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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第2章 アルテア大陸
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side シェリア=バーン=アルテア ~赤髪の少女~

 やっぱり降り出してきちゃった。


 ポツリポツリと体に当たる雨は静かに街に降り注ぐ。

 いくつものテントが見渡す限り並ぶ街は、どうやら私以外誰も外に出ている様子はなく静かなものであった。



「どこまで着いていけばいいの?」



 私と同じような赤い髪色の少女は私の前を鼻歌を歌いながら歩く。

 その鼻歌はどこかで聞いたことのあるような既視感を感じる。



『もう少しだからそんなに焦らないでよ』



 種族は獣人族なのだろうか? 頭には小さな角が生えている事以外は獣人の特徴である耳や、鳥人の特徴である翼も見受けられない。


 他種族?なのだろうか。 

 この大陸には獣人や鳥人以外は根本的に少ない。 今は戦時中でましてやこんな小さな子供はいったいどこから来たのだろうか。


 夜になればアルテアの気候は夏でも一気に変わる。

 昼間とは打って変わって肌寒いはずなのにこの少女は黄色のワンピースという格好だ。



「寒くはないの?」



 自然に出た言葉であった。

 いくら慣れている土地だからといってその恰好はあまりにも寒そうだ。


 少女はくるりとこちらに向き直り微笑む。



『暑いのも寒いのももう感じないから』



 少しバツが悪そうに微笑む少女の瞳には悲しみが見られた。


 それはどういう事……


 少女は再び前を向くと駆けだす。



「あっ!? ちょっと待って!!」



 少女はまるで風のように走る。

 落ちている草や枝が舞い、まるで通り道になっていく光景にシェリアは目を丸くする。


 このままでは見失ってしまう……


 シェリアも少女が駆け出した方へ走る。

 少女の通った跡はなぜだかキラキラと輝いているようで、その姿を見失った今でもよくわかるものであった。



「いったい何者なの!?」



 速さには自信のあったシェリアは置いて行かれたことに驚きを隠しきれなかった。


 街から少し離れた場所まで来てしまった。

 おそらくここは首都アルタとナウルの丁度中間あたりなのだろう、川の音がすぐ近くで聞こえる。



『ようやく来たね』



 少女にようやく追いつき、息を整えて前を見る。



「これは…… お墓?」



 立ち止まっていた少女の前には小さな石碑。

 この少女はなんでここまで案内したかったのだろうか……



『ここは王家の墓だよ』


「え!?」



 思わず声が出てしまった。 王家の墓はちゃんと首都アルタの近くにある墓地の中にあるはず。

 こんな木々に覆われた手入れのされていない石碑がその王家のお墓であるはずがない。



『まぁ疑問に思うのも無理はないよ。 ゴートンだって最初は君みたいな反応をしていたからね』


「貴方はいったい……」


『そうだね。 そろそろ名乗らないと不審者扱いされても困るからね。 私は初代アルテア国王 バーン』



 小さくそのない胸を張る少女は言葉を失っている私に変わり話を続ける。



『いいねいいね、そういう顔嫌いじゃないよ。 これは嘘でも冗談でもない真実の話なんだよ。 現に君達王家の名前にはバーンという言葉が入っているだろ?』



 確かにその通りなんだけど……



『ちなみにこれは私のお墓でもあるんだよ。 王家と私は密接な関係で縛られている。 そうがんじがらめにね』



 ぎゅっと恥じらいながら少女は自分を両腕で抱く。



『と、まぁその王家は世襲制じゃないっていうのはよく知ってるはずだよね?』



 それは文献にも乗っている。代々アルテアの王家は王の子供が次期国王となるものではなく、力を持つ者が次の王となる。

 だからアルテアの王家は入れ替わりが多いと言っても過言ではない。



『その助力をしてきたのが初代国王のこの私なんだよね。 私が気に入った人たちを代々国王にしてきてるんだよ』



 開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。

 理解はできるけど、突然すぎてわからなくなりそう……



「それで今回選ばれたのは私って事? ずっと私の中に居たのはバーンさんだったの?」



 そう、あのアルタの戦いで意識に割り込んできたのはきっとこの人なのだ。



『バーンでいいよ。 これから長い付き合いになるんだし、そうそうあの時もちゃんと君の中で眠っていたんだよ。 君が私を起こしたと言っても過言ではないかな。 今回もたくさん魔力をもらったし、しばらくは起きてられそうかな』



 そっか、あの時の宝珠はそれで消費されちゃったのかぁ……



「それでなんで私をここに連れて来たの?」



 危ない危ない、驚きすぎて忘れるところだった。 自己紹介ならわざわざこんな場所まで来る必要はないし、あの場所でも良かった気が……



『ここじゃないとちゃんとした契約はできないからだよ。 簡単に言うと今までは仮契約ってところだったって感じかな。 契約のする場所は本来ここ。 私が埋まっている場所じゃないとダメなんだよ』


「え……」


『まさか生きてると思った!? 残念!! バーンちゃんは死んでいるのです。 ショックと違って私の肉体はもう土に還っていると言っても間違いはない。 今は意識だけの存在と言った方がわかりやすいかな?』



 よ、よく喋るなぁ…… 初代様……



『ま、ちゃっちゃと済ませて帰るとしよう。 君は私と違って風邪も引いたりするし、アルテアの夜は冷えるのだろう?』



 先ほどまで気にもしなかったが、雨足は先ほどよりも強まっている気もする。

 風も出てきたようで少し肌寒い。



『さぁ、手を石碑に当てて』



 ひやりと冷たい石碑に手をつける。



『万象の理。 炎龍の身印。 風神の恩恵。 初代国王バーンの名において契約する。 この者に我の力の根源を授けることを。 ここに契約は成立せり』



 シンと静まり返った森に雨音だけが響く。


 契約はこれで終わり? 何も変わったことのないような……



『はい、終わったよ。 どうしたの? もしかして派手な演出とかの方が好みだった? だったら最初にそう言ってよー、特殊な光とか怪しい煙とかやればよかったー、まぁできないんだけど』


「で、できないんだ……」



 クスクスと楽しそうに笑う少女もとい初代様はその姿が次第にぼやけ始めている。



『さ、早く帰って休もう。 実体化も疲れるんだよね』



 ぐーっと伸びをして掻き消えるように初代様は消えていく。

 頭の中に直接語り掛けるように響く。



『大変なのはむしろこれからなんだから……』



 その言葉は一末の不安を私の中に残した。




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