side セスティ ~行軍~
sideガルディアンナイトです。
【アルテア大陸 南東 密林の道】
あれほど鬱陶しく降っていた雨は今日になってようやく止み、見上げれば木々の隙間からは眩しいくらいに日差しが当たる。
前回の首都アルタの戦いに勝利した私達は、多くの武勲を上げた団長のテオ殿が授与式に出るということで一時的な滞在を余儀なくされた。
前回の戦闘の決定打となったのはやはり、騎鳥軍の大半の離反による内部分裂が招いた隙をついた攻撃であったのが大きい。
しばらくはその離反の中心人物であったダルタニアンという男を介し、一時的に同盟を組んだのだが、どうにもあの男は信用できない気がする。
あのうさん臭そうな眼つきは私は受け付けない。
さらに、テオ殿が向かった授与式ではまさかの国王の暗殺という嘆かわしい事件が発生。
そして最悪な事に国王を暗殺した敵は未だに捕らえられていないと聞く。
テオ殿は負傷を負わせたものの直前で逃げられてしまったと悔しそうに語っていた。
民衆の前で堂々と暗殺をやってのけ、逃亡。 どこまでも舐めた真似をしてくれる。
テオ殿が言うには暗殺者はアルテアに潜んでいる可能性が高いと、であればわざわざこちらが待つ必要などはない。
必ず炙り出し、その身に深く恐怖を刻んでやると、皆が一致団結し、まずは逃げた先である第二首都を落とすべきだと結論に至った。
そうと決まった私達はガルディアンナイトの大半の人数を引き連れ行軍を始めた。
本来であればその第二首都までは二日ほどの距離にあるのだが、獣人達が逃亡する際にサルク運河と呼ばれる大河に掛かる大橋を崩壊させたことにより、私達は遠回りである迂回路を取る形になってしまった。
まったく忌々しい獣人どもめ!
それに長く続いた雨によって舗装されていない道はぬかるみ、重装備の者や食料などを運ぶ馬車が足を取られ長い事足止めをくらっている始末だ。
現在三日目にしておそらく距離にして半分ほど、予定よりも大幅に遅れている。
この大陸に来てから散々だ。
「あんまり眉間にシワ寄せてっと取れなくなるぞ、セスティ」
私の前に嫌がらせの様に覗き込みながらギガントであるアルダールは言う。
「煩いわね。 只でさえ進行が滞っていて苛ついてるんだから」
気楽でいいわね脳筋は。
行軍の最中だというのに、黒いタンクトップに青いダメージ加工されたジーパンというなんともラフな格好で現れたのは、身長五mにもなる金髪のリーゼント姿のアルダール。
ラフなところ以外で特徴があるとすれば、私の身長程にもなるトゲ付きの鉄球を背負ってることぐらいか。
「そんなんだから胸もちいせぇんだ。 気楽に考えろよ」
「はぁ!? 今は胸の話は関係ないでしょ!! 確かに種族的にエルフはスレンダーが多いけどそれとこれとは話が別でしょ!!」
まったくデリカシーってもんがこいつにはないのか!?
ないわね、完璧にゼロだ。
「うるせぇ! 今行軍の最中なのを忘れてねぇか?」
「す、すみません、ガージェフ殿、でもこいつが」
私を厳しくたしなめたこのヒューマンの男性は、ガージェフ殿。
テオ殿と同じく古くからガルディアンナイトに所属し、数えきれない武勲を上げているお方だ。
「いいか、敵は俺らよりも鼻と耳が発達してる種族だ。 昨日までだったら雨に紛れて音と匂いはごまかせたかもしれねぇが、今日はあいにくの快晴だ。 そして戦争で大事なのは情報だ。 この騒ぎが敵に気づかれてみろ、対策をとられるだろうが」
ガージェフ殿はこのガルディアンナイトのいわば頭脳だ。
知識が豊富で、戦略においてガージェフ殿の作戦は成功率が極めて高い。
「この大陸は俺らにとって未知なものが多い、数では勝っていたとしても土地勘はあちらの方が上手だということを忘れるな 」
「「はい」」
ガージェフ殿は再び顎の髭を触りながら思考する。
「おそらく今日あたり何かしらあちらは行動を移すはずだ。警戒を怠るなよ」
そう、今までは大雨が降っていたおかげか獣人達の襲撃などは一切なかった。
不自然なほどに何もなかったのが逆におかしいのだ。
「そういえばテオ殿はどちらに?」
状況の確認のためにさっきから探してはいるのだが、一向に姿が見えない。
「ああ、テオか、今は後方で士気を高めてる。 どういうわけか、戻ってきてから随分と積極的になったもんだよなぁ」
「団長はあまりそういうことはしてこなかったから、この授与式をきっかけに心の整理がついたんじゃないか?」
そうだといいんだけどね。
戻ってきてからの団長は雰囲気は変わってはいないのだけれど、こういった交流にも積極的に行動するようになっていた。
