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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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side カナリア=ファンネル ~二人の龍騎士~

 ドラゴンの強力な一撃により大地は大きく抉られ、土砂が巻き散る。



「がはっ!?」



 衝撃とその威力により大きく吹き飛ばされ、結界へと叩きつけられる。


 確実に直撃するはずだった攻撃は直前に逸れ、なんとか致命傷となる攻撃は避けることができた。

 だが、逸れた攻撃もその衝撃だけでこの威力。



「う……」



 脳を激しく揺さぶられたことによる影響で、まともに起き上がることもできない。


 だが、確信を持って言えることがある。


 あの時あのドラゴンはあのまま私を仕留める事が出来たはずなのだ。


 何故…… いや、考えすぎかもしれない。 ドラゴンといえども手元が狂うことだってあるはずだ。

 結果的に私は動くことすらできないのだから。


 ゆっくりとした動きでドラゴンは倒れふしている私のもとへ歩みを進める。



 時間は…… 稼げなかった



 歯を食いしばり、痛みに耐える。

 だけど誇りだけは絶対に捨てない。


 視線だけをドラゴンに合わせ、睨む。



「【土木操作】!!」


「グゥオオオオオ!!」



 突如として地中から伸びるいくつもの大木の幹がドラゴンへと襲いかかる。


 この攻撃は……



「間に合ってよかったよ…… カナリア。 後は私達に任せるんだ」


「トリシア…… 騎士団長……」



 霞む視界に映る姿はまぎれもないトリシア=カスタール騎士団長。

 フルプレートの全身武装の出で立ちで両腕を突き出し、大地から木々を操り結界の外からドラゴンの動きを食い止めている。



「フォルス!! あまり長くもたない、一点突破で頼む!」


「任せておきな【龍撃突貫】!!」



 凄まじい衝撃が結界に響き渡る。

 フォルスさんの体が青白いオーラをまとったと思ったらその力を手に持った方天戟に宿し、結界に叩きつけた。



「あぁああああああ!!! 砕け散れェエエエエ!!!」



 ビキリというひび割れた音が響き、結界にヒビが走る。


 破壊することなど不可能なはずの固有結界が……



「らぁあああああああ!!!」



 ガラスが割れるような音を立てて結界は弾けるように砕けた。



 凄い…… これがSランク冒険者……



「動けるか…… カナリア」


「ちょっと無理そうです……」



 トリシアさんが駆け寄り私を抱き起こす。

 それにしてもどうしてここにトリシアさんが……



「そうか、少々手荒だが許してくれ」


「え? えぇえええええ!?」



 トリシアさんは何を思ったのか私を宙へと放り投げる。


 思わず目をつぶり、衝撃に備える。

 とすんという軽い音とともに予想外にもふわっと全身をなにかが包む。



「今度は離さないようにしておけよ。 カルマン」


「ああ」



 怖々と目を開けた先に居たのは私を包むほどの大きな手の持ち主であるギガントのカルマンの姿。

 だがその顔の表情は悔しさに彩られていた。



「悪い、カナリア…… 俺にもっと力があればよ……」


「らしくない…… 顔してるんじゃないわよ…… 力がないのは私も同じ…… 今は見ていましょう…… あの二人の戦いを……」



 そう、まだここが限界なんて思わないで。

 力が足りないのなら、また強くなればいい。


 いつだって乗り越えてきたじゃない。


 視線を二人の戦いに移す。 学ぶものがあるはずだから。



 ■ ■ ■ ■ ■



 それにしてもギガントであるカルマンを追い抜いて二人は現れた。

 ギガントの中でも速いカルマンの速度を……


【龍撃】を使える龍騎士とはいったい……


 ドラゴンは覆われた大木の幹を引きちぎり、雄叫びをあげる。



「ギャオオオオオオ!!!」



 先ほどのトリシアさんの攻撃も足止め程度にしかなってはおらず、無傷のままだ。



「随分怒っていらっしゃるようで…… 住処を荒らされたことがそんなにお気に召さないか」



 フォルスさんは軽く方天戟を振り、構えを取る。



「フォルス…… 今まで隠していたな…… この場所の事を、このドラゴンの事を」



 トリシアさんがいつになく攻めた口調でフォルスさんに詰め寄る。



「おいおい。 無茶を言うなよ、こんな事まで把握するわけないじゃん」



 フォルスさんはいつもの口調であっけらかんと話す。 

 管理者であるフォルスさんならばこの場所をたしかに調べる機会はあったはずだ。



「ドラゴンとは今までも戦ったことはあったな」


「そうだね、ここでは珍しいことじゃない」


「……そう。 この大陸にしかいない」


「……」



 フォルスさんはバツが悪そうに黙ってしまった。



「なぁ、フォルス。 このドラゴンは元は人間じゃないのか?」



 え?…… 元人間?

