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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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side オクムラタダシ ~炎のライオン~

 急激に周囲の温度が上昇する。

 あの藍色の球は一体なんだ? 見る見るうちに獣人の王の姿が変わっていく。

 筋肉質だった体は肥大化し、二足歩行から四足歩行へ。

 赤い髪はまるで鬣の様に伸び人間らしかった面影は変化していき、口元からは鋭利な牙が伸びていく。


 二本の手斧は手と融合しているのか、まるで肉食獣の爪の様になっていく。


 まるで大型のライオンだ。



「グルルル…… ガァアアア!!!」



 雄たけびを挙げると大地が震える。



「獣人というか、まさに獣って感じだねぇ…… 第二形態って」



 汗が流れるのは急激な温度上昇によるものだろうか? 動悸が早まる。 興奮が抑えられない。

 これだよ、こういうのを待っていたんじゃないか。 臆病なアイツには理解できないと思うが、俺は違う。 知恵を振り絞ってどんな対策をしてくるのかワクワクするんだよ。 


 生と死の狭間に身を置くことでようやく俺は生きてるって感じがするんだよ。


 だから……



「その立派な牙を折ってやるよ!!」



 期待外れになるなよ?



 手を前に突き出す。



「サンガー!!」



 まずは様子見…… 速い。


 雷撃魔法の間をすり抜け、駆けだした猛獣はその巨大な腕を振り下ろす。



「ガァアアアアアア!!!」



 自動的に【円天の防御】が瞬時に発動。 火花を散らし、衝撃が響く。

 咄嗟に剣で防御の体勢を取るが、まだ大丈夫だったようだ。 ちぃ、焦ったがこの守りを突破することなんてできない。 なんたってLEVEL差が十も違うんだ。 


 すぐさま踏み込み一閃。


 だが、この攻撃はこちらも届かない。

 さっきから一回攻撃しては離れての繰り返し。 ワンパターンなんだよ……


 猛獣が通った後は地面が燃えているようで、焦げ跡が地面に刻まれる。

 このあたりが暑いのはそのせいか。


 火属性に相性がいいのは水か。



「ウォタガ!!」



 剣先から迸る豪水魔法。 勢いよく猛獣を捕らえようと四方から膨大な水が押し寄せていく。



「グルァアアアアアア!!!」



 猛獣が雄たけびを上げ口から放つのは巨大な火炎弾。 フレアよりもでかいその炎弾が豪水魔法と激しくぶつかり合い水蒸気爆発を起こす。



「ぐぅう……」



 爆発的に広がった水蒸気と熱風により大きく吹き飛ばされる。


 この【円天の防御】の致命的なとこはここだよな。 自分中心に展開されるから吹き飛びはこらえられないってとこ。 しかもちゃんと視線を向けてないと耐久度が大きく変わるからな。


