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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第2章 アルテア大陸
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side ガージェフ ~計算~

 

「してやられたといったところだな……」



 そう大きくため息を吐くガージェフはちらりと戦場を見渡す。

 立て直しが難しいほど敵の策略により戦力を分断され、敵味方が入り乱れ交戦している。

 当初の予定では多少の差異はあれど、戦力が拮抗することなどありえないはずであった。


 予定を大きく狂わせた原因は何か。

 イレギュラーなる存在の介入。 あの金髪のヒューマン、は誰なのかという事だ。

 今まさにテオの攻撃を防いでるあの男。普通の鍛え方ではテオと渡り合うのは不可能なはず……


 まぁいい。 


 ちらりと視線を戻し、目前で武器を構える双子の王族軍の騎士、カインとアインを見据える。


 この戦いにおいて一番に警戒するべきなのは、アルテアの王であるゴートン=バーン=アルテア、それと騎鳥軍団長ガイアス=エンドレアの二名だ。

 ただ、その次に上がってくる名前はおそらく、キルア=エンドレア、ホーソン、そしてこの双子のカインとアインだろう。


 並の騎士相手ではちときつい相手は何としてでも俺らで何とかしないといけないわな。

 特にこの双子のコンビネーションはアルバラン様お抱えの暗部からの情報通りだ。

 それぞれの得意な武器は違うようだな。 そこが狙い目…… でもあるか。


 まずは様子見といこうか。



「スチールアロー」



 鋼鉄魔法は土魔法の上位の魔法だ。

 魔法には上位魔法、下位魔法に別れており、およそ七つの属性に下位と上位がある。

 上位魔法はより多く魔力を消費するが、威力は段違いに変わる。


 ガージェフの背負っている大きめの矢筒に鋼鉄の矢が百近く補充されていく。



「アイン、来るぞ!」


「わかってる」



 ほう、まずは狙いを定まらせないよう攪乱し、左右から同時に攻めるか。



「なっ!?」


「うわっ!?」



 ガージェフは左右の腰に取り付けられていた連射用のボウガンを二丁左右に持つと、狙い澄ましたかのようにカイン、アインに向けて放たれる。


 次々と打ち込まれるボウガンの矢を躱しながらカイン、アインはガージェフへと迫る。


 遠距離、弓を扱うものにとって接近戦こそが有利に立ち回れるからだ。

 動体視力、運動神経ともに並以上、これでは並の騎士では相手にならないわけだな。


 ガージェフは片手のボウガンを上に向けて放つ。

 そしてすぐに二丁のボウガンを腰に装着すると迫るカインに向け素手でガージェフも迫る。



「っつ!? 素手!?」



 突然の行動に面食らったカインは大きく距離を取った。

 そう、素手の怖さはマーキスで体感しているカインにとって不安感が襲うのだ。



「む、距離をとるか、そうか」


「カイン、どうしたんだよ!? 相手は素手だ。 爪の届く範囲だっただろ!」



 アインが叫ぶ。 そうあのままカインが切りかかっていたら間違いなくガージェフへと当たるはずだったのだ。


 ガージェフはすぐに背負っていた弓を構え、カインへと放つ。

 それはボウガンの時よりもずっと速いものだ。 



「ぐっ!!」



 カインは身を捻ることにより肩を掠めるだけで済んだ。

 そのまま飛びのくようにガージェフから距離を取る。


 その弓を放った隙を狙いアインがガージェフへ急接近、死角へと回り込み、短剣で迫る。



「もらった!!」


「よせ!! アイン!!」



 カインが叫ぶが、アインは短剣をガージェフへと突き立てようとした時に横目でその動きを読んだガージェフはアインの手を掴み振りかぶり地面へと叩きつける。



「ごはっ!?」



 一瞬何が起こったのかわからなくなったアインはそのまま流れるように腕を取られ、投げられたのだ。

 地面に激しく打ち付けられたアインは息を肺から押し出され、苦悶の声を上げる。


 鎧の淵を掴んだガージェフはそのままアインを持ち上げる。



「ぐっ……」



 片腕で宙づりにされたアインは苦しさから声を漏らす。



「まずは一人」


「おあぁああああ!!!」



 勢いよく決死の横っ飛びでアインを蹴り飛ばしたカインは、ガージェフが掴んでいた手からアインを離すことに成功した。

 そこに先ほどまでアインが掴まれていた位置にガージェフが最初に放った矢が降り注ぎ地面へと突き刺さっていく。



