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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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扉の向こう

 見渡せば周囲には昼時だというのに人通りの姿すら見えない。

 元々貴族区画というのは人はあまり事情が無い限り近づかない事が多いが、それにしてもこの静まり返り方は異常にも見えた。


 まるで私達を誘っているかのようなそんな疑心暗鬼に陥りそうになる。


 なるべく静かにマール=コフィリアが入ったとされる一軒家まで近づく。

 高さは一般的なヒューマンや獣人の人達が住むような高さの二階建ての家。 赤い屋根、外壁は白く塗られていており、この建物は近づくと新築特有の塗料の臭いがツンと鼻にくる。


 つい最近建てられたのか?


 入り口である扉は正面の一つだけ。


 軽く引いてみるが案の定固く鍵がかかっている。



「ちょっとまかせてくれ」



 キルアさんがすっと前に立ち、腰の細剣を引き抜く。 いったい何をするのかとその様子を見守ると

 徐に扉の隙間に剣を差し込む。


 こういった木製の扉は使用上わずかに留め具の付近に隙間ができる。



「サイレンス」



 それは周囲の音を一定時間かき消す魔法。

 それを発動させたという事は…… まさか……



「ふん」



 ぐんとキルアさんは剣を振り上げるとあっという間に留め具は砕け落ちる。

 魔法の影響で音こそは出ていなかったが予想どうりだった。



「空いたぞ」



 思わず頭に手を当てずにはいられなかった。 これがもし間違いだったらと思うと背筋が寒くなる。


 完全に強盗や空き巣の手口なんだが……



 まぁこのご時世に貴族区画にあるこの家の扉が未だに鋼鉄製じゃないのもどうかとは思うが……


 こういった防犯目的のために貴族達の屋敷や家は簡単に入ってこられないように高価な防犯用のマジックアイテムを設置していたり、厳重に固めているはずなんだが……


 まるで急遽簡略的に作った住居のような……



 すっと手を扉の淵にかけゆっくりと開いていく。


 待ち伏せの考えもあったが今回は無いようだ。

 しかし、その光景に私達は思わず息を呑むことになった。


 外見の見た目と中身がまるで違っていたのだ。

 何の変哲もない飾気の少ない一軒家だと思っていた。 思い込まされていた。



「これは…… 空間魔法の一種なのか……」



 中には多くの箱詰めされた大型の荷物がずらりと並べられ、奥行きはかなり広い。

 例えるなら倉庫だ。


 すぐに私達は中へと侵入すると扉を閉め、大きめの荷物のある傍まで移動する。

 揺らめくランプの灯り、不自然に静まり返った倉庫に嫌な予感を感じながら。



「アリア様…… 見てください」



 シェリアが徐に置いてある大きな荷物の上に掛かった布を払いのける。

 露になったのは大量の短剣とあの時の麻薬の入った袋だ。

 この荷物全てがこれだとするとかなりの数だ。



「!?」



 前方からこつりこつりと足音が近づいてくるのを察知し、私達は息を潜める。


 

「あーあ…… バレちゃったぁ…… 上手くやったつもりだったんだけどなぁ」



 声の主は呆れた声で笑う。

 その声は先ほど路地で聞いたものとは全然違う声、聞き取り辛い乾いた声だ。



「まぁいいやぁ…… ここで消そうぅ……」



 これは殺気!? 隠れている場所がわかるのか!?


