ガルディアの勇者VSアルテアの勇者
「どう…… して…… 戻ってきた…… マーキス……」
ゴートンは震える声音で弱弱しく尋ねる。
体は傷だらけ、切断された右腕からは今も出血が続く。
「どうして? だと…… それは俺のセリフだろうが!! なんで俺に嘘をついていやがった! どうして王であるお前が俺を逃がそうとしてんだよ!!」
マーキスは憤慨する。 マーキスはゴートンの言われた通りに避難民を引き連れて避難している最中であったが、フェニールに言伝され急いで戻ってきたのだ。
「ぐぅ…… フェニールめ…… 余計な事を……」
「馬鹿野郎が…… 何勝手に死のうとしてるんだよ。 頼れよッ何の為の勇者なんだよ」
「お前は…… アルテアの切り札なんだ…… 今失うわけには…… いかん……」
敵の狙いがこの国を落とすことなら王である者が死ねば事足りる。
余計な犠牲などこれ以上増えるわけにはいかなかった……
なのに俺と共に死ぬ覚悟を持った奴らがこんなにも集まったのだ……
お前に話すわけにはいかなかったのだ…… マーキス……
伝えたい言葉は出てこない。 声ももはや出すことはできない。
ゴートンの視界が明滅する。 魔力切れと出血の激しさで思考もままならなかった。
「俺はいつも…… どうして大事な時には間に合わねぇんだよ……」
「……」
拳を握り、マーキスは歯噛みする。
「お前が守りたかったもんは俺が必ず守り抜いてみせる。 必ずだ!!」
「……」
マーキスはしっかりと前を向き、起き上がるオクムラへと歩みを進める。
後悔は山の様にしてきた。 あの時も、そして今も。
「何急に横から出てきて正義面してるんだよ…… そういういかにもヒーロー気取りなの嫌いなんだよ。 弱者は必然的に縋っちまうんだよアイツみたいに。 夢みちまうんだよ馬鹿みたいに……」
オクムラは不機嫌そうに睨みつける。
それは不快感を胸に秘めているから、心が、アイツが叫ぶのだ。
ならなんで誰もあの時助けてくれなかったのか?
正義を説く癖に虐めを知りながら見てるだけだった同級生に……
話を聞くだけで何もしなかった先生達に……
いつか助けが来ると信じていた自分に……
「こういう存在がいるから希望を持っちまうんだ。 だから消してやるよこの俺の手で」
「反抗期の餓鬼かよ…… そっちの二人は戦わねぇのか?」
マーキスはちらりと視線を移す。
数は三人。 黒づくめの女と車椅子の女はどうやら先程は傍観に徹していたらしい。
「ああ、戦いに参加はしない」
「それは好都合だ」
「チッ」
冷え切った風が炎を消していく。
荒れ地となった大地に二人の視線が交差する。
■ ■ ■ ■ ■
【sideオクムラ】
どいつもこいつも……
まぁいいや、どっちにしろ倒す奴が一人増えたところで変わりやしない。
それじゃあまずは【鑑定】。
ロマナ・マーキス
異世界人
は? なにこれ? 嘘だろ鑑定!? 仕事しろよッ!! お前の出番なんだぞッ!!
ロマナ・マーキス
異世界人
おいおい。 なんで肝心な物が何も映らねぇんだよ。
あれか? 異世界人同士には通用しませんっていうのか? いよいよもって使い物にならない能力だな。
「来ないのか? ハイスピーダー!」
マーキスは己自身に強化魔法を施していく。
仕方ない。 元からあまり役に立たなかった能力だ。
「うるせえッ! 俺に指図するんじゃねぇ!!」
地を蹴り、切れた魔法を更新する。
「ハイスピーダー! シャイニングエレメント!!」
剣に光魔法を再び付加。 陽動や攻撃力は段違いで優秀だからな。
グンと踏み込むとさらに加速。 相手との距離をさらに詰める。 相手は微動だにしない。
いける。 まずは一撃目ッ!!
光剣を振り下ろし切りかかる。
「!?」
ぶれるように視界が霞む。
剣は空しく宙を切る。 おかしい、当たったはずなのに!?
慌てて距離を取り様子を伺う。
なんだ?いまのは? 何か使ったのか?
マーキスはステップを踏みながら真っすぐこちらを見る。
ちぃ、あくまでもこっちの動きを誘ってるのか? いいよその挑発に乗ってやる。
「サンガー」
雷撃が音速でマーキスへと飛来する。
「はぁ!?」
そのどれもがマーキスの最小限の動きで躱されていく。
冗談だろ? 音速なんだぞ…… それよりも速いって言うのかよ。
「どうなって……」
視線の先には既にマーキスの姿は無い。
認識した時には既に懐へと潜り込まれていた。
「ぐっ!?」
なんとか視界に納めることが出来たおかげで【円天の防御】が発動し、直撃は免れる。
衝撃が音の様に響き渡る。
なんて力してんだよッ!!
「なるほど。 こりゃあ厄介なはずだ」
剣を振るうがこの速度では間に合わない。 既にマーキスはだいぶ離れた場所まで移動してしまっている。
だが、この【円天の防御】がある限りまだ優位に立てるはずだ。
後は予測だ。
「シャイニングレイン」
無数の光の攻撃魔法が周囲に降り注ぐ。
音は超えても光までは超えられない。 逃げ場を狭まれば必然的に選択肢は限られる。
案の定接近して予定通りの場所に移動するマーキス。
これなら当たる。
周囲は光の檻、逃げ場はない。 光剣を威力に全振りし、全力で振り下ろす。
流れるようにマーキスは短いステップを刻み、剣を最小限の動きで避ける。
まるで攻撃がわかっているように、それは未来予知にも思えた。
「何なんだよお前はァああああ!!」
横切り、袈裟切り、そのどれもが一向に当たらない。
「どうして当たらねぇんだよおお!!」
「教えてやるよ」
マーキスは攻撃を躱し右腕を振り抜く。
「ッ!? 【円天の防御】!!」
分厚く目前へと光の障壁が瞬時に展開される。
「【防御破壊】!!」
次の瞬間、障壁は容易く崩れ落ちた。
「おごぉああああああああ!!!」
衝撃による衝撃が体を突き抜け、景色を置き去りに吹き飛び地を幾度も転がる。
爆風と大地を揺るがす衝撃波。 周囲の木々をなぎ倒し土砂が舞い散る。
「お前は掻い潜ってきた死線が足らなすぎるんだよ」




