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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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グラスの音色

【アルテア大陸 北東部 名もなき集落】



 ナウルに集まっていた者達が第二の襲撃から逃れるために選ばれたのは、ナウルから距離にして一日程の名もなき集落であった。


 集団で移動するにはあまりにも時間が無い中、これが限界であった。


 この場所はナウルからさらに木々の生い茂る森林の中を通り抜けなければたどり着けない場所。王国軍参謀のフェニールの判断で辿り着かれる可能性は低いと考え一時的な避難場所となった。


 住人の数に対して住居が余りにも足らない為に簡易テントを次々と設置している最中であった。



「王が亡くなりになられた!!」



 見張りの者が慌ててフェニールへと伝えられた悲報はほどなくしてすぐに集落全域に伝わった。 

 見張りの話では王は亡くなり、向かわせたアルテアの勇者は意識を失っているという事だ。

 なんでも敵側の女が悲鳴にも似た叫び声を上げたあたりから記憶が無いらしく、気が付いた頃には敵は去っていたとのことだ。


 フェニールはすぐに回収部隊を編成し、ナウルへと向かわせた。



 一晩経ち、回収部隊は一人もかけることなく帰ってきたことにフェニールは安堵したが、回収部隊が連れ帰った殿部隊の中には生きている者は一人もいなかった。

 唯一死を逃れたのはアルテアの勇者だけだが、激しく衰弱し、意識を失っていた。



「馬鹿だねぇ…… 私も運命なんてそう簡単に変わらないのはわかっていたはずじゃないか……」



 フェニールは帰ってきた殿部隊の姿を見て寂しげに声を漏らす。

 フェニールはある遺体の場所で足が止まり、まるで最初からわかっていたような辛そうな表情を浮かべる。 その遺体は国王であるゴートン=バーン=アルテアのものであった。


 腕の一部は欠損し、至る所に致命傷ともいえる切り傷が広がり、酷い有様であった。

 ただ、残ったその手には血に濡れた写真と思われるものがしっかりと握られていた。



「これからが大変だって時に勝手に眠りやがって…… あの世でミネアと仲良くやるんだよ小僧」



 フェニールは空を見上げる。

 真っ暗な空にいくつもの星々が競い合うかのように輝いている。

 灯りの少ない場所だからこそ星が良く見えるとはよく言ったものだとフェニールは思う。

 魂は肉体が滅びた後は天に上るとされている。

 この夜空に広がる星々はきっとそんな人達の魂のなのかもしれない。


 まるで絵本のような、子供が眠るときに母親が歌う子守歌のようなそんな素敵な物語であったならと願わずにはいられない。


 懐からキセルを取り出し徐に火を着けるとそれを思い切り吸い込む。



「ゴホッ、ゴホッ…… はは、煙が目に沁みていかんな……」



 その乾いた笑いは突然の騒動の声にかき消される。



「ま、不味いですよぅ、アルダールさん!!」


「おう。 わかってる、すぐに済ませるからよ」



 ざわざわと人だかりの中を進みゆく目立つ風貌のギガントの男。

 泣きそうな連れの者を半ば無視しながら、金髪のリーゼントのギガントは赤い特攻服に身を包み何食わぬ顔で人混みの中を進む。


 フェニールはこちらに向かってくる人物へと視線を向けると思わず苦笑いしてしまった。


 苦笑いしたのは何故この男が騒動を起こしてここまで来るのかをわかってしまったからだ。



 フェニールはギガントの男を見上げ言葉を紡ぐ。



「たしか名は……」


「アルダールだ。 悪いな邪魔したか? 邪魔じゃ無かったらこの場所少し俺に譲ってもらっていいか?」


「構わんよ。 あれをするのだろう?」


「話が早くて助かる。 レオーネなんて空気が読めなくてよう」



 呆れたようにアルダールは笑う。



「なっ!? 私がどれだけ穏便にしようといっても聞かなかったじゃないですかぁ!」



 泣きべそをかく金髪エルフのレオーネ、フェニールは軍事会談で会った時以来の事を思い出す。


 そうか、今はデニーの代わりにアルダールの部下となっていたな。



