一周年特別編 二話
一通り私達は自己紹介を済ませ、さっそく第一部隊初任務となった。
トリシア騎士団長から手渡された今日の第一部隊の任務内容とは……
「貴族のペット探し…… ですか?」
セレスが困ったようなそんな表情で私を見る。
そんな顔をしてもらっても困る。 これもれっきとしたブレインガーディアンの任務内容なのだ。
主にブレインガーディアンの主な任務内容は四つ程。 都市内の安全を守る為の巡回任務。 送られてくる物資や備品の管理等を行う管理任務。 危険な人物の調査や資源の確保を行う調査任務。 そして貴族や指定依頼者等の個人的な依頼をこなす依頼任務の四つだ。 これを大体日替わりで部隊事に行う。
今回はこの依頼任務に当たる内容であった。
危険度は低いというか無いに等しいが、その内容に思わず頭を抱えたくなる。
「ああ、依頼主はカミレーノ=オールレーロ様。 ブレインガーディアンの維持費に費用を出してくれた方だ。 捜索依頼はペットであるグラシュ種の【けむけむちゃん】白地の体毛に茶色とオレンジのブチ模様だ」
グラシュ種というのは全身を体毛で覆われている小型のトカゲだ。
写真が…… あるみたいだな……
受付嬢から渡された封筒の中にご丁寧に額縁付きで写真が入れられている。
封筒を開き中身を取り出しテーブルの上に乗せる。
「これが…… 【けむけむちゃん】だ」
なん…… だと!?
私も初めて見たが…… これは……
パトラが青い顔をしてひきつった笑いを浮かべる。
「か、可愛く…… ない……」
セレスは口に手を当てて信じられないという顔だ。
「これが…… グラシュ種…… ですか?」
見た目はまるで丸々と肥え太った毛玉。 ブチ模様が病気の様に見え、それでいて顔は凶悪だ。
「モップっすか? 魔物っすか?」
「ジャスティン、モップに失礼だろうあれは魔物だ」
いやいや、カナン。 本来であればこれはちゃんとした小動物のはずだぞ?
いまいち自信が無くなってきたが……
その綺麗な額縁に嵌められている何とも言えないモンスターの写真を眺め、皆がため息を零す。
一体どれだけ食べさせたらこんなになるのだと……
資料に再び目を通すと信じられない一文を見つける。
「失踪から三日が経過、都市内のどこかに居ると思われる…… だと? この広い都市内のいったいどこにいるって言うんだ……」
思わず資料をぐしゃりと握りつぶしそうになった。 三日の間行方知れずだったものを都市内で探せと
…… 今日中に見つかるのか?
「もう絶対野生に帰ってるよね……」
「初日からこれですか……」
そんな言葉がでても仕方がない、貴族の依頼なんて私達の都合など度外視した物が多いのだから。
それでも断れない理由は、こういった貴族達の出資によってブレインガーディアンも成り立っているという事だからだ。
まだ都市内ならマシと考えよう。
たしかカナリアの部隊に来た依頼は別大陸にしか咲いていない花だったか……
あの時のカナリア達はたしか魔法で誤魔化したんだっけか……
よく誤魔化せたな……
まぁこの見た目ならそれなりの大きさであるからよく目を凝らせば見つかるかもしれないが……
願わくば都市の門番の人達が先に見つけて保護してくれてるといいんだが。
「とりあえず外に行こうか」
■ ■ ■ ■ ■
こういった依頼任務の際は鎧姿が一般的なのだが、今回は任務内容もこういった捜索物であるため私服姿だ。
鎧姿でいると都市内の人達に呼び止められることも多い、今日の所は巡回任務に当たっているカルマンさん達にそちらは任せよう。
しかし、今日が晴れで良かった。 雨の日にこういった捜索物はやりたくないからな。