 地面を転がり、立ち上がる。

 肉体的なダメージはほとんどないが、ここの地形は最悪だった。

 ただでさえ泥濘がちな地面なのに、これじゃ泥だらけだ。



「くそッ、汚ねぇ」



 泥をはたき落とし見上げれば目前へと再び迫る猛獣の姿。

 激しい衝撃。 視界に捕らえていたおかげでなんとか防御は間に合った。 



「驚かせるんじゃな……」



 ミシリと嫌な音が響く。



「チィッ!!」



 慌てて光剣を振るう。 さっきよりも魔法力を込めるとその長さが変わり、猛獣に傷をつける。

 咄嗟に剣先が伸びたことにより避けきれなかった猛獣の体からは鮮血が飛び散る。


 クソッ! 浅かったか。


 ちらりと視線を上へと移すと、【円天の防御】の一部にヒビが入っている。

 こいつ同じところに何度も攻撃していたのはこの為か。


 いくら耐久度が高いとはいっても完全ってわけじゃないのかよ……


 態勢を立て直すとすぐさま猛獣は先ほどよりも速いスピードで迫りくる。


 そう何度も同じ場所を狙わせるかよ。

 振り下ろされる攻撃を前に滑るように躱す。 【円天の防御】の発動範囲をさらに狭めて、体の周囲十数㎝を意識して展開していく。

 これならば躱すという選択肢も可能だ。


 地面を抉り、土砂が飛び散るのを横目に光剣を振るう。 


 光剣は大きな爪によって弾かれる。 そう簡単に切らせてはくれないか。 


 次の一手を警戒しているのか再び距離を取ろうとする猛獣に追いすがる。

 たまに俺よりも速いが、それ以外は追い付けない速さじゃない。



「!?」



 慌てて防御形態に移る猛獣の腕にわざと振るう。

 そうこれは攻撃じゃない。 

 光剣と凶悪に肥大した爪が衝突すると辺りを眩い閃光が迸る。



「グォオオオオオ!!!」



 光剣を威力ではなく輝度を最大へと引き上げる事により一時的な目くらましが可能だ。

 猛獣は光魔法という事で今まで警戒していたが、顔に向けられた攻撃を防ぐのに咄嗟に防御した。

 その隙は見逃さない。


 猛獣はその光を直視したことにより、大きく叫び声をあげ、怯む。


 視界を一時的に奪う事により、大きく暴れる猛獣の腕を狙い、今度は光剣を輝度から威力に振り替えて切りかかる。


 激しく血しぶきが舞う。



「ギャオオオオオ!!!」


「おおおおおおお!!!」



 分厚い右腕は光剣の攻撃を阻むが、徐々に侵食し、血しぶきをあげ、切断へと至る。


 跳ね飛んだ腕が宙を舞い、地面へと落ちる。


 これで攻撃力は激減した。 雄たけびを上げ爪を振るう猛獣の攻撃を躱し、距離を取る。


 猛獣はもはや傷だらけ。 苦しそうな痛みを耐える声が漏れている。



「サンガー」



 牽制として放った雷撃魔法であったが、先ほどよりも動きが鈍くなった猛獣が避けそこなう。 一発であったが肩を掠めていく。



「グゥウウ……」



 さっきのがだいぶきてる感じだな…… あと一押しか。

 地を踏みしめ、その距離を詰める。


 猛獣は口を大きく開け、こちらを視界に捕らえる。

 先程よりも大きな火炎弾が距離を詰めた俺に至近距離で当たる。


 爆炎と爆風が辺りの木々をなぎ倒し、焼き焦がし、炎が周囲を包み込んでいく。


 衝撃はすさまじく、直撃した事により大きく吹き飛ばされる。


 だが、それだけだった。



 立ち上がり、辺りを見渡せば炎が森を焼き、大地はその熱によって乾いたものになった。


 歩き、倒れ伏す獣人の王へと近寄る。



 魔力切れ。 最後の一撃が全ての魔力を使い果たしたのだろう。



 先ほどまでの大きな獣姿ではなく腕を切り落とされた傷だらけの獣人が地に倒れている。

 とうとうあの姿も維持できなくなったのだろう。



「ははは、結局俺の防御を破ることはできなかったな!」


「ぐ…… う……」


「LEVEL差は覆らない。 お前が守ると言ったその力は所詮この程度の物なんだよ」


「お前…… なんかに……」


「安心しろよ。 すぐにお仲間もあの世に送ってやるからよ」


「ぐぅう……」



 光剣を上へと掲げる。 これで目的は達成だ。 あとは残った奴らを……



「じゃあな、王さ…… ぐぼぉえ!? 」



 衝撃と痛みが突き抜け、気づくと宙をきりもみしながら吹き飛んでることに気づく。


 土砂をまき散らし転がる。 痛みでどうにかなりそうだった。 なんなんだ一体!? あいつはもう虫の息だったじゃないか。 


 頬は腫れ、口の中を切ったようで血が流れる。


 なにが起こったのかわからなかった。 



 なんなんだよ!? 俺が殴られた…… のか!?



 震える手で立ち上がると視界に移ったのは倒れ伏す獣人の王と見慣れない黒人の男。


 この世界に黒人なんて…… まさか……



「ちぃ、同郷者かよ」







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