第1話 コンビニ弁当と美女
・夜11時、静かなオフィスに2人、
サラリーマンが深夜残業をしている。
1人は、俺の後輩の加藤、
もう1人は俺こと、小泉 雅 、27歳
地方都市で中小企業に就職し、早5年、
特に仕事ができるわけでもないが、
できないわけでもない、可もなく不可もなくの
平社員だ。
身長は172センチ、痩せ型、
顔は切れ長の目と平坦な顔つき、
癖っ毛でボサボサになっている髪型
見た目は昔からあまり気にするほうではない。
そのせいか、昔から周りに女っ気のない生活だった。
性格は、一言で言うならば、平和主義者
困った人をみると、助けずにはいられないし
昔から、人の頼みは断れないほうだ。
学生の時も、社会人となった今も、
人の頼みが断れないからか、
損な役回りが多い。
だか、そんな役回りの甲斐があってか、
周りからは、困った時の小泉さんとよばれるほどだ。
今日も、後輩の仕事の手伝いで、
帰宅するころには、日が回っていた。
1人暮らしで、料理する気力もなかったので、
コンビニ弁当と、缶ビールをならべ、
遅い晩飯を食べていた。
27にもなって、この時間に1人で食べる夜食は
寂しいものだ。
もし、自分が見た目がよく、
なんでも言えて、仕事ができる人であれば
少しは華やかな生活ができたのかな
なんて考えることも、多いが、
周りからはそこそこ信頼されている自信もあり
、自分にとっては悪くない生き方だとも思っている。
弁当も食べ終わり、深夜2時、明日の仕事のことを考えながらベッドに入る。
疲れていたのか、ビールが効いたのか、
電気を消してすぐに、
すっと、意識が暗転した。
コン、コン、
コン、コン、
ドアを叩く音がする。
こんな夜中に誰か来たのだろうか、
と思いながら眠たい身体を起こした。
寝ぼけ眼をあけると、寝ていたベッドとドア以外は全て闇の世界だった。
「なんだ?夢だったのか、
夢の中ぐらいはゆっくりねさせてくれよ」
とボヤきながら、二度寝に入ろうとした。
コン、コン、
また、ドアを叩く音がする。
夢かもしれないが、雅の性格上、
無視はできなかった。
少し大きな声で呼びかけてみた。
「はい!どなたでしょう?」
「雅さん、お話したいことがあります。
ドアを開けてもよろしいでしょうか?」
綺麗な女性の声だった。
雅の名前を知っていて、こんな声の持ち主は知らない、普段なら少し警戒するところだが、
夢の中だと思い、素直にドアを開けてみた。
すると、開けたドアの先には、透き通るような白い肌、胸までの長さで、分け目はセンター分けのストレートの綺麗な黒髪、日本らしい浴衣を着た美女が立っていた。
年は20代後半ぐらいだろうか、
浴衣を着ていてもわかるスタイルの良さと、
ぱっちり二重、整った鼻筋、色っぽい唇、
どこをどうとっても、文句のつけがたい美女だ。
雅は、思わずドアをバタン!と閉め、
ベッドの方にむかい、
「めっちゃベッピンさんやないかーい!!」
と叫んだ。
この行動は、無意識にしてしまったようだ。
ちなみに雅は関西人ではないが、こういう時は関西弁になるようだ。
はっ!と冷静になり、急いで再びドアを開く、
まだいた!よかった!
「雅さん?大丈夫ですか?」
「はっ!はい、失礼しました。
とりあえず中に入りますか?」
「はい、ありがとうございます。」
浴衣美女をベッドに座らせ、
雅は床?(といってもただの真っ暗な空間)に正座した。
夢の中とはいえ、平和主義な雅は紳士な態度に
浴衣美女は安心したのか、ほくそ笑み話し出した。
「はじめまして、雅さん。
私は、ヌル。
この世界とはまた違う世界で
世界を見守る番人をしています。」
雅は、一旦思考停止してしまった。
いろいろと聞きたいことはあるが、
よくよく考えれば、ここは夢の中、
とりあえず素直に話を聞こうという考えに
落ち着いた。
「そ、そうなんですね。
信じれないような話ですが、
その別世界の番人さんが俺に何の用ですか?」
「雅さん、結論から先にいうと、
あなたに私の世界を救ってほしくて、
お願いしに来た次第です。」
世界を救う?この俺が?
まぁ、それも夢の中、今からファンタジーのような夢を見れるかもしれないと思った雅は、特に考えもせず答えた。
「いいですよ!どーんと任せて下さい!
男、雅こう見えて、お願いはことわりません!」
見た目もろタイプの浴衣美女ヌルさんのお願いということもあり、内容はさておき、気分良く快諾した。
ヌルさんは、そう言うと安心したのかホッとした表情をした。
「さすが、噂通りのお方ですね。
では、すぐにでも私の世界に案内する準備を始めますね。
その前に、この書類に記入願えますか?
難しいものではありません。項目についても説明させて頂きます。」
そう言うと浴衣の袖から、紙切れを一枚取り出し、雅に手渡した。
紙を見ると、契約書なのか、ヌルさんの世界の説明と、要望欄、最後に名前を記入する欄があった。
なになに?
モンスターと人間がいる、剣と魔法の世界で、
困っている人々、魔物を助けてほしいと、
ん?魔物はモンスターじゃないの?
とおもったが、まぁこまかいことはよしとしよう。
夢がさめる前に冒険の世界に早くいきたかった。
そういえば、要望欄が3行ある。
ここはなにを記入するのだろうか?
とりあえずヌルさんに聞いてみた。
「この要望欄にはなにを記入すればいいんですか?」
ヌルは説明文について、なにも聞かれなかったことに安心したのか、またもや安心した顔つきで、雅の質問に答えだした。
「雅さんには、別世界に移る際、今の世界の容姿や、性別、スキル、性格等を持って行く権限が多くて3つ与えられます。
全てを叶えられるわけではありませんが、
要望にはできるだけ応えれるよう、
転生して頂く次第です。
その要望を記入してもらうのがその欄になります。」
なるほど、そういうことね。
3行あるのは3つ書けるってことね。
考え出すといろいろあって悩むが、
夢の世界だ。折角なので、好きなことを書こう。
ということで、適当に思い付いたことを
3つ書いてサインした。
「ヌルさん書き終わりました。
これでよろしくお願いします。」
といってヌルさんに書類を渡した。
書類を受け取ると、ヌルさんはパッと笑顔になり、雅の手をつかみ、笑顔でいった。
「雅さんが本当に話が通じる方でよかった。
それでは、準備を始めますので、少しお待ち下さいね」
といって、立ち上がり、出て行ってしまった。
その笑顔を思い出すと、ほんとに惚れてしまいそうなほど綺麗で、愛らしくで、雅は久しぶりにデレーっとした気分になっていた。
が、ヌルさんの準備ができたのか、
すぐに意識が暗転した。