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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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破壊の足音

 固い握手を互いに交わし、デニーはにこやかな笑みを浮かべる。



「こうしてテオ殿の忘れ形見と共に行動するとは夢にも思ってなかったな」


「それは私も同じですよ」



 デニーの元へ木製の腕輪が手渡される。

 これは私の銅製の腕輪と同じく、Eランク冒険者としての証なのだろう。


 まぁさすがにギガント種用ではないわけで、どちらかと言えばデニーにとっては指輪に近い。



「此度はお主たちに命運がかかっているといっても過言ではない。 こちらもできるだけ持ちこたえられるように努力はしてみるが…… 最悪の場合は大を助ける為に小を切り捨てる覚悟も覚えておいてくれ」


「……わかりました」



 フェニールさんは私とデニーを交互に見比べ渋い顔をする。



「しかしな…… 冒険者の街ではお主たちの服装はさすがに怪しまれる危険がある。 できる限りここで装備を変えて行くがよい」



 ちらりとデニーを見れば、ガルディアンナイトの特注騎士鎧。 たしかにこれでは国の者だとすぐにわかってしまうか。 私も鎧と言えばあの騎士鎧しか持ち合わせていない。 武器は次元収納で出し入れする分問題はないが……



「私サイズのフルフェイスの鎧となるとなかなか無さそうだな……」



 デニーはため息を吐く。



「それは仕方ないと割り切ってくれ、突貫だが鎧を上手くつなぎ合わせる。 この国の未来が掛かってんだ。 あんた達明日までにはやれるね?」


「「「もちろんです! ボス!!」」」


「時間は無いよ、さっさと作業に入りな」


「「「「いえっさぁあ!!」」」



 敬礼をびしりと決め、フェニールさんの部下達は急ぎ足で駆け出していく。

 胸元からキセルを取り出したフェニールさんは火を着け煙を吹かす。



「ふぅ、あたしらには精々こんなサポートしかできないんでね。 デニーの鎧は任せときな、アリアの鎧は出来合いで良かったらうちの息子の作業場に寄んな。 いくつか用意してあるからそこから持っていきな」


「「あ、ありがとうございます」」



 小声でデニーが聞いてくる。



「なぁ、あの人いったい何者なんだ?」


「えっ、いや、はは、何だろうね」



 それは私にもわからない。

 フェニールさんはまるでこのことがわかっていたかのような用意の良さだ。

 実質フェニールさんがアルテアの情勢を握っているのかもしれないな。


 こうしてガルディアンナイトとの軍事会議は多くの問題を抱えながら終わることとなった。

 要求案の意味はもはや無くなり、デニーの居たキャンプに残っている人達はとりあえず、一時的にこちらの管理下に置かれることとなった。


 騎鳥軍の精鋭を集めたガイアスさんを中心とした部隊は偵察のために明日にも出発する予定だ。


 ガルディアンナイトを指揮していたガージェフとの連絡は未だに取れないらしく、首都アルタで何かがあったのは明白であった。


 まずは私達は装備を整え、明日にはナウルを出て北西にあるという冒険者の街を目指すこととなった。



 ■ ■ ■ ■ ■



【アルテア大陸 南西湾岸】



 波が激しく湾岸を叩き水飛沫は岩壁の上まで届く。

 荒れ狂うこの海域はアルテアでも座礁する船が後を絶たない。


 強化されたマジックアイテムの恩恵が無い船は近づくこともできないとされる海域に一隻の船がたどり着く。


 やがてその船は湾岸へとたどり着き、不機嫌そうな顔をした少年がアルテアの大地に降り立った。



「チッ、ようやく着いたのかよ。 うっわ蒸し暑い」



 猫背気味で不機嫌そうな表情、目の下に隈のあるオクムラタダシは盛大なため息を一つ吐く。



「しかも目前は密林…… ジャングルかよ……」



 その後ろから一人の黒いフードを深くかぶった黒ずくめの女が車椅子を押して降りていく。



「あながち間違ってはいない」



 その表情は認識阻害がかかっているため、伺うことはできない。



「うー?」



 きょろきょろと珍しそうに首を動かすのは車椅子に乗った少女、田村優希。

 バタバタと手を動かし、つたない言葉と呼べないものをを発する。



「でだ。 コイツは黙ったまんまだしよう。 いいかげん説明してくんねぇか? なんで俺がここに来たのかをよ」



 オクムラタダシは己の胸元の服を握り、顔を歪める。

 その感情は怒りだ。


 それもそのはずだ。 無理矢理ここまで連れてこられ、道中はついてから話すの一点張りでその説明を一切されなかったのだから。



「この大陸には後始末を着けに来たのだ。 私達の目的はこのアルテア大陸の制圧。 先の戦いで弱ったアルテア国を叩き潰すためにアルバラン様は私達を派遣したのだ」


「はっ、この三人でかよ」


「できないとそう思うのか?」


「そうじゃねぇよ。 アルバラン様は随分高く評価してくれたもんだなと思ってな」


「まぁそれだけ勇者の力は高いからな。 腕が鳴るだろ?」



 オクムラはニヤリと笑う。 それはこれから起こることへの興奮に満ちていた。



「当然。 こうやって使われるのも悪くない。 俺はアイツと違って戦えるだけで充分だからな」


「それでいい。 ここから先は徒歩だ。 敵はさらに東、二週間もあれば自ずとたどり着くさ」


「アルテアは獣人の国なんだったな。 んじゃ、狩りのゲームといきますか」



 破壊の足音がアリア達に近づくのも時間の問題となっていった。




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