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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第2章 アルテア大陸
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交戦

【side ガルディアンナイト】



「やはり幻覚だったみたいだな」



 デニーは落ちている矢を拾い上げ、見た数と矢が当たった数のあまりの少なさにそう声を漏らした。



「こっちは完全に注意を引き付ける囮だったってわけか」


 アルダールは舌打ちし、見晴らしの良くなった周囲を眺め、敵を探す。


「さすがに見えるとこにはもういねぇか」


「そりゃあこれだけ木が伐採されていたら近くにいるわけがないだろう」



 周囲では浄化魔法や浄化作用のあるパーシェルを飲んで正気を取り戻しつつある。


 これだけ違和感なく幻覚に陥るなど今までなかったが故に、他の騎士達もどうやら驚きを隠せていない様子だ。

 それだけ相手も今回は本気というわけだ。

 だが、脅威であった幻覚は既に破られた後だ。 何も恐れることはない。



「まぁ、こんだけ木を切り崩しておいて、幻覚がバレたんならお前ならどうするよ?」


「決まっている、小細工なしで戦うまでだ」


「そうだな、俺もそうするし、敵もそうするだろう。 ほら、見えて来たぜ」



 俺達ギガント種は身長が他の種族よりもはるかに高い。

 その長身での利点の一つ、遠くの物を発見しやすいってことだ。


 デニーが後続に聞こえるように叫ぶ。



「敵前方接近! 騎獣兵だ。 こちらもスピードを上げるぞ!!」


「「「エリアハイスピーダー!」」」


「「「エリアハイディフェンダー!」」」



 後続のセスティ達の部隊から支援魔法が前衛に次々に掛けられていく。


 魔法を効率化し、重複して複数かけることで効果を底上げする。

 要はブースターの役目を後続は行ってくれるのだ。


 故に我らの弱点である足の遅さをカバーし、回復や支援に徹することで、前衛は果敢に前へ出れる。


 これがガルディアの軍団魔法の力だ。



「行くぞぉおおお!!!」



 拳を掲げ叫ぶ。



「「「「うぉおおおおおおおお!!!!」」」」



 仲間の咆哮が轟く。


 ついにガルディアンナイトと王族軍が激突したのだ。


 泥を跳ね飛ばし、グルータルに乗った王族軍は勢いよくこちらに向かってくる。

 グルータルという足の速い魔物に乗って現れた王族軍は、散らばり、ジグザグとした動きでその距離を詰めにきている。



「まずはこれでもくらいやがれぇえええ!!」



 アルダールは掴んでいたトゲ付きの大きな鉄球を振りかぶり、王族軍が群がる中に向かい勢いよく投げる。


 ヒューマンの成人の大人程もある大きさの鉄球が勢いよく音を立てて飛んでいく。

 まるでそれは大砲でも撃ったほどの速さだ。


 ゴウという風を切る音を置き去りに、鉄球は目的の場所へ着弾する。

 それは地面を激しくえぐり飛ばし、そんなものに当たってしまえば間違いなく即死であろう一撃が音を立てて落ちる。


 だが、訓練された精鋭である王族軍のグルータル達はこれを難なく躱してさらに距離を詰め始めていた。



「ガァアアア!!」



 グルータルが吠える。まるで脅威はないと叫ぶようにも聞こえる。



「外れちまったか、まぁただ、それで終わりだと思うなよ」



 ぎちりとアルダールの手に握られているのは銀製のチェーン。

 それは鉄球まで伸びており。


 アルダールはぐるっとチェーンを巻き掴み、思い切り引き戻す。


 ボコッと突き刺さったままだった鉄球は勢いよく外れ、チェーンを操るアルダールの傍まで勢いよく戻ろうとする。



「なっ!?」



 鉄球が再び背後から襲ってくるなどとは思わなかった王族軍の一人が声を上げたのも束の間。

 大きくグルータルもろとも弾き飛ばされ、激しく地面に転がる。



「まず一人、次々行くぞぉお!!」



 声を上げ、果敢にアルダールは走り始める。



「サンガー」



 雷の刃がアルダール目掛け飛来する。



「余所見をするな」



 迫っていたいくつものサンガーをデニーは焦る素振りもなく、手に持ったハンマーで次々とたたき消していく。



「ハハッ、やるじゃねえか」



 アルダールは笑い、再び新たな敵を狙う為鉄球を振り回す。


 ギガントはその身長故に狙われやすい、だが……