 聞こえてきた言葉は空耳などではない。



「やっぱりトリシアにはバレちゃってたか…… そうだよ…… この子達は元々人間、ドラゴニア族だ」



 この魔物がドラゴニア族……

 さらにフォルスさんは続ける。



「だけど元に戻す方法なんてないよ。 倒すしかない、今までもこれからもそうだったんだから」


「後で詳しくそのことについて聞くからな」


「……」



 ドラゴンは雄叫びを上げ、驚くような速さで二人に迫る。

 またあの攻撃だ。 そう思ったときにドラゴンの背からいくつもの刃のようなものが射出されトリシアさんとフォルスさんに迫る。



「「【龍撃賢覚】!!」」



 凄まじい速さの刃の雨をいとも簡単に二人は躱していく。


 まるでどこに落ちてくるのかわかるかのような動き。

 あるときは半身で避け、当たりそうな刃は槍や方天戟で切り払っていく。



 あれだけの刃の雨を全て防ぎきるのは不可能だったのに……



 青白いオーラを纏った二人は、そのまま左右へと別れる。



「【土木操作】」



 地中から木や蔓が伸び、ドラゴンの動きを捉えようと伸びる。



「ガァアア!!!」



 ドラゴンはその口を大きく開けると灼熱の業火を迫った木々に放つ。

 一瞬にして木々は灰になり、余波の熱風が離れているこちらまで届く。


 その隙に迫ったフォルスさんが方天戟をドラゴンの横腹に振りかざす。



「おっとぉ…… さすがに騎士クラスじゃ通用しないか」



 ドラゴンは回転するように鋼鉄のような尻尾を振り回し、迫っていたフォルスさんを追い払う。



「だけど…… ダークグラウンド!」



 闇魔法ダークグラウンド、それは一定時間影に引きずり込む魔法だ。

 だけどこれは戦闘向けではない。


 なぜなら簡単に動けば抜け出せる魔法だからだ。


 一瞬だけドラゴンの動きが止まる。 だが、沈むことに勘付いたドラゴンは這い出ようと翼を広げる。



「【土木操作】!」



 左右から無数の木々が動きの鈍ったドラゴンを押さえつけていく。


 あの魔法は注意を逸らすための囮だったのだ。


 まるで手のように次々と木々がドラゴンの体に巻きついていく。


 その時ドラゴンの瞳が金色に光る。



「まずいッ!! 【龍撃不動】!!」



 眩しい輝きが一瞬放たれたと思ったら巻きついていた木々は一瞬で灰化し、光の衝撃波が広がる。



「間に合えッ!! ジオグラビティ!!!」



 闇魔法上位の深淵魔法である重力を最大付加で放つグラビティの上位、ジオグラビティ。

 光の奔流を飲み込むように地面を突き破り、こちらに迫っていた光の衝撃波をかき消していく。


 大きくえぐれた地形からその強大すぎる威力が物語る。


 フォルスさんが前に出て守ってくれていなかったら、カルマンも私もただその強大な力の前にはなすすべもなかっただろう。



「あっぶねぇ、この一体全部吹き飛ばすつもりかよ…… お前が守りたい街もこの程度なのかよ」



 フォルスさんは苦い顔でドラゴンを見る。

 先ほどの攻撃はドラゴンの肉体にも大きな負荷をかけていたようで、疲労しているのが目に見えていた。



「【龍撃追牙】!」



 !?


 フォルスさんの姿が一瞬で掻き消える。


 直後ドラゴンが大きくよろめいた。


 視線を移すとすでにフォルスさんはドラゴンの足元へと入り込み武器を振り上げている。

 あまりにも速すぎる。



 鮮血が舞う。


 あれほど攻撃が通らなかったドラゴンに始めて攻撃が通った。



「グゥルルルル!!!」


「硬っいな! もういっちょ!!」



 ドラゴンの振り下ろしの攻撃を躱し、その背中に一撃をさらに加える。



「ガァアアアア!!」



 痛みを知り、大きく暴れだすドラゴンに木々が巻きついていく。


 攻撃を放ったトリシアさんの姿はない。


 見失った!? いったいどこに!?



 その時上空からものすごい速さでトリシアさんが急降下していた。



「【龍撃突貫】!!」



 まるで隕石が落ちたかのような衝撃。


 いつの間にか上空へ飛上っていたトリシアさんが閃光のようにドラゴンの背に落ちる。


 その威力は絶大。


 ほとんどの攻撃を受け付けなかったドラゴンの背を貫き、大地を穿つ。


 真っ赤な鮮血が雨のように周囲に降り注ぐ。



 さすがに今の攻撃にはドラゴンも致命傷を負ったようで、その巨体を地面に倒し、動かなくなった。



 最強と呼ばれるドラゴン相手に二人は勝ったのだ。



 次元が違うというのはこのことなのかもしれない……



 ゆっくりとした足取りで二人は歩いてくる。


 ただその表情は晴れやかなものではなかった。




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