参戦
周囲の喧騒が嘘のように消え、誰もがその声に振り返る。
「はぁ…… テオ…… 殿……」
息を切らしながらそう言葉を漏らすセスティはテオが見ている視線の先を辿った。
その視線を辿っていくと一人の人物にぶち当たる。
今もこちらから目をそらさないように細剣を構えるキルア=エンドレアもそのことに気づいているようだ。
動揺しているのが隠していても伝わる。
「狙いは私か……」
テオは背から剣を引き抜くと真っすぐキルアの元へ駆け出す。
「くっ、不味いな……」
キルアは横目で迫るテオの姿に焦りを感じていた。
ただでさえ厄介な敵であったセスティの援軍としてガルディアンナイトの団長であるテオが参戦するとなるとキルアの勝機は絶望的な物へと変わる。
あまり意識をそちらに割いてしまえば間違いなくセスティは隙をついてくるだろう。
今もセスティの目は真っすぐキルアに向けられている。
「あまりウチの妹をいじめるのは兄として見過ごせんな」
「兄さん!!」
キルアとテオの丁度間に着地したのは、キルア=エンドレアの兄である、ガイアス=エンドレア。
茶色い翼をはためかし、槍を構え、鋭い目つきでテオを睨みつける。
「あの時以来だ…… テオ……」
悲痛な表情で剣と盾を手にし、その金色の結ばれた髪が風に靡いていく。
「お前が…… 裏切り者か」
その鬼のような形相をさらに歪めて、テオはガイアスの隣に着地したヒューマンを睨む。
赤とシルバーの鎧に身を包んだ、あらぬ罪を被せられたアリアはあの時以来再びテオと対峙する。
「あれがテオ……」
そう声を発したのは緑色の鎧に身を包んだアルテアの姫であり、獣人シェリア=バーン=アルテア。
今はその耳はピンと張りつめており、表情は硬い。
アリアのやや後ろに着地した彼女は、テオの威圧感に思わず息を呑む。
「シェリアはさっき言った通り今回は支援魔法を頼む」
「わかりました、ハイディフェンダー」
シェリアはアリア達から距離を取り、アリアとガイアスそれぞれに強化魔法を施していく。
この移動している間にもシェリアは高度な強化魔法を覚える為に猛勉強していた。防御力をあげるこの強化魔法はテオとの戦いではかなり重要な為だ。
テオの攻撃は一撃一撃が強く重い、それを防御しようにも逸らそうとしてもこちらの防御力が低ければ簡単に力負けしてしまうからだ。
空気がピンと張りつめ、テオを中心に一斉に皆距離を取り始めていく。
そう、この場所に留まるという事は巻き込まれる覚悟をしなければならないからだ。
私は一度テオと戦い、そして完全敗北を喫した。
あの時失った左腕は再び再生したが、あの時の痛みまでは忘れたわけではない。
盾を握る左腕に鈍い痛みが走る。 これも幻だとわかってはいても嫌でもあの時の光景を思い出してしまう。
ちらりと横目でガイアスの方を見れば、鋭い視線を今もテオに送っている。
「今度はそう簡単にやらせると思うな」
そう、ガイアス=エンドレアを捕縛したのは何を隠そうテオなのだ。
「あのまま捕まっておればよかったものを……」
テオは地面を踏みしめ、勢いよく蹴り、ガイアスへと急接近する。
その速さは先ほどまでの比ではない。
地面は蹴り上げた土砂が舞い、その距離を一瞬で詰める。
「オォオオオ!!」
「ラァアアア!!」
剣と槍が激しくぶつかり合い火花が散る。
交差するように二人は移動すると、テオは狙いを変えアリアに鎖鎌を放つ。
その攻撃は長年見続けてきたものだ。 避ける場所をあらかじめ読んで放っているこの攻撃は本来の自分の居る位置からはややずれた場所へと放たれている。
さらに遠心力も加わったこの鎖は触れた相手を素早く拘束するのに向いている。
これの対処方は……
そう動いてはいけない。
「ほう」
鎖鎌は私のすぐ横を勢いよく通り抜けていく。
そのままアリアは一気に踏み込むとテオまで超接近する。
剣をそのまま振り下ろす。
鎖鎌を瞬時に手放したテオは背から長剣を引き抜きその攻撃を防いだ。
金属同士の甲高い音が響き渡る。
その防いだ隙を狙いガイアスはがら空きとなっている腹部へと槍を突き出す。
テオは長剣をそのまま片手で回転させるようにするとその攻撃でさえも弾いてしまった。
「さすがにそう簡単にはいかないか」
作戦は失敗。隻腕の弱点ともいえる防御に集中させることは適わなかった。
