追跡
『私はマールの後を追わせてもらう』
頷くとキルアさんはすぐに翼を羽ばたかせ上空へと飛び上がる。
このような狭い路地であっても問題なく風を巻き起こし、あっという間に建物の上まで浮上すると後を追うようにキルアさんは飛び去っていく。
鳥人の飛行は魔法での飛行よりも上とされている。
ブレインガーディアンではカナリアが得意としていた飛行魔法フライは制御が難しく普通の人間は真似しようにもできない事の方が多い。
しかし鳥人はまた別だ。
生まれつき備わった翼が空中でのバランス、浮力さえもコントロールしてくれる。
さらに自由自在に飛び回ることに追加してその羽ばたきの音はほとんどしない。
これは元々鳥人が風属性の恩恵を得ているからなのだそうだが、そのおかげであまり気づかれずに偵察や追跡を行うことが出来る。
その為にあらかじめ目標を追う際はキルアさんにお願いしていたのだ。
飛ぶことに関しては鳥人を超える存在はいない。
急に飛び立ったキルアさんに驚いたのか青髪のシャナは目を見開き唖然としている。
おっと説明するのを忘れていたな…… 私が紙を取り出すよりも早くシェリアが口を開く。
「気にしないで。 彼女は一度宿に戻るだけだから」
にこりと微笑むとシャナも釣られて笑う。
「そうなんですね。 突然だったので驚きました。 それで…… どうしますか? 私はこれからまた少しこれを渡しに行こうと思っているのですが……」
渡すのはもちろん今受け取った麻薬や短剣の事に違いないだろう。
こんな少女に犯罪の片棒を担がせるわけにはこれ以上はいけない。
あの話、少女の妹の学費を稼ぐ為の資金をこのシャナは日頃から稼いでいるのだろう。
期待の眼差しでシャナは私を見つめる。
一人よりも二人の方がきっと心強いのだろう。 今までもこうして一人でこういったことをしていたのだ不安はあるはずだ。
だが、手渡しているのはれっきとした麻薬。
ちょいちょいとシャナを手招きしてさっき渡されたシャナの分の短剣の束と袋を指さす。
「え? これですか?」
不思議そうな顔でシャナは手に持っている物を掲げる。
それをすっと受け取り、代わりに次元収納に入れてあった金貨を数枚取り出す。
きっとシャナから見れば鞄から取り出したように見えるはずだろう。
「えっ!? ええ!? いいんですか?」
慌てた様子のシャナは私を見上げる。
その様子を見れば働いてもいないのにさっきの金額と同等の物が渡されている事に戸惑いを隠せていないってとこだな。
軽くウインクして微笑む。
これで伝わってくれると嬉しいんだが……
「は、はい!! ありがとうございます!お姉さま!!」
お、お姉さま…… か。
まぁ伝わってくれたのなら幸いだが……
「ぶっ……」
そんな気の抜けた笑いを堪えた声が上から微かに聞こえる。
見なくてもわかる。 声の主はご丁寧にもシーレスで伝えてくる。
『すまん。 あまりにも違和感がなくてな。 私もそう呼んだ方がいいか?』
『呼ばなくていい!』
喋れない苦労をわかってもらいたいものだ。 デニーは冗談で言ったのだろうが、ここにメルアーデがいたらきっとしつこく何度もお姉さまと呼んでいたことだろう。 きっとそうに違いない。
ため息を一つ吐き出し、受け取った物を鞄に入れるふりをして次元収納へとしまう。
ひとまずシャナの手元には違法機器や麻薬が無い事でしばらくは時間が稼げるだろう。
その間に今回の件は解決させるつもりだ。
シャナの為にもこの件には深くかかわって欲しくないからな。 チョーカーの解除方法がわかったらまたここで会う約束を取り付けよう。
そう思い紙に書こうとした時シャナは笑顔で答える。
「あ! でも二人で手分けした方がきっと早いのでやっぱり手伝います!! これだけもらって何もしないわけにはいきませんから!」
いやいやいやそれでは困るのだ。
慌てて首を横に振る。
この件にシャナをこれ以上巻き込むわけにはいかない。
もし戦いにでもなってしまったらそれこそ危険だ。 なんとか説得できそうな言葉を探していると頭上より声が掛かる。
「少女よ、依頼主は寛大な方だ。 その考えは実に立派だ。だがたまにはご厚意に甘えるというのも悪くないと思うぞ」
「ですが……」
「渡すだけであれば私達もいますし、任せてもらっても大丈夫ですよ」
にこりとシェリアも微笑む。
「それもそうですね…… ではありがたく受け取らせていただきますお姉さま!」
先程書いた次ぎに合う約束を書いた紙をシャナへと手渡す。
それを受け取ると深くお辞儀をしたシャナは元気よく走り去っていく。
その姿を見送りながら言葉を零す。
「喋れないというものはすごく不便ではあるな……」
本来であればすぐに返せる言葉も今は紙に書かなければ上手く伝えることが出来ない。
そんなもどかしさと戦った結果があれだ。
なぜだかいつも以上に疲れた気がする。
この格好もそうだが、慣れないことはするもんじゃないな。
あとは追跡を行ったキルアさんの連絡待ちか。 おそらくはそこまで遠くに移動していないはずだから見つけることは容易いはずだ。
問題は何故死んだはずのマール=コフィリアが存在し、麻薬の仲介人となっているのか。
きっとマール=コフィリアが向かった場所にその答えは用意してあるはずだ。
すると待っていたかのように通信機器シーレスのノイズが走る。
『見つけたぞ。 すぐに来れるか?』
さすがキルアさんだ。 もう特定したというのか。
『場所は……』
■ ■ ■ ■ ■
オールレリアの北部、先ほどの路地からさほど離れていない場所にある豪華な家々が連なる一軒家の一つ。
「なるほどな…… 灯台下暗しってやつだったか」
人通りの多い場所から少し外れた場所にあるこの場所は何でも貴族区画と呼ばれる場所で、冒険者の街オールレリアの富裕層が住む一等地だ。
その立派な家々が連なる場所の一つの場所に何でもマール=コフィリアは入っていったのだそうだ。
建物の陰から様子を伺うキルアさんと合流し、同じように覗き込んでみる。
「見張りはいないんだな……」
「ああ、見た限りそれらしい人物は上空から見ても居なかった」
「私も見ます…… ふわ…… アリア様良い匂いです」
「え? シェリア?」
壁からひょこりと顔だけ出して様子を伺っていると同じように覗き込んだシェリアが私の服の袖を掴み匂いを嗅ぎだした。
「はっ!? つい…… ごほん!! いにゃいですね!」
誤魔化すように咳払いした後きりっと言い放ってはいたが盛大に噛んでいた。
シェリアに生暖かい視線がふりそそぐ中、気を取り直したキルアさんが伝える。
「どうする? 正面から突入するか?」
「それしかない…… か」
「私は入れそうにないから今回も見張りを受けもつ。 どうしてこうも小さな家ばかり多いのだ」
デニーが不満の声を漏らす。
ガルド大陸ならまだしもここはアルテア大陸。 ギガント種にとっては小さい家が余りにも多すぎるのだ。
いくら冒険者の街ではあるが、大通りのある場所は対応していても富裕層の多い貴族区画までは対応はしていなかったようだ。
「すまないな…… 背後は任せるよ」
だが外に一人待機できるのは援軍が来た際に対処がしやすい。
デニーならば安心して任せられるものだ。
「では早速行きましょう」
「ああ」