前までの寡黙でクールなテオ殿もいいが、社交的なテオ殿はやはり珍しく思える。
「お、皆さんお揃いで」
人混みをかき分け、こちらにやってくるのはアルダールと同じくギガントのデニーだ。
彼もアルダールと並ぶ4m越えの巨体である。
「おう、デニーか、この暑いのにそんな鎧を着こんで平気かよ?」
アルダールは武装じゃなくて完全に普段着じゃない。
「ふぅ、暑いに決まってるだろ、はぁ、だがお前は着なさすぎだ。 いつ敵が襲ってきてもいいように構えるのが基本だぞ」
この二人はいわば極端に対照的だ。
デニーは性格が真面目なため、行軍の際は必ずヘルムまで覆ったガルディアンナイト特製のフルプレートに身を包み、いつも気を張っている。
「そんなんじゃいざって時に動けんだろ、見てるこっちまで暑くなってきたぞ」
そういって額の汗をぬぐうアルダール。
危なくなったらこいつを盾にしようかしら。
「ちょうどいい、デニーも来たことだし、今後の作戦を話し合うとするか」
ガージェフ殿は鞄から周辺の地図を取り出し、岩の上に広げる。
「ちぃせぇ」
「お前らがでかすぎなんだ。 まぁ大体を決めるだけだ。 地図はそんなに重要じゃねぇ」
私達はいわば各班の隊長でもあるので、こういった会議はよくあったりする。
普段はここにテオ殿も交えて行うのだが……
会議にも参加しないし、いったい何があったというんだろう。
「いいか、俺らは各隊の要だ。 絶対に死ぬことは許さん。 指導者や指揮官を失った隊は脆い。そこをちゃんと頭に入れておけ、まずは基本編成だ。 アルダールは攻撃に特化した連中を集めて前線に着け、突破口をこじ開けろ。 さらに同じく前線にデニ―の部隊だ。 ただあくまでもデニー達はアルダール達の補助を、厄介な敵がいたら優先的に狙っていけ。 セスティは後方援助と攻撃ができるときに遠距離攻撃を担ってもらう。 深追いはするな、あくまでも補助に徹しろよ。 俺はその中間で補助魔法と阻害魔法でバランスを図る」
「テオ殿はどの位置に着く予定ですか?」
「あいつは基本は後方待機だ。 前線がこじ開けた突破口をさらに突き破る位置に置いて、後方の防御も担ってるからな」
「なるほど」
「これはあくまで基本編成だ。 さっきも言ったが土地勘は向こうの方が上だ。 あくまで冷静に対処を忘れるな、それにここから第二都市までは上り坂になっている。 これは何か仕掛けてる可能性が高い」
地図を指し示すとわずかに坂の上の方に第二都市の場所が丸く線で囲まれている。
「ふぅ、それじゃあ、この道は危険なのでは?」
デニーはこの道、つまりわずかながらに木がなく、ぬかるんで泥の道となったこの場所を指し示す。
「そうだ。 だから別の道を行く」
しかし周りを見渡してもそれらしい道はみつかりはしていない。
「魔物が通る獣道を行くぞ」
なるほどね、それなら隠れながら進むことができる。
「しかし、このような大人数で行けますでしょうか?」
問題はそこだ。 およそ百二十人にもなる騎士達は果たして進むことができるというのか?
「獣道は至るとこにある問題ない。 そこでだ、四人組を常に作り第二都市までは分かれて移動する」
「なるほどな、一人が負傷しても戦える陣形か」
アルダールが珍しくまともな事を言う。
「そうだ。 二人組だと一人を見捨てなければ先には進めんが、これなら庇いながら戦える」
見捨てるか……
ガージェフ殿も容赦なく大より小を切り捨てる人なんだな……
それは世の常、当たり前だというのに、胸の内に渦巻く嫌悪感からは目を背けることはできなかった。
「セスティ、どうした? 何かあるか?」
「いえ、今のところは何も」
……
「それじゃ、この案をデニー、テオに伝えに行ってくれ、そしてそろそろ出発だということもな」
「わかりました」
デニーの人混みの中に戻る後姿を見送り、再び私達は前を向く。
この戦いで終わらせよう。
新キャラ
アルダール 身長五m二十㎝ ギガント男性 二十七歳 金髪リーゼント 黒のタンクトップ、青いダメージジーンズ、羽織るだけの赤い上着の三点セット 武器 巨大なトゲ付き鉄球
セスティ 身長一m七十㎝ エルフ女性 二十六歳 アッシュロング ガルディアンナイト特注鎧 武器 円月輪
デニー 身長四m八十㎝ ギガント男性 二十五歳 灰色オールバック ガルディアンナイト特注鎧 武器 ハンマー
ガージェフ 身長一m六十五㎝ ヒューマン男性 三十五歳 顎鬚白髪交じりの黒髪短髪 ガルディアンナイト特注鎧 武器 弓




