オールレリア
私達がナウルを出て早一週間が経とうとしていた。
山を越え、川を越え、キャンプを張りながら夜を過ごし、道中の魔物を狩ったりもしていた。
「ふぅ、こんな魔物この辺では普段はいないはずなのに……」
シェリアはため息を一つ吐き、仕留めた魔物から魔石を剥ぎ取っていく。
丁度今倒した魔物はガネラスパイダーという乾燥地にしか生息しない魔物。
湿地帯の多いアルテアでは異常とも呼ばれるこの魔物はかなりの頻度で現れ、仕留めている。
「魔物の生態系が変わったのでしょうか?」
翼をはためかし、静かに着地するキルアさんは眉間に皺を寄せ考え込んでいる。
「ガルディア周辺でも普段は現れない魔物が多数出現した例もあるからな……」
あれはこの大陸に渡る前、戦ったゴブリンの多く住む森でウルフベアーを見かけたことからも伺える。
普段は現れない魔物がその場所に現れる。 本当にこれは偶然なのだろうか?
「まぁ、詳しい話は後にしないか? あそこだろ? 冒険者の街は」
デニーが指さす先には緑の城壁が並ぶ街並みが見える。
「あそこが……」
「ようやく目的地ってわけだな」
色を表すとしたらガルディアの都市は黒とオレンジが目につきやすく、アルテアのアルタは白と青、ナウルは緑とブラウン、そしてこの冒険者の街は緑と黄色を基調としている。
街道を見渡せば多種多様な人種が入り交じる街。
冒険者達の街として発展したこの街は様々な冒険者達が歩いている事だろう。
開けた大地に様々な家々が立ち並ぶ。 まるでここは独立都市のよう、がやがやと賑わいを見せている。
「アルテアでもここは冒険者の街としては大きな部類に入るはずだ。 ほら、あそこに見えるのがこの街の入り口の検問だ。 まずはここで……」
キルアさんが指さす先にこれまた列のできた場所が見える。
「この街に入りたい冒険者はまずここを必ず経由してくれ! おい、怪しい恰好の…… あんたらだよ」
検問官のヒューマンの男性が仮面をつけたキルアさんの肩を苦い表情で叩く。
「ふぁ!? わ、私か!?」
「アンタらしかいないだろ? そんな恐ろしい仮面をつけてる奴なんて…… ほら並んだ、並んだ」
「こ、これは由緒正しい…… あっおい」
キルアさんの反論の声は掻き消え、検問官の男性は再び最前列へと走って戻っていく。
「ほう…… 話を最後まで聞かないとはいい度胸だな」
「怒らないでキルアさん、きっとこの数だから忙しいんだよ」
慌てて剣に手をかけたキルアさんを宥めにかかって正解だった。
そりゃその仮面を被っていたら怪しいと思うのは必然であって……
「待つしかなさそうだな」
「ええ、その方がいいですね」
デニーもシェリアも納得し、この長蛇の列へと並ぶこととなった。
「初めての冒険者の街。 なんだかわくわくしますね」
「まずは最初に冒険者組合をっと!?」
「いってーな! どこに目付けてんだよテメェ」
慌ててぶつかられた方へと向き直ると厳つい風貌の四人組が不機嫌そうな顔でこちらを睨む。
ぶつかった覚えはないんだがな……
「故意にぶつかったつもりはないのだが、もしぶつかってしまったのなら謝ろう」
「チッ、Eランク冒険者はこれだから嫌なんだよ。 俺らはBランクなんだよ。 わかる?これ、シルバーの腕輪。 わかったら邪魔だからどけよ」
「くふっ、サーカスは余所でやってろよ」
「言えてるー」
Bランクだと名乗るこの冒険者達はヒューマンの男、ギガントの男、ヒューマンの女、エルフの男で構成されている。
それなりの装備でこの辺ではきっと名の知れる冒険者なのだろう。
彼らは鬱陶しそうに私を手で押しのけると並んでいる順番など関係なしに突き進もうとする。
「貴様ら……」
「これはやっていいですよね?」
怒気を含んだ声が背後から聞こえる。
ぞくりと悪寒を感じ慌てて激怒している二人を止める。
「ここで問題を起こすのは不味い。 冷静になるんだ」
「しかしだな……」
「世の中には必要悪という言葉がありまして……」
シェリアの考えが一番不味い! 思わず前に歩き出そうとするシェリアの手を掴み止める。
「ひぅ。 にゃにおす、するんですか。 あいつ等を殺せません」
「殺さなくてよろしい。 デニーからも言ってくれ」
「ああいう手合いは関わるだけ時間の無駄だ。 黙って待っていれば街に入れるんだから焦る必要はない」
「頭ではわかっているのですが、感情が先に働いてしまいます」
「わからなくはないが、今は問題を起こして街に入れなくなることの方が問題だ」
「はい…… そうですね。 でも顔は覚えましたから」
にこりと満面の笑みを浮かべるシェリアに背筋に流れる汗を感じ、ふぅと呼吸を落ち着かせる。
しばらく待っていると順番が回ってきたようで検問官の前へ立つ。
「はい、アンタらは? 冒険者? 商業者?」
「冒険者です」
各自腕輪を見せ、検問官の持つ腕時計型のマジックアイテムで検査していく。
「はい。 Eランク冒険者一向ね、これを無くさないようにな」
「ありがとうございます」
各自に手渡されたのは手帳型のマジックアイテムだ。
「これはな、いわゆる滞在書だ。 ここでの食事、買い物、冒険者なら依頼書などはここに記入されていくからこの街にいるときは無くしたりするなよ。 出るときにもそれが証明書になるからな」
「わかりました」
なるほど、今みたいに記入していくのか。
検問官は手帳を渡す際にマジックアイテムに手帳を近づけてから渡す。
手帳を開いてみれば日付と時間が記入されている。 これでようやく入れるというわけか。
検査官に一礼し、門をくぐる。
これが冒険者の街【オールレリア】への第一歩となった。




