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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第3章 軍事会談
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代理人

 霧が立ち込める中、声のする方向へ私とキルアさんは向かって行く。

 その声の元へ近づくにつれ段々と住民の獣人の数が増えていることがわかる。



「アリア殿、一旦こちらに来た時に着ていたフード付きのコートを羽織っていてくれないか?」


「あ、ああ。 それもそうだな」



 次元収納からフード付きのロングコートを取り出し、顔が隠れるように羽織っていく。



「念には念をいれてこれも着けてほしい」



 キルアさんから差し出されたのは鉄製の仮面。

 目の所だけ切り抜かれておりなんとも不気味な仮面だ。



「キルアさん、これはちょっと逆に目立つというか…… ってうおわぁ!?」



 顔を上げるとキルアさんは鉄製の鬼のような形相の仮面を付けていて、そのあまりの恐ろしさについ声が出てしまった。



「おい、あまり大きな声を出すんじゃない。 これは鳥人の文化で祭事に魔を祓うといわれる由緒正しき仮面だ」


「いや、これは仕方ないというか正しい反応だと思うんだが…… めちゃくちゃ怪しく見えますよこれ」


「……そうか? これならば顔はバレないぞ。 いいから騙されたと思って着けてみるんだ。 今の声で何人かこちらを気にしている」



 冷汗が流れる。 これは暑さによるものだろうか……


 仕方なく受け取った鉄製の仮面を着ける。


 間違いなく目立ってしまうと思うのだが……



「こういうのはあえて堂々としてるのがいいんだ」



 キルアさんは余程の自信があるのかその大きな胸を張り、腕を組み前を見据える。


 小さな話し声が別の場所から聞こえる。



『お、おい!! あれ見て見ろよ』


『なんだよ。 うおっ!? 怖っ、なにあれ怖っ! 新手の宗教かなんかか?』


『間違いねぇ、下手に関わらんでおこう』


『ああ、そうだな。 随分と恐ろしい世の中になっちまった……』



 目立ってる!! めちゃくちゃ目立ってるよキルアさん!!



「ん? どうした? 見に行くのだろう? 早く行こう」



 ほ、本当にこの姿で行くのか……


 キルアさんは不自然に避けられていく人混みの中をどんどん先へと進んでいく。

 はぐれないように着いていくとその目的の声がはっきりと聞こえる場所まで来たようだ。



「私達は今一度立ち上がらなければいけません!! 先の戦いでは王族軍は多くの仲間を失いました」



 どうやら誰かが演説をしているらしい。

 見れば木製の台の上に乗った青い髪色の若い犬型獣人の男性が熱心に話している。



「今のやり方ではまた多くの人の命が失われてしまいます。 いらない犠牲を出してまで勝利に固執する今の現状を変える為にも皆さんの支持が必要なんです。 現在勝利を収めたわが国ではありますが、現状国を保っているのも精一杯の状況です」



 よく見れば熱心に話している若い獣人の後ろには、先ほどあのテントの中に居た長老会の人物と思われる白髪の猫型獣人男性や、同じく白髪の犬型獣人の男性の姿も見て取れる。

 なるほど、長老会は彼を代理人と定めたようだ。



「戦争で勝った私達は憎き敵国に要求案を三つ飲ませることができるのです。 一つ目は失った大陸の領土を取り戻すこと、これは私達の故郷である首都アルタの奪還です。 現在この場所は敵国の管理下に置かれている現状で、まずは最優先で進めていく話です」



 この人の集まり様はよほど彼が信頼のおける人物だということが伺える。


 ちらほらと人混みの中から話し声が聞こえ、そちらに耳を傾ける。



『あの気弱だったフィオが随分頼もしくなったもんだよなぁ』


『ああ、時代の移り変わりを感じるよ』



 そうか、あの演説している青い髪の犬型獣人の名はフィオと言うのか……



「二つ目は食料の要求です。 これは私達が生活する際に再び作物を得られるようになるまでの期間を設けさせてもらいます。 首都を奪還した際に飢えの心配なく生活できるためのものです」



 一呼吸置いてフィオは再び辺りを見渡す。



「ここまではいいのです。 しかし、嘆かわしい事に三つ目の要求案は大きく意見が分かれる事となったのです。 こちらが意見したのは、敵国の人材を借り受け、復興を速めるというもの。 これは今戦況的にも不利なアルテアを他国から守る為の防衛案でもあるのです」



 要は言葉の言い様だ。


 この発言では住人達は労働力の提供、一時的な支援であると思ってしまう。

 しかし現実的にあの場で出された話ではガルド大陸の者を奴隷として派遣し、生涯強制労働をさせるという意見なのだ。



「ですが、国王から出された案は大きく違うもので、なんと敵国であるとある一人の人物の為にこの貴重な要求案の一つを使うと言い出したのです。 なんと愚かしい事か、死んでいった仲間は何の為に戦ったのかこれではわからないじゃないですか!」



 隣に立つキルアさんから怒りの熱気が伝わる。



「上手く話をそちらに操っているようにしか思えん。肝心なところを暈して伝え、あたかもあちらが正当であるかの様に……」



 そう、この発言では長老会の出された要求案の肝心な所を伝えていない。

 この要求案自体が奴隷制の復活であるという事の危険性を知らないでいる。



「意見はお互いに譲ることはなく、最後の要求案を国民に委ねることと判断されました。私達の提示した要求案と国王が挙げた要求案、どちらが相応しいか国民達の投票によって決まることとなるのです。 期限は明日の夕刻までの間。 投票箱は中央の場に設置しておりますのでよろしくお願いします」



 フィオは頭を深く下げ、一旦最初の演説の話はここで切るようだ。


 ざわざわと喧騒が響く中、私達は人混みの中を掻い潜り、人気のない場所まで移動する。



「ゆっくりと考えている時間はなさそうだ。 またそんなに時間を空けることなく次の演説は始まるように見える」


「どうしますか? 一旦戻って……」


「いや、このまま演説するよ。 時間が経てば経つほど不利になりかねない」





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