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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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相性属性

 けたたましい音と共に天井を覆っていた屋根が吹き飛んでいく。


 まるでむしり取られたかのように抉られ、外の空気が勢いよく流れ込んでくる。



「悪いな、遅くなった」


「ぐ…… デニー……」



 掠れた視界に映るのは巨大な大槌を持ったデニーの姿。 

 今の衝撃と音の原因はデニーが建物を破壊したからだろう。



「無理をするな、アリア。 こっちは任せておけ」


「う…… 頼んだ……」



 安心感からか急激に体が重くなり、意識はそこで途切れた。



 ■ ■ ■ ■ ■


【side デニー】



 どかりと地面に大槌を下ろし、まだ動けそうなキルア=エンドレアへと歩みを進める。



「すまない。 遅くなった」


「ゴホッ…… まったく…… だ。 敵は…… 上位のスライムだぞ。 気をつけろよ……」


「ああ、メイドさん達負傷者を運んでやってください」


「「「はい」」」



 キルア=エンドレアからシーレスでの緊急警告を受け、慌てて戻ってきていて正解だった。

 統率の取れた動きでメルアーデの屋敷のメイド達はアリア達を安全な場所へと運んでくれている。


 早めに治療できれば後遺症はでないはずだ。


 万が一を考え、メルアーデから複数のメイドを借り、住民の避難勧告を済ませておいた。

 建物は壊してしまったが、それもメルアーデが負担してくれることだろう。



「麻薬除去を最優先で行ってください。 効かなかった場合はこれを……」


「かしこまりました」



 メルアーデのメイドの一人に注射器入りの医療道具を渡す。

 この注射器は中に麻薬に対する抗生剤が複数入っている。 この依頼が始まる前に人数分は確保しておいて正解だった。 通常の医療と併用すれば治らないということは無いだろう。


 麻薬やられは依存性が高く、早期治療が最優先だ。


 さてこっちはメイド達に任せても大丈夫だろう。

 視線を戻し、分裂したスライムが徐々に元の姿に戻るのを眺める。


 大槌で扉諸共破壊したんだが、スライムは斬撃も打撃も効かないんだったな。



「あぁ…… 邪魔ばっかりぃ」



 怨念のような乾いたうめき声と共にスライムの形は再び路地で見た鳥人の女の姿へと変わる。


 しかし、この家もそうだが見た目には騙されるなとはよく言ったものだな。

 今は空間魔法が崩れ、本来の倉庫が露になっている。 幻術魔法も重ねてかけていたみたいだな。

 未だに奥にも同じような木箱が積み重なってることからここから運び出していたのだろうな。



「でも…… オマエ大きいから食べ応えありそうぅ」



 捕食者の視線が向けられる。

 なるほどな、路地ですぐに会話を切り上げたのはそういった素が出るのを防ぐためか。 あまり長時間はその姿は保てないみたいだしな。


 マール=コフィリアの姿で口元から涎のような粘液を垂らし、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。



「生憎食われるわけにはいかないのでな」



 背に差した長い金槌を取り出し魔法を付加する。



「フリーズエレメント!」



 凍てつく冷気が金槌を覆っていく。 それを見たマール=コフィリアの姿をしたスライムの表情が若干曇る。

 それもそのはずだ。 魔法には相性というものがあるように魔物自体にも炎に耐性を持つ魔物や雷に耐性を持つ魔物が存在するのだ。


 粘性スライムは属性で言えば水であり、斬撃や打撃は一切効かない。

 雷属性などで攻めるのが一般的だが……


 この個体は上位種。 粘液の色が黒色に見えるのは只の色違いなわけがない。

 その黒色の原因は砂鉄。

 金属を大量に体内に取り込んだことにより、水属性に加え、土属性の上位、鋼鉄属性まで加わった亜種。

 おそらくは死んだ冒険者や人間の防具諸共飲み込んだり、前回の初心者刈りで奪った防具などを食らっていたためだろう。



 鋼鉄属性に雷属性はまず効かないだろう。



 となると相性がいいのは水と鋼鉄両方に効果のある氷結属性。


 魔法適正には人によって個人差がある。 俺が魔法適正で開花したのは水と氷結。 今回は相性がいいのは俺の方という事だな。


 踏み込み、その距離を一気に縮める。

 ギガント種の一歩はそれだけで脅威になりえる一歩だ。



「!?」



 咄嗟に後ろに飛びながらスライムは手から無数の棘を射出する。

 鋭利な槍の弾丸とでもいうだろうか、まともに食らえば致命傷になりうる攻撃。


 目前に迫る棘を振り下ろした金槌で叩きつけると勢いよく砕け散り地面へと落ちる。


 やはり効果はあるようだな。


 氷結属性を宿した金槌は触れる瞬間に氷点下を超える冷気により瞬時に凍らせる。


 いくら鋼鉄属性が加わっているからといっても基本は水属性。 水属性は凍るのだ。


 棘の破片は液体に戻らず、付近に砕け散ったままだ。

 斬撃、打撃は無効のスライム。 だが私の武器は唯一攻撃を叩き込める氷結属性。



「ぎぃいいい…… 串刺しになれよぉおおお!!」


 スライムは憤怒により表情は歪み、おぞましい顔つきとなる。

 マール=コフィリアの姿のスライムの背から無数の棘が雨の様に目前へと降り注ぐ。



「!?」



 数にしておよそ百程か? 図体がでかいからと随分舐めた攻撃じゃないか。

 ふん。 テオ殿はこの数の倍の矢の雨を降らせるぞ。


 降り注ぐ棘の雨、それを機敏に避け、当たる様な攻撃は全て金槌で叩き落していく。


 砕けた破片が地面へと散らばる。


 なるべく動かなくてもいい様に最小限の動きで次々と砕いていく。



「まだだぁ!!」



 地面に落ちたいくつかの粘液から伸びる無数の棘、上空から迫る視界を埋め尽くすほどの棘。



「アースインパクトォオ!!」



 大地が隆起し、衝撃と共に周囲一帯が吹き飛ぶ。

 迫っていた地面から伸びる棘は隆起した岩石に巻き込まれ吹き飛んで、上空の棘はその衝撃破に形を無くし液体へと戻っていく。


 ギガント種に伝わる自衛手段の一つの土属性魔法。


 万策尽きたのか形が崩れたスライムはその姿を地面に沈めようとする。



「逃がすわけにはいかない!! クイックフリージング!!」



 急速に冷気が広がり、スライムの全身が見る見るうちに氷漬けになっていく。



「がぁ…… そん…… なぁ……」



 ふぅ…… 上手くいったみたいだな……


 体に付着した土埃を手で払い、氷の彫像と化したスライムの元へと歩み寄る。


 スライムという種類の魔物は魔石核というものを必ず持っている。

 凍って動かなくなったスライムを屈んで眺め、ある一部だけが胎動しているのを発見する。


 ここだな。


 徐に手を突っ込むと勢いよく砕け散る。

 掴んだ手のひらには魔石核。 それを腰に括り付けていた瓶へと放り入れ蓋をする。


 これでしばらくは復活はしないだろう。


 額の汗を拭い、アリア達が運ばれたメルアーデの屋敷へと向かう。



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