「私が後で責められるんですよぅ。 私ばっかりぃ」



 ついにレオーネは座り込み膝を抱えて泣いてしまった。


 アルダールは床にドカリと腰を下ろすと背負っていた荷物の中からギガントにしては小さめのグラスを二つ取り出す。



「ああ、そういえばアンタの名は聞いてなかったな」


「フェニールだ」


「そうかい、フェニール。 アンタも飲むかい?」


「久しぶりに頂こうかのう」



 ニカりとアルダールは笑い、さらにもう一つグラスを取り出す。

 そこに腰のベルトに括り付けていたギガント級の一升瓶を抜き取り三人分注いでいく。


 透明な液体がグラスに注がれると仄かなるアルコールの匂いが香る。


 アルダール、フェニールとグラスを取り、残ったグラスにそれぞれ手に持ったグラスを軽くぶつける。


 キンという軽やかな音色を立てグラスの中の酒が波打つ。



「国王はどんな奴だったよ? いい王様だったか?」


「ああ、どうしようもなく真面目な奴だったよ。 民の為に何が自分にできるかなんて脳筋の癖に頭を悩ませておった」


「はは、脳筋なら俺と同じじゃねぇか。 もっと早く出会っていたなら色んな話をしてみたかったぜ」


「そうだのう。 お主となら馬が合ったかもしれんからな」


「世の中良い奴ほど先に逝きやがる」



 アルダールはぐいっと一口でグラスの中の酒を飲み干す。



「こんなんじゃちっとも酔えやしねぇってのによ」



 揺れる灯りが寂しげに照らす。

 慣れ親しんだ友はもういない。 愛した者ももういなくなってしまった。



「それもそうだな」



 フェニールも同じように一口で飲み干すと小さくため息を吐く。



「おう。 いい飲みっぷりだ。 次もいくか?」



 そこに新たな客が翼をはためかせ上空からこの場へと降り立つ。 見慣れたあの茶色い翼、騎士鎧を身に纏う騎鳥軍団長ガイアス=エンドレア。



「アルダール殿とフェニール殿、一緒にいるとは都合がいい」


「ガイアス、回収作業の方御苦労。 用というのはアルタの報告だな」


「はい。 アルダール殿の証言からアルタ湾岸にてこれを見つけました」



 ガイアスは抱えた荷物の中から壊れたボウガンと、手首から切り落とされた銀のバングル付きの手を取り出す。 手は既に乾いて乾燥してしまっているようだ。 



「間違いねぇ、ガージェフの物だ。 これ以外は無かったか?」


「原型を留めていたのはこれだけで、後は持っては来れる状態じゃなかった」


「そうか」



 アルダールは寂しげに言葉を漏らす。



「それともう一つ、アルダール殿が言っていたアッシュロングのエルフの女性の生存は確認できなかった。 他の遺体もくまなく見て回ったが、特徴と一致する女性は見つかっていない」


「セスティも見つからず…… か。 わかった。 ありがとなガイアス」


「あんな惨い殺され方は初めてだ。 生存は望み薄とみていいだろう」



 フェニールは手首から切り落とされた手を眺め呟く。



「ふむ。 切り口が綺麗すぎる。 この世界にある刃物でここまで綺麗に切断するのは難しいだろうな」


「だとすると能力者…… ですか?」


「可能性は大いにあり得るな。 もっとも詳しく調べねばわからんが」


「なんにせよ敵は強敵だって事だ。 この空の様に前も後ろも真っ暗だ。 すぐに俺らもあっちに逝っちまいそうだぜ」



 アルダールはさらにグラスを取り出し再び酒を注いでいく。



「なら飲むしかねぇ! 男の一人酒程悲しいもんはねぇ、付き合ってくれるよなお二人さんよ」



 ニカりとアルダールは笑う。



「ふっ、仕方ないな」



 ガイアスは少しはにかみながら。



「くはは、それもよいな」



 フェニールは声を出して笑う。



「私を忘れてませんかぁ! 私も飲みます! 飲みますよう!!」



 レオーネが慌ててグラスを手に取り一気に飲むのを見て周囲の獣人達はつられて集まってくる。


 随分と葬式にしちゃ賑やかになったじゃないか。


 笑い声がいくつもいたるところで上がる。



 夜空に響けと、聞こえていたら笑って見ててくれよと思うのだ。


 夜闇にグラスの音色が響き渡る。


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