そう、テオの恐ろしいところは武器を入れ替えるスピードが異常に早く、武器の扱いがずば抜けている事だ。
弾いたばかりの回転した長剣を、そのままのスピードを維持したまま背にしまい込むと流れるように斧を取り出しアリアに向かって振り下ろしていく。
「くっ!!」
アリアは迫ってきていた斧を左手に持った盾で受け流していく。
……重い。
足をしっかりと踏ん張っていないと持っていかれる程の威力を持った一撃は地面を抉るように破壊していく。
防がれたのを確認したテオは、その巨体にも関わらず軽やかに距離を取るようにバク転する。
そしてそのバク転の最中にも関わらずテオは背から弓を取り出して、口には矢を咥え、着地と同時に放った。
正確無比に飛ぶ至近距離の矢をアリアはスライディングの要領で避ける。
「オラァアアアア!!」
ガイアスは翼をはためかせ、低空でテオへと迫りその鋭い槍を幾重もテオへと打ち込んでいく。
瞬時に弓をしまい込んだテオは、ガイアスを横目で捕らえると鋼鉄の籠手を嵌め、ガイアスの鋭い突きの応酬を剣先をわずかに籠手に当て、ずらすことにより紙一重で避けていく。
「嘘だろ……」
これにはガイアスも苦笑いするしかなかった。
アリアは駆け出し、次元収納から盾とチェーンアームを入れ替え、テオの左側に回り込む様に放つ。
「む!?」
急旋回する形になったアリアは地面を滑りながらテオの背後へと移動する。
「フレアエレメント!!、スチールエレメント!!」
ぐにゃりと歪んだ形になったガイアスの槍は爆炎と鋼鉄の複合魔法により、液状化していく。
槍は横に長く細く伸び、ガイアスは広範囲のこの技で決めるようだ。
ガイアスは正面から迫り、アリアは背後から首を狙う。 攻撃はほぼ同時であった。
「ボルトエレメント!!」
瞬間、テオの全身に電撃が纏う。
「おごっ!?」
「ぐおっ!?」
驚異的な速さに達したテオは長剣を音のような速さで引き抜くと、アリアの攻撃を弾き飛ばし、ガイアスの攻撃を押し飛ばした。
「ヒール!」
シェリアはきりもみしながら吹き飛んだアリアに回復魔法を施す。
青白い光がアリアを包み、傷が瞬時に癒える。
転がりながらも勢いを殺したアリアは瞬時に起き上がり、地を思い切り蹴り上げ、すぐに態勢を崩しているガイアスの元へ移動する。
そう、既にガイアスに向けてテオは斧を振り上げていた。
「間に合えっ!!」
次元収納から大楯を取り出したアリアはテオとガイアスの間に無理矢理入り込む。
とてつもなく重い一撃が大楯にぶち当たり、二人は激しく吹き飛ぶ。
アリアは吹き飛ばされている間も痺れそうになる腕を握りしめ、盾が持っていかれないようにこらえながらもテオの事は視界から外さないようにしていると、テオは今まさに吹き飛んでいる私達に追撃を加えようと背から槍を引き抜いた。
あれは…… マズイ!! 貫通力の高い槍だ。
雷撃の恩恵のせいで音の様な速さで飛来する槍がこちらに当たるのは必然的だった。
咄嗟にアリアは後ろで同じように吹き飛んでいるガイアスを掴むと、チェーンアームをすぐ下の地面に向けて放つ。
チェーンが突き刺さるのとテオが槍を放つのは同時だった。
衝撃波が巻き起こる程の速さで飛来する槍は、アリアがチェーンアームで無理矢理位置をずらしていなければ直撃であった。
「ぐぅうう……」
体を地面に伏せ、アリアは左肩を押さえる。
避けきれなかった…… 掠っただけでこの威力なのか……
アリアの左肩は軽く抉れるように出血している。
「助かった、アリア」
「気にしないでください、それよりも!?」
二人は息つく暇もなく左右に別れるように飛びのく。
その二人の間を音速の矢が通過し、地面が爆ぜる。
休む暇など与えてはくれないみたいだ。
「ハイスピーダー!!」
さらにシェリアが強化魔法を付加してくれる。
この局面でのスピードの強化はありがたい。さらに速くなったテオの攻撃がこれでようやく追い付けるというものだ。
ちらりとシェリアを見ればやはり肩で息をしていてその表情は辛そうにしている。
強化魔法も回復魔法も大きく魔力を消費する。
シェリアも頑張っているんだ。私達が頑張らなくてどうする。
歯を食いしばり、痛みに耐え、再びアリアは駆ける。
アリアが戦うの見るの久しぶりだな……( ˘ω˘ )




