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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第2章 アルテア大陸
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ホーソンVSデニー

【アルテア大陸 東部】



 ホーソンはブルりと震え、体に付いた水滴を跳ね飛ばしていく。

 ちょうど汗もかいてたこともあり水浴びにはうってつけだったと思わず笑みが零れる。



「相棒、そっちはまかせるぞ」


「ガルルル……」



 グルータルは駆け出し、付近にいたガルディアンナイトに襲い掛かる。


 長年の友であるグルータルに付近でこちらに警戒しているガルディアンナイトの事は任せた。

 後はギガントでも異様な雰囲気のあるこいつか。



「フン!!」



 デニーは力強く一歩大きく踏み込み、手に持った先端が細いハンマーを振り下ろす。



「ぐっ……」



 その攻撃を手に持った盾で威力を受け流すように逸らしていく。

 盾に衝突すると同時に火花が散り、体制が崩れそうになるのを踏ん張って留める。



「オオオ!!」



 そのままの勢いを保ちながらデニーは振り下ろしたハンマーを返すように振り上げていく。

 その攻撃は盾には当たらず空しく宙を切るに終わった。



「ふぅ、距離を取ったか」



 デニーはヘルム越しに見えるホーソンの姿は先ほどよりもやや距離を取る位置にいることに気づいた。

 ギガントにおいては距離を取るのは悪手と言われている行為だ。



「あのままだと盾を取られかねないんでな」


「はぁ、気づいていたか」



 そうデニーにとってはギガントの苦手とする接近戦こそが真価を発揮する。

 あえて柄の長いハンマーを使うことによりギガントにとって弱点であるはずの至近距離の戦いに持ち込む、それこそがデニーの思惑である。


 デニーの腰の位置ににぶら下げてある金槌はそのための物だ。

 デニーの流れとしてはあのまま盾をハンマーで引きはがしてから接近戦に持ち込むつもりだった。



「その動きはギガントの中でも異質だからな」


「ふぅ、そうか…… だが」



 デニーは再び距離を詰め、ハンマーを振るう。



「わかったから何だというんだ?」



 その巨体に似合わない程機敏にデニーはハンマーを態勢が崩しやすい位置を狙い、的確に放ってくる。

 ギガントの一歩は獣人等に比べるまでもなく距離を詰めるのが可能だ。

 次々に打ち込まれる攻撃を前にさすがのホーソンも防戦一方とならざるを得ない。


 防御に徹し、徐々に後退するホーソン。



「フン!!」



 ホーソンはハンマーの強力な一撃をしゃがんで躱し、すぐにその場から飛びこみ、左方向へ大きく転がる。


 後を追うようにデニーが一歩左に動いた時、凄まじい爆発がデニーを襲う。



「さすがのアンタもこれには気が付かなかったみたいだな」



 この辺りは特に爆薬が地面に仕掛けられている地帯だ。

 獣人特有の嗅覚でしか探知できないこの罠は、至る所で役に立っている。

 土砂が吹き飛び、白い煙が立ち上る。


 ギガントとはいえあの爆発だ。 ただではすまないだろう。



「ふぅ、やはりな……」


「これはちと想定外だな……」



 白い煙をかき分け、鎧がすす汚れただけのデニーが変わらぬ姿で現れる。



「はぁ、常々こういうのを警戒するために防具には力を入れている。 残念だったな」



 あれだけの爆発があったにも関わらず無傷に近い、相当な硬度の鎧、高度な防御魔法が掛かっているということだろう。

 これでは並の魔法や攻撃では全く歯が立たないことになる。



「それじゃあ、もう一つの手を使うまでだ」



 ホーソンは懐から青色に輝く球を取り出した。



「これで出し惜しみは無しだ『幻獣化』!!」



