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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第2章 アルテア大陸
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軍団魔法

「右側がそろそろ頃合いか」



 ガージェフはそう言いながら不揃いの顎鬚を手で撫でると、左右の騎士に指示を飛ばす。


 ガルディアンナイトの軍は現在アルダール、デニーを含めた前衛部隊が王族軍とぶつかり、激しい戦闘を繰り広げている。


 ガージェフ率いる一軍は前衛と後衛の丁度中間に位置する立ち位置におり、支持を受けた騎士達が右に横並びに展開を始める。


 その様子をガージェフは眺め、矢筒から一本の矢を取り出す。

 その矢の先端には不思議な事に穴が開いている。


 ガージェフは弓を引き、右の上空へむけて穴の開いた矢を放つ。


 キーンという甲高い音が周囲に響き渡る。


 その音は前衛で戦っている者達にも聞こえるほどであった。



「なんだ、今の音は……」


「見ろ、敵が引いてくぞ、今が好機だ」



 王族軍の者達は急に前衛で戦っていたガルディアの兵が、慌ただしく引く様を見て絶好の好機が巡ってきたと果敢に攻め始めた。



「ぐぁあああ!!」



 グルータルにまたがった王族軍の青年は全力で逃げるガルディアのエルフの騎士に追いつき、一太刀浴びせた。



「よしっ、ただ妙だな、こんな急に一目散に逃げるなんて……」



 青年はその光景を見て一瞬で青ざめるほどの危険が迫っていることにようやく気付いた。


 ガルディアンナイトの軍は前衛と中衛を入れ替え、横一列に並んだ騎士が二列になり杖を翳している所だった。



「なぁっ!? 戻れっ!!」



 慌てて青年の騎獣兵はグルータルを翻し、戻ろうと試みるが……



「放て!」



 ガージェフの無慈悲なる叫びが響く。



「「「「「「「「「「フレア!!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「サイクロン!!」」」」」」」」



 一斉に放たれた中級魔法は、重複し、うねりを上げて混ざり合う。

 爆炎が空に伸びる程巻き上がり、暴風の魔法が加わり強力な火災旋風による巨大な火災竜巻が全てを飲み込もうと王族軍に向けて放たれた。



「こんなっ…… もっと速くだっ!!」


「うわぁああああ!! 逃げろぉおお!!」


「そんなっ!!グルータルより速…… ぎゃあぁあああああ!!!」



 戦場は一気に阿鼻叫喚の地獄となった。



 山を切り崩したことにより遮るもののなくなった火災竜巻は逃げる王族軍を飲み込み、燃やし尽くし突き進んでゆく。


 火災竜巻が消えた跡には焦げた大地と無残に焼け焦げた敵兵の死体が転がるだけであった。


 このガージェフの指揮した軍団魔法により、王族軍の騎獣兵の半数近くが壊滅に追い込まれた。



「セスティ、前衛の回復を頼むぞ、再び引き付けた後もう一度放つのでな」


「はい、わかっております」



 セスティ達中衛の治療班は次々と戻った前衛を回復し、再び強化魔法を掛けなおしていく。


 軍団魔法は強化魔法だけではなく、攻撃魔法も重複するものがある。

 中級の魔法であっても複数で一斉に唱えれば威力は飛躍的に上がり、その魔法は上級魔法を遥かにしのぐ威力にもなりうる。



 ただこれは相当な訓練を積み、術者の息が合わなければ不発にもなりうる魔法でもある。


 回復が終わり再び自分の役目を果たすため前衛は敵の元へ駆け出していく。


 魔力を消費した杖を持った騎士は懐から一斉に魔力回復薬を取り出していく。

 こういった軍団魔法は一人で魔法を行うよりもかなりの魔力を消費されやすい、その為の魔力回復薬は常に常備している。



「ぐぉっ……」


「がはっ……」



 ガルディアンナイトの騎士が魔力回復薬を飲んだ瞬間、飲んだ騎士達が血を吐いて勢いよく次々倒れていく。



「何事なの!?」



 セスティは突然目の前で起こったことに驚きを隠せなかった。

 あれはこちらで持ってきた代物のはず…… いったいどうして……


 まさか!



「飲むのを止めなさいっ!!! これは毒よ!!」



 セスティは落ちている魔力回復薬の瓶を拾い上げ、中の液体を手に取り匂いを嗅ぐ、本来であればこの魔力回復薬は無味無臭なのだが、この瓶に入っている物は仄かに甘い匂いを漂わせている。


 やはり、毒とすり替わっている。 首都アルタで確認した際はこんなことなどなかったというのに…… まさか、あの幻覚を見ていた際に仕組まれたというの!?


 魔法職数人がこの毒入りの瓶を口にしてしまったせいで中衛部隊は魔法を使える者が減り、大きな痛手となってしまった。



「敵にも小賢い者がいるみたいだな」


「ええ、そのようです」



 遠くに見える敵の城壁を眺め、悔しさのあまり奥歯を強く噛みしめるセスティであった。






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