それぞれの役割
「うぉおおおお!!」
次元収納から槍を取り出したアリアはやり投げの要領で勢いよくテオに向かって投擲する。
風を切り裂き、真っすぐテオに向かって槍は突き進んでいく。
「ガイアス!!」
「わかってる!!」
ガイアスは勢いよく槍を振るう、ドロドロになった槍の先は雫の様に槍先から離れると無数の鋼鉄の刃となり、テオへと降り注ぐ。
複合魔法により沸点を超えた鋼鉄の槍は再び空気に触れることにより急激に冷まされ、再び鋭い無数の刃となる。
二か所からの同時攻撃。
勢いよく飛来する弾丸のような槍と刃の嵐がテオを襲う。
テオの体はバチリと紫電が纏わり、迫りくる轟音を伴う槍を、無数の刃の嵐の中を避けていく。
「見えてるっていうのかよ……」
ガイアスは渾身の攻撃を避けられていることに驚きを隠せなかった。
アリアの放った槍は顔をそらすことで皮一枚を軽く切る程度で躱され、無数の刃はまるでそこに来ることがわかっているかのように避けていく。
「ガイアス!!来るぞ!」
ドンという音と共にテオの居る位置の地面が爆ぜ、雷撃を纏ったテオがガイアス目掛け突進する。
「ぐっ!!」
咄嗟に飛びのき、翼をはためかせ上空へと離脱したガイアスは冷汗を流す。
先ほどまで居た場所は大きく抉れ、テオが斧を振り下ろした後であった。
歯を食いしばり、アリアは次元収納から弓と矢を取り出し、すぐにガイアスに追撃しようと弓を取り出したテオに向け放つ。
「む……」
寸でのところでテオは放つことを止め、矢を回避する。
ぐるりとその鬼のような形相をこちらに向ける。 どうやらターゲットは移ったようだ。
急いで弓を次元収納にしまい込み、剣と盾を取り出し、構える。
すぐに一直線にこちらに駆けるテオとぶつかり合った。
金属同士の甲高い音が響き、火花が飛び散る。
「おぉおおお!!」
「ぬぅううう!!」
テオは剣に持ち替え、激しく打ち込んでくる。 だが、アリアも盾と剣を巧みに扱い捌ききっていた。
その剣戟の様子は周囲が見惚れてしまうほどであった。
誰もこの戦いには手出しできず、ただ邪魔にならぬように距離を取り、見守ることのみ。
一部を除いて。
汗を拭い、胸の鎧の隙間から魔力回復薬を取り出したシェリア=バーン=アルテアはそれを開け、一気に飲み干す。
シェリアの体に徐々に魔力が補給されていく。
「もう少し…… ヒール!」
照準を合わせ、アリアに回復魔法が放たれる。
淡い光がアリアを包み、怪我をしていた左肩の傷が徐々に治っていく。
「くぅ……」
膝をがくりと着いたシェリアは肩で息をする。
戦場の真ん中で足を止め、膝をつく姿は敵にとっては格好の的でしかない。
そこに様子を伺っていたガルディアンナイトの騎士が無数の矢をシェリアに向けて放っていた。
「らぁああああ!!」
シェリアの前に着地したガイアスが矢を全て槍で吹き飛ばしていく。
「動けるか?」
「大丈夫です。 まひょくも…… むぐっ、戻りました」
すぐに二本目の魔力回復薬を飲み干したシェリアはぐっとガイアスにサムズアップする。
「はは、誰の影響だ」
苦笑いをしたガイアスは再び、アリアとテオの戦っている場所へ駆けていく。
「私も頑張らないと……」
シェリアは内心何もできていないことに焦りを覚えていた。
あの時は声が聞こえたのに…… どうして……
アルタの戦い以来シェリアは謎の声を聞くことが無くなっていた。
あの時は危機的状況で、もうダメかもしれないと思ったら聞こえ始めた。あれはそういう状況じゃないと発揮できないものなのだろうか。
頭を振り考えるのを止め、次元収納から剣と盾を取り出したシェリアは、不利的状況になった王族軍の援護に回る為、ガイアスとは逆方向へと走る。
戦場は中央を避けるように入り乱れ、圧倒的な力のテオが参戦したことにより、味方である王族軍、騎鳥軍は劣勢に立たされることとなっていた。
■ ■ ■ ■ ■
【side カイン】
テオが戦場に混乱をもたらしている中、ヒリヒリとした緊迫感がこちらにもあった。
カインの足元には無数の矢が落ちており、矢の雨の中木々を縫うようにカインは避け続けていく。
……いったいどれだけ矢があるんだよ!!
