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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第2章 アルテア大陸
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ホーソンVSデニー ~決着~

 水飛沫が激しく舞い、ぬかるむ大地はより一層ひどいものとなっている。


 デニーの強力な豪水魔法によりあたり一面水浸しになって、戦うデニーとホーソンにもその影響が出始めていた。



「!?」



 お互いの武器がぶつかり合った際にデニーはその重量もあってか、ぬかるんだ大地に足が深く沈みこんでしまった。


 そんな隙をホーソンは決して見逃さず、緩んだ手元から攻撃の要であるデニーの金槌を思い切り弾き飛ばした。


 一瞬の隙、それがデニーにとっては致命的となる隙をホーソンに晒す。



「ディスペル!!」



 ホーソンは再び剣を力を込めて握りしめ、そのがら空きとなった腹部めがけ、浄化魔法を発動させ渾身の一撃を叩き込もうと一歩踏み込んだ。



「クイックフリージング!!」



 急速にホーソンの濡れた足元が瞬時に凍る。



「!? ぐっ!! 冷却魔法だと!!」


 ホーソンが気をつけねばならなかったのはデニーが他の属性の魔法をあえて使っていなかったということ。


 足を一瞬取られ、その隙にデニーは大きく距離を取った。


 攻撃は空振り、しかも着いた足元が再び固く凍り付いた。



「ふぅ、奥の手はこちらも用意している」


「こんな氷っ! なっ…… 割れない…… だと」



 足元をすかさず剣で破壊しようと試みたが、氷が分厚く、ホーソンの力をしても割ることができない。



「はぁ、俺の魔力をほとんど注ぎ込んだんだ、そう簡単に割られたら困る」


「くっ…… 」


 完全に動きを封じられた。


 デニーは金槌を拾いなおし、ホーソンに止めを刺すべく歩み寄る。



「これって、ナイスタイミングって奴だな」


「!?」



 デニーが声のする方向を慌てて探す。



「上か!!」



 見上げれば、空中からまさに落ちて来たスキンヘッドの黒人の異世界人。

 アルテアの勇者、ロマナ・マーキス。


 拳を握り、その分厚い氷に渾身の一撃を叩き込む。



「【防御破壊】!!」



 けたたましい音を立てあんなにも分厚い氷が一瞬で砕け散っていく。



「なっ!?」



 その様子にデニーもホーソンも唖然と声が出ないでいた。


 砕け散った氷が細やかに風に舞う。



「場所もナイスだな、ガイアス」



 マーキスはにかりと笑い、上空を飛んでいるガイアス=エンドレアに向けてサムズアップする。

 そう、マーキスはガイアスに運ばれ、ここへ落とされたのだ。


 丁度デニーとホーソン、二人の中間に着地したマーキスは服に付いた氷の破片を払いのけるとデニーに向き直る。



「ヒーローは遅れて登場するもんだ。 この奥の手は読んでいたか?」



 指を指し、自信満々にマーキスはさらに言い放つ。



「そう、読めてな……」


「マーキス殿、戻られたんですね。 ガイアス殿の救出上手くいったみたいで……」


「ちょ、まって、まだ今俺途中だったんだけど……」



 ホーソンがマーキスの話にかぶせてしまった為なんとも締まらない形になってしまった。



「助かりました。 私の【幻獣化】ももう限界だったんです」



 みるみる内にホーソンの【幻獣化】が解かれ、元の姿に戻っていく。 【幻獣化】は時間制限があり、長期戦には不向きなのだ。



「なぁに、任せておけ、見たところ久々に強敵みたいじゃないか、腕が鳴る」



 マーキスは指を鳴らし、拳を顔の前に形作る。



「その【能力】、異世界人か。 魔力が尽きてしまったのは痛いが全力を尽くそう」



 デニーは静かに構えを取る。



 ドンとお互いに一歩大きく踏み出し、距離を詰める。


 一歩の差ではギガントであるデニーが勝り、その凶悪な金槌をマーキスの腹部めがけ、振る。


 ゆらり、まさに残像のようにマーキスはその凶悪な一撃を躱す。



「!?」



 デニーから見れば間違いなく当たった攻撃であったが、感触は空を空しく切るのみ。


 すかさず、マーキスはデニーの死角に一瞬で入り込む。


 死角に入られるのは慣れているデニーであっても気づくのが一瞬遅れ、マーキスを見失ってしまう。



「オオオオ!!」



 ぐるりとデニーは普段はしない回転攻撃をし、至近距離の死角に入ったマーキスを狙う。



「おっと危ねぇ」



 すぐにその場から離脱したマーキスはその攻撃に巻き込まれずに済んだ。

 再びデニーは金槌をさらに短く持ち直し、至近距離に対応できるように、死角に入りこまれないようマーキスに攻撃をしていく。


 だが、マーキスはのらりくらりとデニーの素早い攻撃を目で追いながら避けていく。



「左のストレート」


「ごあっ!?」



 デニーの攻撃を躱しながら迫り、左の一撃をマーキスは繰り出した。



「腕か……」


「ぐうぅう……」



 マーキスは腹部を狙い繰り出したが、咄嗟にデニーは体をよじり、デニーの左腕にぶち当たる。

 金属製の腕の鎧がはじけ飛び、デニーの痛みを押し殺した苦悶の声があがる。


 デニーは一旦距離を取り、痛めた左腕を確認する。

 左腕は一部の鎧が取れ、腕は赤く腫れあがっている。



「くっ、防御魔法も施してある鎧に何故……」



 当然の疑問だった。 あの爆発の罠でも傷一つ付かない防御魔法の施された鎧をいとも簡単に吹き飛ばしたのだ。


 しかもマーキスは素手である。


 弾かれるのが基本であり、ましてや先ほどのような能力も使っていない。



「疑問に思うだろう。 それはな……」


「さすがマーキス殿、もう一つの能力【硬質な拳】はどんな金属よりも硬いとされている。 そのような鎧などもはや紙きれのようだ」


「……ホーソン、俺が言いたかった」


「なにっ!? すまない!」



 またしてもホーソンが解説してしまった……



「ふぅ、なるほど…… 厄介なものだな能力者は……」



 ヘルムから表情は見えないが、声は痛みを押し殺しているものだった。


 再びデニーはマーキスに急接近、その脅威の金槌をマーキスに向けて…… 投げる。



「!?」


「オオオオオオオ!!!」



 マーキスの回避はその攻撃を目でよく見てから後ろにずれる形で避ける。

 顔面へと迫る金槌を顔を逸らすことによってなんとか避けたマーキスは両腕を広げ、圧殺しようと迫るデニーの腹部に一撃を叩き込む。



「右ストレートォオ!!」



 衝撃がデニーの体を突き抜け、デニーの腹部の鎧は激しく飛び散る。

 被っていたヘルムががらんと落ちるのと同時に、デニーはそのまま両腕を広げたまま白目を向いてその場に崩れ落ちた。



「安心しなぁ、ちゃんと加減してるからよ」





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