「えーと…… 依頼主であるカミレーノ=オールレーロ様の屋敷が北区の一等地、その周辺から捜索を行っていこうか」
「「「「はい」」」」
【けむけむちゃん】はおそらく三十センチ程の大きさだろうから、よく目を凝らす必要があるな……
皆には写真の写しを渡してある。 見間違える事はあまり無いと思うが念の為セレスにお願いするか……
「セレス、集中力を上げる魔法を使えるか?」
「はい。 ですが使うのは初めてですので……」
珍しいな、大半の魔法を扱えるセレスが使用したことがないなんて。
集中力と視力を一時的に上昇させる【コンセントレイト】はこういった捜索系の依頼と相性がいい。
「これくらいかな…… エリアコンセントレイト」
青白い光が五人を包む。 その瞬間だった。
「わぁあああああ!!! 気持ち悪い気持ち悪い!!!」
「なんすかこれ!? 目がッ!! 目がァアアアアッスゥウ!!」
「うっ…… 吐きそ……」
パトラは絶叫、ジャスティンは目を押さえて地面に転がる、カナンはすぐに走って壁のある方へ……
「に、兄様…… 失敗です……」
震える声音でセレスが言う。
そうだな…… 失敗だな…… こんなに見えなくてもいいだろうに……
セレスが施したエリアコンセントレイトは私達の視力を著しく上昇させ、落ちている小さなゴミはおろか、人間の細胞までくっきりと見えてしまっている。
「と、とりあえず解除薬を飲もう……」
こういった場合に使うわけではないのだが、魔法対策として解除薬を持ってきてよかった。
■ ■ ■ ■ ■
「落ち着いたか?」
「……はい。 すみません兄様」
初めて使う魔法はセレスであっても調整が難しいのだな…… 私も勉強になった。
「気にしなくていいよセレス、失敗は誰にでもあるさ。 それよりも三人に謝っておこうな」
「あっ、そうですよね。 三人ともごめんなさい!」
ぐったりとしている三人にぺこりと謝るセレス。
衝撃的な体験をしてしまったわけだが、三人とも大丈夫だっただろうか……
「ふふ。 あははは」
パトラはお腹を押さえて笑う。
「突然でびっくりしたけど、なんだか親近感湧いちゃった。 天才天才と言われてたからなんでも完璧なんだーって思ってたんだけど、セレスも私達と同じように普通に失敗したりするんだよね」
セレスの顔が赤くなり俯く。
「あっ、責めてるわけじゃないよ。 なかなかできる体験じゃないしね、自分の細胞を見るのって」
「そうっすね。 てっきり隊長が自分の目に何か入れたんだと思ってたっすよ~」
「ははは、ジャスティン。 いつから目に入れてないと錯覚していた?」
「なん…… だと……」
顔面蒼白になるジャスティン。
「あっはは。 そんなわけないだろジャスティン。 冗談だよ」
「び、びっくりしたっすよ隊長…… 急に真顔になるのは止めて欲しいっす」
「ジャスティンだったら入れられてもおかしくなさそうだしな」
「それはちょっとひどいっすよカナン」
笑い声が広がる。
セレスも学生時代は周囲となかなか馴染めていなかったと聞く。
ただ、この場所でならセレスも安心して笑って過ごせるはずだ。
セレスと視線が合い、微笑み返す。
ようやくセレスは心から笑えていた気がしたから。
「セレスは私と回ろっ」
「あっ、うん」
「たいちょー行ってくるね」
パトラがセレスの手を取り、駆けていく。
「何かあったらシーレスに伝えるんだぞ」
「はーい」
元気よく手を振り、パトラは屋根の上を駆け上がっていく。
おおう。 そうやって移動するのか。 セレスが早くも置いてけぼりをくらっているぞ……
「んじゃ、俺らも行くっすかね」
「見つけられるといいんだが」
ジャスティンもカナンもそれぞれ探しに向かう。
……さて、私は少し遠いところから探してみるか。