 一時的に身体能力を高め、古の幻獣の力を宿すこの宝珠は奥の手ではあったが、ここで使うべきだと本能が叫んだ。


 筋肉が怒張し、瞳の色は藍色に、髪が伸び、盾は体の一部となり、左腕は鱗の様になっていく、人間とあまり変わらなかった顔はさらに獣じみて、口からは鋭い牙が伸びていく。


 獣人族秘伝である『幻獣化』は見た目をも大きく一時的に変えてしまう。


 だが、それ以上に凄まじい力を一時的に得ることができるのだ。



「……スプラッシュエレメント、ハイスピーダー」



 デニーも静かに水属性の付加魔法と強化魔法を自身にかけていく。



「驚きはしないんだな」



 ホーソンはデニーに向かいそう言うと、確かめるように手を握ったり開いたりを繰り返す。

 実はホーソンが『幻獣化』をするのは初めてではなかった。

 過去にも一度だけ『幻獣化』をして戦った経験者でもある。 この宝珠はなかなか手に入るものではない、過去に使った際はそのあまりの変わりように自身や敵すらも驚いたものだ。


 だが、珍しいはずの幻獣化に驚きもしないデニーに引っ掛かりを覚える。



「はぁ、お主より強い者を知っているからな」



 勢いよく振りかぶったハンマーを叩きつけるようにデニーは繰り出すと、勢いよく水流が滝の様に迫る。


 だが、これは揺動だ。

 本来の目的は……


 一歩大きく前進し、剣を抜き放つ、金属同士の激しい音と火花が飛び散る。


 このあまりにも大きい水流の本来の目的は視界を妨げる事、攻撃を放ったと同時にデニーは急接近し、金槌に持ち替えた武器で虚を突く算段だったはずだ。


 身体能力が大幅に強化され、ギガントのパワーにも屈しなくなった。

 デニーの攻撃をホーソンは上に弾き、がら空きとなった腹部に浄化魔法を叩き込もうとする。



「ディスペル!!」


「ウォタガ!!」



 左手を突き出したデニーが放った豪水魔法が少し早く発動、ホーソンの攻撃が届く前に水流で押し流す。


 水流に巻き込まれるホーソンであったが、力技で水流から抜け出て、再び距離を詰めるべく迫る。



「アクアショット」



 幾重にも連なる水の弾丸はホーソンに向かって勢いよく発射される。


 それを時には躱し、左の鱗で弾いてスピードを保ったままホーソンは駆け抜けていく。



「ふぅ、厄介だ」


「そりゃあどうも」



 再び激しくぶつかり合い、交差するようにお互い移動する。


 デニーは巧みに隙ができないよう果敢に金槌で攻める、ホーソンも負けてはおらず、左手で攻撃を受けながしながら剣で打ち合う。


 水飛沫が舞い、ホーソンとデニーが戦っている周辺はデニーの豪水魔法により泥沼化し始めていた。

 激しく剣戟は繰り広げられ、その様子に周囲も手が出せない状況になりつつあった時、それは起こった。



「なんだ、あの魔法は……」



 東の空に伸びる程の爆炎が渦を巻き、戦場を蹂躙していく。



「ふぅ、余所見か」


「くっ……」



 まさかあれが軍団魔法か、噂には聞いていたがとてつもない威力だ。

 あちらに展開していた部隊はひとたまりもなかったか……


 再び意識を切り替え、攻防に付くが、デニーの体力が衰える気配がない事に戦慄を覚える。


 こいつ、疲れを知らないのか……


 先ほどから打ち込まれる攻撃の勢いは弱まることはなく、むしろ強まっているほどだ。

『幻獣化』を施しているのにも関わらず優位な立ち位置に付けないホーソンは、その不気味さに冷汗が流れる。


 この幻獣化も長時間ではない為早めにケリをつけたいところだが、如何せん目立った隙をデニーは見せようとしない。


 長期戦に持ち込まれてはこちらが不利なのは明白だ。


 だが、再びぶつかり合った際、ホーソンはデニーの金槌を思い切り弾き飛ばす。


 ここだ!!


 ここで決める。



「ディスペル!!!」



 何も武器を持たないデニーに向け、渾身の一撃をホーソンは浄化魔法と共に放った。



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