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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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苦悩

 一晩が経ち、私達はメルアーデさんの待つ冒険者組合へと足を運んだ。



「やぁ、よく来たね」



 そう声を掛けるメルアーデさんの姿は昨日とはうってかわってスーツ姿だ。

 身なりを正し、受付嬢の案内で奥の部屋へと通される。


 随分と服装だけでイメージが変わる人だ。


 やや、不思議そうにその姿を眺めていると苦笑いしたメルアーデさんが振り返り答える。



「今日はちゃんとした仕事だからね、俺だって真面目な時はあるさ」



 この姿で最初に会っていたら印象は百八十度変わっていたことだろう。

 普段のおちゃらけた雰囲気が随分と抑えられている。



「あ、最初からその姿でいればいいのにとか思っただろ、獣人のお嬢ちゃん! 顔に書いてあるぞ」


「うっ!?」



 慌てて顔を押さえるシェリアにわからなくもないなと同意してしまう。


 部屋へと案内されると受付嬢はぺこりと一礼して立ち去っていく。

 後はメルアーデにお任せという事なのだろう。


 部屋に入れば硝子のテーブルと柔らかそうな椅子、その上にはいくつもの書類や依頼書が積み重ねてある。 見渡せば様々な本が収納されている本棚、薬品と様々並んでいる。



「ああ、俺の仕事場だ。 今日はこの街の冒険者組合の所長として君達と接するのでそこんところよろしくな」



 硝子のテーブルの上から一枚の依頼書を手に取ったメルアーデは笑いながら私達に向き直る。



「しかし、こんな面白い依頼書を出していたなんてな」



 それは私達が依頼した船の依頼書だ。



「まず、大型船三隻分だったな。 港に停泊している船でもそんなに大きいものを見ないというのに、それを三隻分。 貴族でも早々持っている人物は少ないし、冒険者であったとしても三隻分も買えるほどの資金力を持っているのなんか一握り。 報奨金は見合っていない程馬鹿高いし、こんなんじゃ普通の人間は怪しんで誰もとらないぞ」


「うっ」



 キルアさんは苦い表情で受け取った依頼書を眺める。

 私達は冒険者は初心者だ。 冒険者の依頼書なんて作成したことなどなかったのだ。



「だから、この依頼は俺が一旦預かった。 あまり長い事掲載しておくのも忍びないからな」


「お手数をかけます……」



 やはり常識的ではなかったか…… そりゃあの受付嬢の人も慌てるわけだ。



「まぁ、それだけ嘘の付けない正直な奴等なんだと信用もできる。 だからこそ正式に君達に依頼しようと思うわけなんだが」



 メルアーデは書類の山から一枚依頼書を取り出し、私達の前へと差し出す。



「商人ガデル=オルファの捕縛…… ですか?」



 文面を読み上げるとメルアーデは頷く。



「昨日の首切りチョーカーの出どころは俺の能力の【痕跡】で明らかになった。 その出どころっていうのがこの依頼書に繋がるんだ。 こいつはこの四年近く数多くの事件に関わっている商人だ。 おそらくこの名前も偽名だと思うが、こいつの商品で間違いない。 俺も手を焼いていてな、一向に捕まらない人物だ」


「その能力があってもなのか?」



 デニーは不思議そうに尋ねる。

 それもそのはず、メルアーデさんの能力である【痕跡】は索敵能力に特化した能力のはずなのだ。

 私達がしらみつぶしに探すよりも確実に早くたどり着けるはずなのだ。



「この能力だって万能ってわけじゃない。 奴はこの大陸を縦横無尽に移動していやがる。 まるで俺の能力を知ってるかのようにな、だから四年もの間捕縛できてない。 どうやらあっちは俺の事を調査済みらしいからな」


「手掛かりはないのですか?」


「それだよ」



 メルアーデはテーブルの上に置かれたチョーカーを指さす。



「奴らは同士間で直接連絡を取り合うんだよ」



 なるほど…… つまり……



「……囮捜査ってわけだな」


「ああ、今まではやろうと思ってもその実力に足る人物がいなかったんでな、俺は顔が知られているし能力も把握済みだから協力はできん。 お前達の誰かがそのチョーカーで同士と接触して場所を突き止めてくれないか?」



 チョーカーは一つだけ、接触するのなら一人だけだろう。



「刃を既に取り除いてあるから安心して装着してくれていい。そしてできればガデル=オルファは捕縛を頼みたい、聞きたいことが山ほどあるんでな。 その報奨金の代わりといってはなんだが、お前達の本来の目的である船を持っている人物を紹介しよう」



 なるほどな…… お互いの目的は一致してるってわけか。


 差し出される依頼書を受け取るとにこやかな笑みをメルアーデは浮かべる。



「ただな…… この同士の判断ってのが少し厄介なんだわ」



 ぴたりと怪訝そうな視線がメルアーデに集まる。



「一つは奴が警戒心が高いって事、二つ目は構成員がガルディア出身がほとんどだという事、三つ目は女性しかいない事だ」



 そんな…… それでは該当する人物がチョーカーをつける作戦は無理じゃないのか?

