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魔法力0の騎士  作者: 犬威
第2章 アルテア大陸
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八つ当たり

しょげないでよべイベ~

 あれから特に会話もないまま、私達は食事の準備をしているマーキスさんの所へ戻った。


 周囲からは肉が焼けるいい匂いが立ち込めている。

 なんとも食欲をそそられる香りだろうかと、普段だったら思うだろう。


 生憎私のほうは食事の気分ではなくなってしまった。



 建物の近くにあった寂れたベンチに腰掛け、再び手を顔の前で組み、思考の海に潜る。



 今まで私は、自分は普通だと思って生きてきた。 


 ただ、違うのは魔法が一切使えないことだけ、他は周りと同じだと思ってきた。


 今でも傷口が変に疼く。


 不思議と痛みはなく、だけども違うのは右肩に腕が無理矢理押し込まれている感じがしてすごく気分が悪い。


 先端を引っ張ってしまえばズルンと腕が出せそうな、そんなもはや人ではないナニカになってしまったようなそんな気分に。


 気味が悪い。



 自分が怖い。


 私は一体何者なんだ?



 覚えている記憶は幼少期の記憶。

 セレスが初めてうちに来た日の事は今でも鮮明に思い出せる。


 だが、その前は?


 はっきりと覚えているのはなぜそこからなんだ?



 だめだ、思い…… だせそうもない。


 違和感はさらに大きくなるばかり。


 私はここで生まれて……


 いや、本当にあの屋敷で生まれたのか?




「……ア様」



 そこがそもそも間違ってるんじゃ……



「アリア様!!」


「!! っと、シェリアか、食事を持ってきてくれたのか?」



 見上げると不安そうな表情をしたシェリアが皿に料理を乗せて立っていた。



「はい、どう…… しました? 顔色もどこか悪そうですが」


「いや、なんでもないよ」


「そうは見えませんが…… その、これ、あちらの世界の料理でケバブというものらしいです。 マーキスさんが大きなお肉を吊るしてカットしていたんですよ。 良かったら一緒に食べませんか?」


「持ってきてくれてありがとうな、でもすまない、今は食欲がないんだ」


「そう…… ですか……」



 シェリアの耳は悲しそうにペタンと垂れ下がったが、直後に閃いたようにピーンと張る。



「あっ!! そろそろアリア様の包帯も変えないといけませんね」


「!!」


「今包帯とかを取り出しますので待ってくださ……」


「やらなくていい!!」


「ひぅ!?」



 ビクッと驚いたシェリアは持ってきていた食事を床に落としてしまった。



「す、すまない、今片付ける。 包帯とかはもう自分でできるからシェリアは今度からやらなくていいよ、薬の方も私が持っているのもあるから大丈夫だよ」


「で、でも…… 」



 床に散らばった料理を拾い集める。


 胸が痛む。


 何をしているんだ私は……


 顔を上げず、そのまま割れたお皿を集めながらシェリアに話す。



「あー…… シェリアも食事まだなんだろ? 先に戻って食べていてくれないか? 私は後でもらうから、今は少しだけ一人にしてくれないか?」



 今はシェリアの顔がどんな顔をしているのか見ることができない。


 こんな八つ当たりみたいな……



「わかり…… ました……」



 その声はどこか寂し気だった。


 去っていくシェリアの背を見て、今の自分がものすごく失礼な事をしたのだと嫌悪感が襲う。


 どうしようもなく自分は臆病なのだと自覚する。


『その腕は隠しておけ』と言われた手前。

 こんな化け物みたいな腕を見せるわけにはいかない。


 知ってしまったら何かが壊れてしまいそうなそんな感じがして。


 見る目が変わってしまいそうな気がして。



 ……とんだ臆病者である。


 シェリアには後で謝らないとな……



 はぁとため息が漏れたその時、ゴチンと頭上に激しい痛みが走る。



「痛ったっ!!」



 思わず頭を押さえ振り向くと、仁王立ちのマーキスさんがエプロン姿で立っていた。



「食べ物を粗末にするったぁいい度胸じゃねぇか」


「ち、違います! これは事故で……」


「知ってるよ、まったく、いい雰囲気だろうと思ったから覗きに来てみりゃ、なんだこの展開は」


「覗いてたんですか……」



 呆れ顔で見るとマーキスさんは悪びれもせず笑う。



「当たり前だろ、若い者の恋路は俺の楽しみの一つだ」


「趣味悪いですよ」


「そんなことは今どーでもいい、何だあの態度は? 八つ当たりか?」



 実際そうなのだからぐうの音も出ない。



「お前は見た目は大人びてるのにそういったところがまだまだ子供だな、ひよっ子だ」


「なっ!?」


「何を悩んでるのか知らないが、もうちょっとうまく隠すのが大人ってもんだ、人に当たるんじゃねぇ、せっかく一緒に食べようと来てくれたんだ、悩みなんか後回しにしてまずはそいつを楽しませることに全力を尽くせ」



 マーキスさんは堂々と言い放つ。



「食事ってのはなぁ、誰かと一緒に食べるのが一番美味いんだ。 一人で食う飯なんてなんにも美味くないんだよ。 笑い合って楽しく食事すればそんな小さな悩みなんていつのまにかどうでもよくなるってもんだ」



 小さな悩み?


 違う!!



「そんな単純な話なんかじゃない!」



 これはそんな簡単な話なんかじゃないんだ。


 私の存在自体に関わる大事な事なんだ。



「何をそんなに焦ってんのか知らないが、少し冷静になれよ、今のお前は最高に恰好悪ぃ」



 思えばどうして自分がこんなに激情してるのかすらわからなくなりそうだった。

 歯止めが効かないそんな気がして。



「これを見てもまだそれが言えるというのか!!」



 左腕で乱暴に右肩に巻かれた包帯を引きちぎり、右肩を露にする。



「ぐっ!!」



 思い切り左腕で右肩の付け根を引っ張ると、案の定ズルンと右腕が引き出される。



「はぁっ、はぁっ、思った通りだ。 ……私は ……化け物だ」



 落胆した。


 嘘であってほしいと思った。


 力を右腕に込めると、未だ鈍い反応を見せるが、動かせるようになっている。



「こんな…… こんな化け物と一緒にいていいわけないだろ!!」



 奥歯を噛みしめ、嘘であったならどんなによかったかと思う。



「いいも悪いもそれを決めるのはお前じゃない。 だからどうしたって話だ。 化け物の体だったからなんだ、それで今までの自分全部を否定するのか? だからひょっ子なんだよ、悩みすぎなんだよ、もっと気楽に便利くらいに思っておけよ」



 よっとエプロンを脱ぎ捨て、指を鳴らすマーキス。



「それでも気が晴れねぇってんなら、気が晴れるまで相手してやるよ、逃げるとか腰抜けたこと言わないよな?」


「当たり前だ」



ケバブは串焼きのケバブとドネルケバブの2種類あり、今回マーキスが作ったのはドネルケバブの方です。

ドネルケバブとは、垂直の串に味付けした肉を上から刺していって積層し、水平に回転させながらそれを囲んだ縦型グリルの熱で外側から焼き、焼けた部分から順次肉を削ぎ落したもので、ギリシャ料理のギロ、イロ、アラブ料理のシャワルーマとほぼ同じ料理である。 ウィキペディアより。

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