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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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悪夢

 微かに人の話し声が聞こえる。


 意識は曖昧で、薬品の刺激臭のような臭いが鼻孔を刺す。


 まるでこの身体が自分のものではないようなそんな曖昧な感覚。

 体はまったくといっていいほど動かすことが出来ず、微かに見える天井の模様に全く覚えがない事に気づく。 


 ここは…… どこだ?



 ぼんやりと、眠たさと疲労感に襲われてもいるのかと思っていた時であった。


 激痛。


 それも生半可じゃない程の激痛。



「あ゛あぁあああ゛」




 声にならない程の痛みが全身を襲う。


 何が起きているのか全くわからないが全身を貫くような痛みだけが巡りにめぐる。

 泣き叫ぶ声が、悲鳴が自分のものであることに気づくのは全てが終わった後であった。


 顔を動かすことが出来ない。


 涙は止めどなく流れ、喪失感だけが駆け巡る。 


 痛みは絶え間なく訪れ、ぼんやりとした視界に映るのは噴き出す血しぶきだ。


 致死量を遥かに超えた血が天井にまで飛び散っている。



 わからない。 


 わからない。 


 知りたくない。


 お願いだ。


 いっそのこと殺してくれ。



 絶望感が虚無感が喪失感が心を押しつぶす。



 ぐるんと瞳は裏返り、視界が暗転する。



 ■ ■ ■ ■ ■



「……様、アリア様!!」



 揺すぶられ、瞳を開くと泣きそうな表情のシェリアが覗き込んでいる。


 今のは…… 夢…… だったのか?

 吐き気がこみ上げてくる。 かろうじて飲み込み、寒気と頭痛の中上体を起こす。



「……大丈夫じゃ…… ないですよね…… どう見ても」



 さっきまで見ていたのはまるで悪夢だった。



「う…… シェリア…… か。 ……ここは?」


「こ、ここはメルアーデさんの屋敷の一室です。 あの魔物はデニーさんが倒してくれましたよ。 私達は麻薬を吸引してしまったので治療を受けていたところです。 アリア様は三日ほど意識を失ったまま…… もう起きないんじゃ…… ないかと……」



 堪えきれなくなったシェリアは目に大粒の涙を浮かべ、私に抱き着く。

 柔らかな髪が揺れる。 



「良かった…… 本当に…… うっ…… うわぁあ……」


「……シェリア」



 頭を撫で、その悲しそうな猫耳を優しく触る。



「すまない…… 心配をかけてしまった。 あそこで判断を間違えずすぐに引くべきだったんだ」



 あの時に気づくべきだったのだ。 密室の空間。 大量の麻薬。 少し考えれば出られない状況というのを一番に回避するべきだったのだ。


 だが、深くも考えず浅はかに戦いを挑もうと、罠の可能性があったのにも関わらず判断を誤った。


 これは私の失態だ。



「ぐすっ…… 気にしないでください…… アリア様だけのせいじゃ…… ありません……」


「それは…… 気にするよ。 私が指揮を執って行動に移したんだ。 シェリアもキルアさんも私の判断で危険に晒して死にかけたんだ。 本来であれば責めてくれてもいいほどだよ」


「……」



 シェリアは俯いたまま私の太ももに顔を押し当てて続ける。



「先ほどの…… 前にも…… ありましたよね」



 先程の…… というのは私が見ていた夢の話に違いないだろう。

 そういえばナウルに居た時もこの夢とは違った夢にうなされたものだな。



「今回の夢は…… ちょっと話ができるものじゃない…… な」



 悪夢の頻度はさらに増している…… 気がする。


 今回の夢は痛みそのものであった。


 炎の街の夢、私に語り掛けた女性の夢、テオの青年期の夢、もう一人の私が居る夢、そして今回の痛みの夢。


 消えない記憶の夢はこれで五つ目。


 どれもこれも鮮明だった。 関連がないとは…… もう言えないのかもしれないな。



「……メルアーデさんからもしばらくは安静で構わないと言っていました。 一番アリア様が重症なのですからゆっくり休んでください」



 シェリアはすっと私の傍から離れると、部屋の扉まで歩いていき、涙交じりの笑顔で微笑むとゆっくりと部屋を後にする。



 また…… 間違ってしまったのだろうか。



 頭痛がする頭を振り、再び横になる。



 もう眠るのが怖い…… な。



 すっと体をなぞると包帯が巻かれている箇所をおもむろに触る。


 包帯は巻かれているもののあの魔物が刺した傷跡はどこにも見当たらない。


 痛みすらすでにない。



 たしかにこの身体に突き刺さった。 

 血も流した。


 それだけの穴は塞がるのに時間がかかるはずだ。


 医療技術、回復魔法最善の手を尽くしてもおそらくは一ヶ月かかる程の重症の傷。



 それらがまるで消えたかのように消失している。



 はは、本当に私は化け物になってしまっていたんだな。



 いや、もしかしたら最初から私は人間ではないのかもしれないな。



「化け物…… か」



 想い返すのは幼少の頃の記憶。


 魔法が一切使えない事が証明されてから程なくして私は、落ちこぼれや化け物と陰で呼ばれる様になっていた。


 それからだっただろうか、セレスが来るまではずっと一人だったのは……


 今も助けを待っているであろう妹。


 救い出すまでは死なないこの身体に感謝しないといけないな。


 必ず救い出してみせるからな……


 ……皆を送り届けたら、一人で助けに行こう。 もうこれ以上は迷惑はかけられない。





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