そう口から本音が漏れてしまいそうになるほどいくつもの魔法で作られた矢がカインやアインに降り注いでいく。
「カイン、右だ」
「おう!」
飛びのくようにカインは矢を躱し、矢を放ったガージェフは止めを刺せなかったことを舌打ちする。
「ちょこまかと…… スチールアロー」
ガージェフの鋼鉄魔法により、背負っている矢筒に百を超える矢が補充されていく。
素早く三本づつ掴み、上空へと放つ。 さらに休む暇を与えず、移動し、流れるように連射用のボウガンをアインに向け放つ。
戦う場所を切り開かれた平野から森へと移した三人は、お互いに地の利を生かし、攻防していた。
「うっそ!! バレてる」
草木に隠れながら移動していたアインに的確に矢が降り注いでいく。
どうやらガージェフにはカインやアインの位置はわかられているらしい。
ガージェフの雨のような矢の嵐に二人は近づくことすらできないでいた。
「獲物は大人しく狩られるべきだ」
アインが避けた先に既に放たれていた矢が降り注ぐ。
「ぐぅううう!!!」
アインの腕や足に矢が突き刺さっていく。
「アイン!!」
極力小さな声でカインはアインを呼ぶ。
「だ、大丈夫だ。 この程度動ける」
アインは歯を食いしばり、腕と足に刺さった矢を引き抜くと真っ赤な血が流れ出る。
「つぅ…… 」
「肩を貸せっ」
すぐにアインの元へ駆けつけたカインはアインの肩を強引に掴み、支え走る。
カイン達とガージェフは距離は離れてはいるもののガージェフは狙い澄ましたかのように的確に追い詰めてきている。
「鬼ごっこはもうお終いにしよう」
連射用のボウガンに矢を補充しながら、ガージェフはため息を吐くように答える。
森の中を悠然と歩く姿はまさに狩人であり、さながらカインやアインは獲物のようであった。
岩場の陰に二人は身を隠すと、カインは鞄から包帯と回復薬を取り出す。
「飲め、アイン」
「ん、……ありがと」
ぐるぐると勝手も何もわかっていないめちゃくちゃな巻き方でカインはアインに応急処置を施していく。
額には汗が滲み、いつになくカインは焦っていた。
徐々に癒えていく傷口に安堵の息を漏らし、再び様子を伺うように来た道を慎重に確認する。
気味が悪いほど静かだ……
まるで森の中の音が無くなってしまったかのように今は草木の揺れる音さえも聞こえてこない。
その原因は森に入った瞬間にガージェフが放った魔法エリアサイレントによるものだ。
この魔法は周囲の余計な音を全て取り除く。
草木の音、風の音、足音、本来であればその全ての音が取り除かれる。
ただ、話し声だけは無効なようで、それ故に今まで場所がバレてきていた。
極力大きい声は出さず、慎重に行動せざるを得ない、余計な音が全くしない為どこにいるのかは目視で確認するほかなかった。
自分やアインの息遣いだけがやけに大きく聞こえる気がして気が気ではいられなかった。
思わず息を呑む。 ヒリッとした危機感を感じ上を見上げると、カインの目前まで矢が迫っていた。




