ。 何度も吐いたし、何度も泣き叫んださ」



 フォルスさんはくるりと後ろを向くと背中をはだけさせる。

 そこにはびっしりと魔法式が刻まれていた。


 だから管理者なのか……



「そして、あの二人だけは特別なんだよ。 王妃であったミラ=エルフィーデンとその娘セレス=エルフィーデンは」



 ミラ=エルフィーデン、セレス=エルフィーデンか……



「その特別な力を狙ったのが赤い鎧の騎士軍だ。 そして笑えないのが、その時に騎士軍の長を勤めていたのが、現ガルディアの国王となったアルバラン=シュタインなんだよ」



 歯が鳴るほどに怒りの表情に変わるフォルスさん。



「仲間の敵を撃つことも私にはできない。 この大陸に縛られている限りな」



 その魔法式は体に直接刻まれている。

 それはつまり消すことなど不可能ということである。



「トリシア…… アンタはこれから先どうするんだ?」



 フォルスさんはちらりとトリシアさんを見る。



「まずはリーゼア大陸側との接触を図るよ。 敵が定まってる以上私たちが取るべき手段は一つだ」



 私達はここで立ち止まるわけにはいかない。



「そうか……」



 フォルスさんは朗らかに微笑んだ。




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