雷撃のテオ
もうだめだぁ…… おしまいだぁ……(;O;)ガクガク
「そろそろ出るとするか」
ガルディアンナイト後方、戦場の様子を今の今まで見守っていた後方の荷物部隊を待機させ、立てかけておいた武器一式を装備し始める。
「ここは任せるぞお前達」
低い声で若い騎士に声を掛ければ、皆璃々とした表情で答える。
「「「はっ、命に代えましても」」」
そう声を掛けられた騎士達は士気が高く、どうやら興奮冷めやらぬようだ。
それもそのはずだ、この若き騎士達は配属され日が浅く、テオの戦いをこれから始めて見ることになるのだ。
地面を歩けば地響きが鳴るような錯覚に陥る。二メートルを超える身長はギガントの中でも小柄な方だ。
だが、その存在感、威圧感だけはどのギガントよりも大きく見える事に違いない。
短い炎のような赤い髪、褐色の肌には無数の傷跡が残りその鍛え上げぬかれた筋肉は太く硬質だ。その風貌は他の大陸でも知れ渡っており、見る者を恐怖のどん底へと叩き落す。この男には勝てる気がしないとそう思わせる何かがテオには存在するのだ。
その実力は隻腕であったとしても揺るがない。
国王演説の後にアルテアへと戻ってきたテオは右腕一本となっていた。
仲間たちはその痛ましい姿に嘆き悲しんだが、テオは隻腕であっても十分に強い事は誰もが承知の事だ。
実際に隊長の一人であるデニーは組手の際隻腕のテオに手も足も出なかった。
一歩一歩、踏みしめるように進む。
テオの背にはいくつもの武器が収納され、がちゃりがちゃりと音を立てている。
剣、盾、槍、鎖鎌、弓、長剣、手甲、斧とどれも一級品以上の武器達を揃えている。武器商人がこの姿を見れば間違いなく卒倒するであろう国宝級の武器達だ。
テオは目を細め、遠くに見える戦場の光景を眺めると、敵の策略により不利な状況に陥っていると理解できた。
それだけで情報は十分。
後方部隊は中衛部隊よりもかなり離れた位置に待機してある。
テオはその中衛部隊の場所を目指し、地面を踏みしめると大きく一歩踏み出し、走る。
一歩地面を蹴るごとに地面は爆ぜるように土砂が舞う。徐々に加速していくと敵の王族軍もきずき始めて、その進行を妨げようと向かってくる。
テオは腰にぶら下げた鎖鎌を取ると迫ってくるグルータルにまたがった騎士に向かって投げる。
騎士はその攻撃を避けようと持ち前のスピードを生かし左右へと避けようと動いた。だが、まるで生き物のように鎖鎌は避けた先へと追っていき、鎖がグルータルもろとも蛇の様に巻きついていく。
「なっ!?」
そのまま鎖を力任せにテオは引くと一人と一匹の足は宙へと浮かび、引き寄せられるように横の騎士もろとも激しくぶつかっていく。
「ごあっ!?」
ぶつかられた王族軍の騎士は大きく吹き飛び、引き寄せられた騎士は身動きもとれないまま、テオが背から引き抜いた剣によって胴体を両断される。
「……」
剣に付いた血を払い、背に戻し、鎖鎌も拾いなおすと再び腰に引っ掛け、再びテオは走り出す。
まるで何もなかったかのように。
その光景を見た王族軍の騎士達はあるものは顔を青ざめさせ、逃げるように散っていく。
「うぉおおおおおお!!!」
参戦した騎鳥軍の騎士が雄たけびを上げ、空からテオを狙い打とうとする。
テオはちらりと確認すると、驚くべき速さで弓を背から取り外し、構え、矢を口に加え狙いを定めて放つ。
驚くことに両者が矢を放ったのは同時となり、騎鳥軍の騎士が放った矢はテオには当たらず、テオが放った矢は騎鳥軍の騎士の眉間を貫いた。
さらにテオは尚も進む。
「アクアショット!!」
水属性の弾丸は走るテオに向かっていくつも発射される。 雨のような攻撃はいつの間にかテオの取り出した盾によって弾かれ、さらにテオは止まることなく騎士に向かって突き進む。
「な、なんで!? 強化された攻撃なのに!? ひぃ、く、来るな、来るなぁああああ!!!」
鈍い音を立て、そのまま盾によって弾き飛ばされた王族軍の騎士は宙を舞い、激しく地面に激突する。
「数で攻めろぉおおお!!!」
囲む様に迫る王族軍と騎鳥軍の騎士達。
だが、テオは気に留めた風もなくただ無言で背から長剣を引き抜く。
「ボルトエレメント」
雷撃を全身に纏ったテオは次々と迫る騎士を音のような速さで切り捨てていく。
付加魔法。
それは本来であれば強力すぎる故に武器のみに付属される魔法であるが、テオはそれを全身に付加させることが可能な唯一無二の存在である。 本来であれば激しい付加電流の電圧に肉体は持たないのだが、テオは長年鍛え上げた肉体と魔力操作によりそれを可能とさせている。電流はテオの表面をなぞるように纏い、あらゆる器官の発達を促し、脳の筋力のリミッターを解除させる。
人では成しえない超人の領域へと進むことができるのだ。
圧倒。
まさにその言葉が相応しい。
類まれなる武具の才能、鍛え抜かれた肉体、精密なまでの魔力操作が彼を最強と至らしめることとなったのだ。
テオは倒し終わると付加魔法を解除させ、再び走り始める。
魔物が森からいくつも出始めているのに気づくと、方向を変え、チューンボーグの群れの中に突っ込んでいく。
斧と長剣を切り替えながら流れるように次々と魔物を切り刻み、肉塊と魔石へと変えていく。
付近で戦っていたのであろう騎鳥軍の騎士が叫ぶ。
「なっ!? 魔物が一瞬で!? ぐあぁああああ!!!」
ついでともいわんばかりにテオは騎鳥軍の騎士を切り捨て、逃げようと背を向ける王族軍の騎士を視界に捕らえる。
「テオだぁああああ!! 逃げ……」
逃げる騎士に追いつき、首を撥ねる。
さらにその前に走って逃げる騎士に一歩で追いつく。
「速っ!? ギャアアアアア!!」
槍を構え、逃げる騎士の背を一撃で貫いていく。
槍を引き抜くと戦場をさらに恐怖させる為、仲間の士気を上げる為、テオは、俺はここにいるぞという意思を込め腹の底から叫ぶ。
「オォオオオオオオオオオオオ!!!」
その声に誰もが音を消し振り返る程だ。
テオはその鬼のような表情で周囲を伺うと、ぴたりとある一点に視線を止めた。
苦戦しているセスティが戦っているキルア=エンドレアに。
キルア逃げて!! めっちゃ逃げて!!Σ(゜Д゜)