「我らは簡単に勝てるほど甘くはない」



 足元を通り抜けようと駆けていた敵兵をデニーは手に持ったハンマーですくい上げるように弾き飛ばす。

 その威力は凄まじく、敵がハンマーに当たると派手に吹き飛んだ。


 敵も強化魔法を施されているが、それでもパワーはこちらの方が何倍も上だ。


 ハンマーに付いた汚れを振り払い、再び駆け出す。



 ■ ■ ■ ■



【side ホーソン】



「やはり脅威となるのはギガントか……」



 手綱を操り、駆けだした我らの前に立ちふさがるのは二倍以上の背丈もある巨人の兵だ。


 集団魔法がかけてあるのか恐ろしくその動きも速い。


 だがそれ以上に速くなれるのが我らだ。



「「「エリアハイスピーダー」」」



 あちらも使うならこちらも使うまでだ。

 速さでグルータルに適うものなどいない。



「速さで翻弄して確実についていくぞ! 散らばれぇえええ!!」


「「「「おぉおおおおお!!!」」」



 掛け声と共に一気に散開し、迫る。


 目前に迫るギガントの一人が大きく振りかぶり何かを左方へと飛ばした。


 凄まじい爆発音と衝撃が響く。

 ちらりと見ると人の大きさにもなる大きな鉄球が大地を穿っていた。


 あの鉄球…… あの位置が、本隊か!


 先の首都アルタの戦いで真っ先に攻撃を加えたギガントは巨大な鉄球使いだった。

 体格も他のギガントとは違い、さらにでかい。

 おそらく敵の主力の一人だと思われるギガントであり、早急になんとかしないといけないが……


 鉄球はかなり速かったが、今の我々であれば避けれない速さではない。


 しかし…… ここからでは遠すぎる。 今は目前の敵の撃破を優先しよう。

 グルータルに乗った我らは、交差するようにするりと飛び交う魔法攻撃を躱していく。



「おおおおお!!」



 鎧を着こんだギガントの斧の一撃を、すんでで躱し、回り込む。


 そのまま、剣を勢いに乗せギガントの左足を切り払う。



「ごぉおおお!!」



 血しぶきが舞う。 刃はギガントの足に突き刺さるが、だが今のは致命傷にはまだ早い表面をわずかに切っただけだ。

 おそらく防御魔法も施されている肉体はなかなか深く切ることは難しい。

 ギガントはその巨体故に軽装が多い、おそらく重装備は動きが制限されるからだろう。


 それ故の防御魔法だ。

 だが、我々も経験上多くを学んでいるのだ。



「ディスペル!」


「ギャアアア!!」



 そう、魔法防御、攻撃力増加、それら全てをなかったことにする浄化魔法。

 近距離にしか作用しないがその効果は歴然だ。


 上級浄化魔法ディスペル。


 これを全ての王族軍は覚え、実戦に臨んでいる。


 表面に刺さった剣はそのまま加速、魔法防御が無くなった肉体はいとも簡単にその刃を受け入れる。

 そのまま左足を切断。



 切断を回復させる魔法など存在しない。


 これでこの者はしばらく動けまい。

 崩れ落ちるギガントの騎士を横目に次の敵へと飛び掛かる。



「ガォオオオ!!」



 鋭い爪で、グルータルも牽制、主力を失ったエルフの騎士二人は慌てふためいている。



「グルル……」



 おや、ここは……


 グルータルはぴたりと攻撃するのを止め、バッと瞬時にグルータルは下がる。



「おのれぇえ!!」


「うぉおお!!」



 ぴたりと足を止めた俺に、好機と見た騎士二人が切り込もうと一歩踏み出した。


 直後。


 凄まじい音と共に騎士が踏み込んだ先が爆発する。


 騎士はその爆発に巻き込まれ、木っ端微塵になったようだ。



「なかなか凶悪な罠を作ってくれたじゃないか……」



 冷汗が足らりと流れる。


 爆発した後は地面が抉れ、草に燃え移った赤い炎が揺れる。


 この罠はフェニール殿がリーゼアに渡った際に見つけたとされる爆薬の設計図を改良を加え、地面に設置したものだ。


 この爆薬の原料になっている物はなんでもグルータルが嫌いな臭いを発しているらしく、鼻のいいグルータルは踏むことが決してないのだそうだ。


 それにしても驚異的な威力だ。



 振り返るとあちこちで同じような爆発音が轟いている。


 幻覚の罠に爆発の罠、これらが敷き詰められたこの戦場は我らには有利に働いてくれている。


 剣に付いた血を払い、再び数を減らすためにスピードを生かし駆ける。














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