「ごほっ、ごほっ、助かった……」


「こいつ……」


「惜しいな、もう少し落ちてくるのを速めるべきだったか」



 顎鬚を撫で、落ち着いた声音で話すガージェフとは対照的にカインとアインは翻弄されっぱなしであった。


 そう、俺の得意なのは弓だけではない、体術の心得は誰よりもあると自負するほどだ。

 特に制圧術、投げを基本とした素手の護身術はテオに劣らない。

 常に先手を取り、相手の間合いを占領する。これは戦略においても同じことだ。いかに相手の嫌がる場所、行動をとっていくかが重要になる。


 情報は力だ。

 相手を知るという事はおのずと未来予知にもつながる。

 ということはだ。 こいつらが取る次の選択肢はおのずと絞られる。



「エリアサイレンス」


「うっ!? 音が!?」


「アイン、一旦立て直す、森だ。 あそこなら地理的優位を保てる」


「わかった」



 二人は一旦距離を取るようで、背後にある森へと駆け込んでいく。


 やはりな。 



「おい、中央にテオが引き付けている隙にお前らは回って城壁を狙っていけ、俺は少し狩りに出る。なぁにすぐに戻る」


「「「「はい」」」」



 ガージェフは付近にいた騎士に指示を飛ばすとゆっくりとした足取りで森へと向かう。


 急ぐことなどない、獲物はおのずと姿を現す。

 連射用のボウガンに矢を次々に補充し、森へと一歩踏み出す時に魔法を発動させる。



「コンセントレイト」



 集中力強化の魔法。 

 ガージェフは森へ入ると目を閉じ、耳を澄ませる。

 人の五感はよくできており、視覚を封じることにより、聴覚、嗅覚、触覚、味覚を鋭敏にさせる働きがある。さらに集中力強化のコンセントレイト、周囲の無駄な音を消し去るサイレントの魔法をかけたことにより、より相手の息遣い、話し声などがよく聞こえやすくなる。


 もう少し奥か。 


 無音の中二丁の連射用のボウガンを手にガージェフはひたすら突き進む。


 そこか……

 岩陰のようなものの傍で二人身を隠し、こちらの様子を伺っているが、随分焦って走ったようで、息遣いが駄々洩れだ。これでは隠れてる意味などないな。


 ガージェフは弓を背から取り、三本矢筒から引き抜くと再び予測地点へ向け落ちるように上空へと放つ。

 さらに続けて同じように引き抜き再び放つ。


 そうして準備が整ったところで目を開け、駆け出しながら二丁の連射用ボウガンで隠れている場所へと打ち込む。



「おわ!? なんで!?」



 焦った声を上げ、二人はジグザグに隠れていた場所から飛び出し、矢の雨の中森の中を縦横無尽に駆け抜けていく。



「カイン、右だ」


「おう!」



 ガージェフはカインが急転換し、右へと移動したことに舌打ちをする。

 右に避けたことによりガージェフがあらかじめ予測して放った矢が当たらず地面へと突き刺さる。

 本来であったなら進行方向であったカインの行く先に直撃であったのだがまんまと避けられてしまった。



「ちょこまかと…… スチールアロー」


 矢を補充し、再び腰に戻すと、弓を取り、上空へと放つ。

 休む暇など与えるものか。

 駆け出し、連射用ボウガンで素早く隠れたアインの場所に向けて放つ。



「うっそ!! バレてる」



 アインの元へ的確に降り注いでいく矢の雨の中、掠る程度でしかダメージを与えられていないことに苛立ちが募る。



「獲物は大人しく狩られるべきだ」



 疲労の為か今度こそ、アインにあらかじめ予測して放っていた矢が突き刺さっていく。



「アイン!!」


「だ、大丈夫だ。 この程度動ける」



 再び木々や岩場に隠れるカインとアイン達にこのままでは長丁場になると感じたガージェフはガシガシと頭をかく。

 本来であればさほど時間もかからず終われたものだが、如何せん双子の危機回避能力には驚かされるばかりだ。

 魔力も無限ではない、さらに指揮をするものがこれ以上離れるべきではない。

 やることはまだまだ山積みだ。こんなところで時間を無駄に消費するものでもない。



「鬼ごっこはお終いにしよう」



 ため息を吐き、気持ちを切り替える。

 一番効率の良い動き、相手がどう動くかを計算し、先を読む。


 すっと感情を消したような表情へと変わったガージェフは、すっと弓を取り出し、一本だけ構える。

 弓を引く音すらこの場所では聞こえることは無い。 そして隠れているであろう頭上にと放たれた。


 カインがこちらに顔を覗き込んだのは放たれてから数秒後の事であった。



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