side カナリア=ファンネル ~上陸~
朝日が水面を照らし出すと同時に、私達の乗っている船は進路を変え大陸の洞窟へと進んでいく。
その洞窟の大きさはこの大きな船を覆い隠すには十分すぎるくらいの広さである。
「ファイア、フライ」
ランプに灯りを灯し、飛行魔法を発動させカナリアは洞窟の内部へと飛び立つ。
これは船が暗い洞窟内を進むためには目印が必要だからだ。周囲を確認しながら壁にぶつからないように奥へと誘導していく。
洞窟の内部はゴツゴツとした岩がいたるところで突き出ており、風が奥へと流れ込んでいるのか体が揺れる。
ここは自然にできたわけではなさそうね……
風が通り抜けていくことからどうやらこの洞窟はどこかへと繋がっているらしい。
人工的に切り取られたような跡が天井に残っていたりするため、この洞窟は誰かが意図的に作り上げた物に違いない。
しばらく奥へ進むと浅瀬になっているのか船は鈍い音を上げ止まる。
洞窟はまだ奥へと繋がってはいるがこうなっては先に進むことはできない、カナリアは空中で身を翻し、浅瀬へと降り立つ。
甲板の上に出ていたカルマンとキールも浅瀬へと降り立ち周囲をキョロキョロと眺めている。
「まだ洞窟は奥へと続いているみたいよ」
「ああ、そうみたいだな。 とりあえず住人達には安全が確認できるまで船で待機させているからよ、偵察しに行くか」
カルマンは気休めのような装備に身を包み、首の骨を鳴らす。
「そうね、でも船を護衛する人が残っていないといけないわ」
私達だけで進んでしまってはもし船に何かあった場合対処ができなくなる。
ここは誰かが残り住人達の安全を最優先するべきだろう。
「それなら問題ない。 師匠が船に残ってくれている。 あの人の実力は俺が知っているから安心してくれていい」
キールは懐からキセルを取り出し、火をつけていく。
「そう、じゃあ三人で手分けしましょう。 ……ここがリーゼア大陸だという事をわかってもらいたいけど」
ジロリと不機嫌そうな顔でキールを見ると、はぁとカナリアは小さくため息を吐く。
「少しだけだ。 吸わないと集中力が持たん」
「とんだ中毒者ね」
この浅瀬はちょうど靴を軽く濡らす程度の深さしかない。 できるだけ音を立てないようにゆっくりとした足取りで三人はバラバラに洞窟内を調べ始める。
できればこの洞窟の先が地上へと出られるものだったらいいのだけれど……
ランプの灯りを頼りに周囲を見渡していく。
「こんな場所に客っていうのは珍しいねぇ」
その声にハッと前を向くと積み上げられた岩の上から誰かが降りてくる。
いつから…… こんなに近づかれるまで気が付かなかった……
ランプの淡い光に照らされ奥から一人誰かが歩いてくる。
すぐに距離を取ったカナリアは臨戦態勢の構えでその人物を見る。
光に照らし出されその人物の姿がはっきりする。
銀色の髪を短く切りそろえ、頭部には短い角、切れ長の目に露出の高い簡易的な異国の服装。
間違いない、伝えられた情報と一致する。
「侵略者だったりするのかな?」
その佇まいはこの人物がかなりの手練れであることを知らせる。
方天戟を片手に持ち、真っすぐ私を見つめる。
「ち、違います!」
「ふむ、どうやら嘘はついていないらしいな」
私の目を真っすぐ見るとこくりとその女性は頷く。
「あの…… 少し聞いてもいいですか? 貴方はもしかしてフォルスさんでしょうか?」
「私を知っている? ああ、なるほどね、トリシアの知り合いの人達か」
その女性は先ほどまでの張りつめた空気を一瞬で離散させ、朗らかに微笑む。
この人がトリシア騎士団長が師匠と呼ぶ人物。 ドラゴニア族のフォルスと呼ばれる人物だ。
「カナリアっ!!」
カルマンがようやく事の状況に気づいたのか声を上げる。
「くっ、いったい何者だ」
キールもその声に駆けつける。
驚くのも無理はない、私も先ほど声をかけられるまで気づくことすらできなかったのだから。
「随分と大人数で来たものだな、まぁ有体に言えばここの管理者とでも言えばいいだろうか、ドラゴニア族のフォルスだ。 それにしても人に名を聞く場合は自分からと教わらなかったか?」
やや不機嫌そうな顔をしてフォルスさんは腕組みをする。
「すみませんフォルスさん。 私はガルド大陸元ブレインガーディアン部隊長のカナリア=ファンネルです。 こちらのギガントが同じく元部隊隊長のカルマン。 そちらの青い髪のヒューマンも同じ元部隊隊長のキールです」
「ほう、随分貧弱そうな部下をトリシアは抱えていたものだな」
「あぁ!? なんだと!?」
「カルマン! 抑えてッ!!」
ジロリとその視線をフォルスさんはカルマンとキールに向け、嘲笑うかのような笑みを浮かべる。
「どうした? 図星を言われて傷ついたのか?」
「少し物言いがすぎねぇか? 管理者だかなんだか知らないが、少しは礼儀を知った方が女性の品も上がるぞ?」
キールは視線を鋭くさせ、フォルスを見る。
その姿は今にも掴みかかりそうなほどの迫力がある。
「お生憎様だね、アンタらみたいなお子様にはこちとら興味ないもんでね」
随分とトゲのある言い方をフォルスさんはする。 それでは喧嘩を売っているのと同じじゃない!!
見ればカルマンもキールもひきつった笑みを浮かべている。
絶対に怒っている……
「自分が子供じゃないって言うんだったら武器を取りな、相手してあげるよ」
あ…… これは完全にわざと怒らせに行っている。
こんなわかりやすい挑発引っ掛かるわけないのに……
「どうした怖気づいたのか、腰抜けめ」
「んだと!? おい!キール! このまま言われっぱなしでいいのか? 俺はよくねぇ!! コイツの自信を砕いてやるよ」
「俺も随分と頭にきてるんだわ、手加減できないかもしれないぞ」
え…… 嘘でしょ……
「クッハハハ…… 二人纏めてかかってきなよ、遊んでやる」
「どこまでも舐めやがって……」
「後悔しても知らんぞ」
カナリアは頭を抱え、その戦いを見守ることにした。




