side フィオ=アルジャーノ ~壇上の戦い~
久しぶりの更新となっています。
皆様クリスマスは忙しかったですか? 楽しく過ごせましたか?
えっ、私ですか? 察してください(笑)
また更新頻度を元に戻していきますのでまたよろしくお願いします!
額の汗を拭い、付近に置いてあった水を手に取り一気にそれを飲み干していく。
「っぷはっ、はぁ、はぁ……」
乾ききっていた喉に潤いを与えるかのように水が染み渡っていく。
「あまり気分がいいものじゃない……」
ボソリと小さく吐き出した声はこの濃い霧の街の中に紛れ消えていく。
先程から感じる気持ちの悪さは今に始まったわけではない。
元来こういった人前に出ることは苦手としている為、避けて来ただけである。
肩で息をしていると後ろから声が掛かる。
「最初の演説にしてはまぁまぁじゃないか、フィオ」
振り向けば腕組みをし、獣人族に伝わる伝統的な衣装を着た白髪の犬型獣人の高齢男性。
私の爺様に当たるダーブル=アルジャーノはにかりと笑う。
「ありがとうございます。 言われた通りに次もすぐに始めますので」
「こういうのは初手が一番重要、アルジャーノ家の名に恥じぬように心して臨めよ」
「はい、必ずや住民の支持をこちらに集めたいと思います」
「その心意気や良し、きっとお主の父も母も天で喜んでいると思うぞ。 しっかりと役目を果たせ」
「……はい」
くるりと向きを変え、爺様は再び長老会の方々の元へ戻っていく。
昔から変わらぬその圧力に胃が痛くなるのを堪え、また噴き出た汗を拭う。
私は幼少期に父と母を失い、爺様に育てられてきた。
父も母も爺様の話によるとガルディアの騎士によって無残にも殺されたと聞かされ、引き取られた私は爺様から様々な事を教わり育てられてきた。
それにしても爺様の敵国への憎しみは計り知れない。
私も先の戦いで多くの仲間を失い、敵国に対しての怒りの感情や恨みはかなりあるほうだが、爺様はそれ以上に感じる。 きっと機嫌が未だに悪いのもきっと先ほどの会談のせいに違いない。
「すまないが、水をくれないか?」
付き人の一人に空になった水袋を手渡し、大きく息を吐く。
なんとか期待に答えなくては……
懐からメモをしていた紙を取り出し、目を通していく。
爺様方が要求案として出したのは他国の労働力を提供してもらい復旧を早めるというものであった。
現在人手不足により修繕が追い付いていないのは目に見えてわかるはずだ。
しかし国王はそれを気にも留めていないのか、あろうことか敵国の騎士を受け入れ、その騎士に褒美を与えるという始末。
いったいこの国はどうなろうとしているのか。
敵国の騎士を匿っていたというあるまじき行為は許されるものではない。
それに激怒した長老会はこの機会に国王を王の座から引きずり降ろすという計画を練っている。
その案には私も賛成だ。 これ以上無駄な犠牲が出る前になんとか皆を導く存在を変えなければならない。
空を見上げればどんよりとした灰色の雲が広がり、顔に当たる雨は先ほどよりも多くなっている。
「お待たせしました」
「ありがとうございます。 助かります」
付き人の獣人が水を入れた水袋を私へと手渡す。
懐から粉状の胃薬を取り出し、口に含み水を流しいれ一気に飲み干していく。
うっ、やはりこの味は苦手だ……
一気に流し込んだとはいえ、口内に残った薬が広がりとても苦い。
顔をしかめ、顔を振り前をおもむろに見る。
「あれは……?」
まばらに散ってしまった群衆の中に一際目立つ仮面を着けた二人組を見つける。
「なんだあの者らは? 鳥人の祭事用の仮面をつけているが……」
「わかりません…… すごく怪しいですが…… 声を掛けてきますか?」
えっ、気になったら声を掛けちゃうの? いやいや、あんないかにも目立つ格好の奴等と話なんかできないよ。
「い、いや、今は演説に集中したい。 これ以上悩みの種を増やしたくない」
「そうですか」
付き人のあまりの大胆さに軽く引きはしたが、これでも長老会の補佐をしている方だ。
信用はできるはず。
演説するだけでも胃が痛いというのにこれ以上厄介な事に巻き込まれたくないものだ。
同じ獣人や鳥人のようだし、今は相手にしない方がいいだろう。
同じ種族とはいえ変わった思考の奴も多くいる。
ああいうのは関わった途端にこちらに厄介事しか持ち込まないお調子者共だろう。
うん、きっとそうに違いない。
ここも治安が悪いという事だろうか……
この件が片付いたら爺様に相談でもしてみようか。
住みよい暮らしにしていくためには不安をできるだけ取り除いていかないといけないしな。
新たに浮上した不安の種に胃が少し痛んだが、これからの演説に比べればいくらかマシだ。
「落ち着いてください。 次期国王となられる方がこの調子では皆に笑われてしまいますよ」
そんなに情けない顔をしていただろうか?
補佐の一人に落ち着きが無いと嗜まれ、プレッシャーをかけられる。
まったくこれだから胃薬が手放せない……
「うっ、わかっている」
私に国王をやれというのは少々無理があるのではないだろうか……
だが、やらなければならない。 私にも何かできるのだと示さねば……
「時間です」
「ああ」
再び二回目の演説台へ登る。
胃の痛みを押し殺し、人々の信頼を勝ち取るために。
ここが私の戦いだ。
補足情報。
フィオ=アルジャーノ 青髪の犬型獣人男性 年齢17歳
人数も増えてきましたので登場人物紹介第三弾をそろそろやろうかなと思っています。