 慌てて飛び出せば先ほどまで居た場所に大きな木箱が激突し激しい音を立てて崩れる。


 視線を木箱を投げた人物へと向けると、そこには異様なほどに肥大した腕を持つマール=コフィリアの姿があった。



「お前…… その姿はなんなんだ!!」



 悲痛と激情を含んだ声がキルアさんから発せられる。



「外したぁ…… これじゃあエイシャ様になんて言えばぁ……」



 どろりどろりとマール=コフィリアの顔が崩れていく。

 それはまるで雨に濡れたペンキの様であった。



「ひっ…… 人では無かったのですか…… 」



 シェリアはそのあまりの変わりように恐怖を感じているのか腰が引けている。


 ぐちゃぐちゃと潰れていくように顔が変わっていく。

 それは男の顔であったり子供の顔であったり様々に変化していく。

 おぞましい光景だった。



「知性を持つ魔物の一種だッ!! 気をつけろッ!!」



 キルアさんが叫ぶと同時にマール=コフィリアの体がはじけ飛ぶ。

 粘液をまき散らし、雨の様に降り注ぐそれらを荷物を盾にして躱していく。



「自爆じゃないッ!! シェリアッ!!」



 シェリアを突き飛ばすと床に付着した粘液から鋭く棘が伸び、腕に突き刺さる。



「ぐぅう……」


「アリア様ッ!!」



 腕からは激しく血しぶきが上がる。 あの棘は思っている以上に鋭い。 

 床にまき散らされた粘液からは同じように棘が伸びており、木箱を貫通している。


 キルアさんは咄嗟に羽ばたき滑空したことにより攻撃は免れたみたいだ。



「ぐっ…… 大丈夫だ…… まだ動ける…… それよりも奴はなんて魔物なんだ!?」



 棘を引き抜き、床へと投げ捨てると床に付着していた粘液が収束し、また一か所へと集まっていく。



「避けられたぁ…… 次は外さないぃ」



 波紋の様に波打つようにまた人型へと形を変えていく。



「ここまでのものは私も見たことがないから確信は持てないが、おそらく上位の粘液スライムの一種だ」



 声に余裕のないキルアさんが着地し、告げる。


 粘液型のスライムというのは森林地帯に生息する本来で言えば精神を持たない魔物である。

 だがこの個体は人の言葉を話し、会話ができる知性を持った個体だ。

 難易度はCランクが一般的であり、魔法による討伐が当たり前とされる。

 突然変異とでもいうのだろうか、だがこのおぞましい感じはそんな生易しいものと似て非なるものだ。


 ぐるんぐるんと頭部にある顔が変わっていく。 種族など関係ないかのように変わる様は一種の仮説に行きつく。


 押し殺した声でキルアさんは続ける。



「いったいいままでどれだけの人間を捕食してきたんだッ!!」



 そう、顔の精巧な造りは真似して作られるものではないという事。

 決まった顔も繰り返し見られることからの考察として言えば、捕食した人間の姿や声も再現できるという仮定に行きつく。



「人間はぁ…… 食事の時にいちいち食べた物を全部覚えているのぉ?」



 嘲笑うかのような笑みを浮かべる。



「あぁああああ!!!!」



 キルアさんは剣を抜き放ち踏み込む。

 ある程度離れていた距離ではあったが瞬時に羽ばたくことによって踏み込みは加速し、一気に黒色のスライムの目前まで迫る。


 一閃。


 スライムの頭に当たる部分が切断され吹き飛ぶ。



「キルアさん!!!」



 首を無くした胴体から無数の棘が全方位へと射出される。

 切り払いなんとかキルアさんは直撃こそは免れたが、全身に浅い傷を負う結果になってしまった。


 やはりこの黒色のスライムに斬撃や打撃は意味をなさない。



「ぎぃ……」



 キルアさんの痛みをかみ殺すような声が聞こえる。


 再び粘液は収束し人の形を造る。 これでは魔法の使えない私は手出しできないだろう。



「しぶといぃ……」


「サイクロン!!」



 荒れ狂う暴風が余所見をしているスライムへとぶつかる。

 シェリアの放った暴風魔法で再びはじけるように飛び散る。



「避けるんだッ!!」



 再び飛び散った粘液から無数の棘が飛び出し、壁や木箱へと突き刺さる。

 木箱の中の麻薬袋に穴が開き、麻薬の粉末が巻き散る。


 周囲を粉塵が舞う。



「ぐっ、吸うなっ!!」


「サ、サイクロン!!」



 暴風が麻薬の粉末を奥へと押し流す。 だが、ここは室内だ。 この倉庫のような場所には窓すらない。

 この押しやった風も一時的な物でしかない。


 どさりという音を聞き、慌てて振り返ると呼吸を荒くしたシェリアが倒れ伏していた。

 魔法の行使の際にわずかながら吸い込んでしまったのだろう。



「ぐ…… シェリア……」



 慌てて駆け寄り抱き起す。

 自分のスカートのすそを引きちぎり、それをシェリアの鼻と口元へと括り付ける。


 密室は不味い。 早く外に出なければッ!!


 キルアさんも同じ考えなのか翼をはためかせ、入って来た扉まで一直線で向かう。



「逃がすわけぇ…… ないぃ」



 飛び散っていた粘液が扉へと一気に向かい隙間という隙間を覆いつくしていく。



「クソッ!!」



 キルアさんがたどり着いた時には既にびっしりと黒色のスライムが鋭利な棘を突き出していた。


 剣でいくつも射出される棘を切り払っていく。


 このままでは不味い不味すぎる!!


 シェリアをそっと床へ置き、次元収納から槍を取り出し、走りながら力の限り投げる。


 風を貫き黒色のスライムが張り付く扉へと当たるはずだった。


 次々に鋭い痛みが全身に駆け抜けていく。

 踏み出した足を貫くように棘が刺さり、血しぶきをあげる。

 態勢を崩したその体に三本の棘が交差するように突き刺さる。



「がはっ……」



 血だまりが広がる。

 内臓の重要な器官は避けることができたが、それでも致命傷と言える傷である。



「アリアっ!?」



 悲痛な叫びにも似たキルアさんの声がぼんやりと聞こえる。

 威力の乗っていない槍は扉にはぶつからず、どうやら床へと転がってしまったらしい。



「油断はしないぃ…… これで終わりぃ」



 キルアさんが剣を振るう度に粉塵が舞う。 そのたびに一撃、一撃と動きが悪くなっていく。

 拮抗していたのは最初だけであり、徐々に押され足取りはふらついている。



「ゴホッゴホッ…… ぐぅ…… 」



 全滅…… する……



 そう思い、麻薬と出血の影響で意識が途切れかける時であった。



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