 シェリアやキルアさんは外見的特徴からすぐにバレてしまう。


 悲壮感に苛まれているとメルアーデはニカりと笑い私の肩に手を置いて続ける。



「簡単な話さ、女装すればいいんだよ。 アリアが」


「はぁッ!?!?」



 思わず大きな声が出てしまう。


 いったいどういう状況なんだそれは!?



「まぁまぁ落ち着けって、ガルディア出身、女性の条件を満たせるのはお前しかいないんだよ」


「私は男だ!!」


「恰好だけで見れば女に間違えた俺が保障するんだ。 間違いない!」



 なんてことだ…… 私が…… 女装だと……



「アリア様ならたしかにいけると思います」


「なっ!?」



 シェリア!? 思わずキルアさんの方を見ればこちらをじっと見つめた後深く頷いた。



「決まりだな。 身長はまぁやや高すぎるが大丈夫だろ、ギガント種もいる世の中ださほど気にならんだろ?」



 十分気にしてほしい所ではあるが……

 普通に考えてヒューマンの女性にしては高すぎるだろ!


 だが一番の問題がある。



「声はどうしようもないだろ? 男だってすぐにバレてしまうぞ」



 そうこの声は変えようがない。 恰好をいくら取り繕ったところで会話すれば一発でバレてしまうじゃないか。



「ちなみになんだが…… 女性の声を意識して俺に挨拶してみてくれ」



 メルアーデは椅子に深く腰掛けると足を組み偉そうな態度で聞く。

 何故だか試されているような気分にされる。

 いいだろう。そこまで言うなら私もやってやろうじゃないか。



「……こんにちは」


「うわ……」



 おい、何だその可哀想な目は。 やれと言われたからやっただけだぞ。

 今できる全力を込めたつもりだったんだが…… 

 なんだシナを作った方がいいのかこういうのは…… 発声を少し間違えただけで後半は良かったと……



「だ、大丈夫ですよアリア様。 誰にでも得て不得手というものがありまして」



 フォローが心に刺さる。

 シェリアそれは止めろと言っているのと変わりはないんだぞ?



「そうだな。 アリアは喋るな」



 辛辣。

 もはや空いた口が閉まらないんだが……



「私達はどうすればいいんだ? アリア一人がその同士と接触し、全部やらなければいけないのか?」



 ああ、もう私の女装の事は決定事項なんだな…… 

 デニーは気にした風もなくメルアーデに尋ねる。



「このチョーカーの持ち主も冒険者を従えていただろ? この構成員達は必ず後ろ盾として冒険者を雇っている傾向があるんだ。 護衛程度に思ってくれるはずだ」



 確かにあのマール=コフィリアを名乗った女性の後ろ盾として『ライフ』の冒険者達が居たわけだから、不思議ではないのだろうが……

 しかし…… 喋れない状態でそんなにうまくいくものなんだろうか?


 それに……



「服はどうするのだ? 生憎だが女性用は持って……」



 ないと言おうとした瞬間だった。 

 メルアーデはさもその言葉を待っていたかのように手を鳴らすと、部屋にメルアーデの屋敷に居たメイドさん達が衣服ケースを抱えて入ってくる。



「ここに女性用の服を用意した。 好きなのを選んでくれ!」



 ……こいつあらかじめ用意していたな……


 ジト目で視線をメルアーデに送ると一瞬視線が合い、ふいっと目を逸らされる。


 確信犯だな。



「うわぁ、たくさん種類があって迷ってしまいますね」



 シェリア…… 何故楽しそうなんだ?



「これなんかどうだ? 身長が高いアリア殿にはこういったスレンダーな服が似合うと思うのだが」



 キルアさん。 なんだかんだ言って一番ノリノリなんですね……



「大変だな。 アリアは……」



 デニーは頬をかきながら、ため息交じりの声で話しかけてくる。

 デニーなりに気を使ってくれているのだろう。 戦闘なりこの街に入ってからもデニーは気をまわしてくれてることが多かった。 真面目な性格故か、苦労ばかり掛けてしまっていないか心配だ。



「ああ、ありがとうデニー」


「ところでこっちとこっちだったらアリアはどっちがいいんだ?」



 ……デニーお前もなのか。





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