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<25>VS勇者

「『剣製』!」


作られた剣が対象者に向けて飛んでいく。

鋼鉄の鎧並みの体を持つメタルゴーレムの体はいとも簡単に剣の侵入を許してしまい、その命を散らした。


「よしっ!三十体目!」


祐樹は額に掻いた汗を拭うと、手に持っている剣を鞘に納める。


S級ダンジョンに潜って一週間が経った。

勇者達はA級は勿論の事、S級の魔物でさえも一人で倒せるようになっていた。


現在はダンジョンの最下層にて、二メートルを超える巨躯のメタルゴーレムと戦っている。

最下層はボスを除き、メタルゴーレムしかいないのだ。そしてそのボスはもういない。

なので、何度も戦いメタルゴーレムの動き方大体を把握している勇者達にとっては朝飯前で、それもバラクマゼも見て分かっていたので、目の届く範囲で自由に戦わせている。


「よっしゃー!レベル100いったー!」


「だぁぁ!負けた!」


「んじゃあ、晩飯のおかず一品頂戴ね」


「くっそぉ...」


勇者の一部は友達と競争しあいメタルゴーレムを、また一部では鋼鉄の鎧並みの強度のメタルゴーレム相手にわざと素手で戦って勝とうと挑む者もいた。


そんな中、他の勇者を見ながら舌打ちする勇者もいた。


「あー、だっりぃー...あの女とやりてーなー」


髪を金色に染めて、耳にはピアスを付けた如何にもちゃらちゃらとした見た目の勇者--葛木(くずき)。

彼の視線の先には、透き通るような紫紺の髪を持つ美少女と天然の金髪を持つ幼女がいた。


その女達は、日本のモデルがブスと思えるくらいに可愛いのだ。

やりたい。超やりたい。

葛木の頭の中はそれ一色だった。


しかし、その女達の隣。

いつも二人と一緒にいるあの見た目普通の男が許せなかった。

俺よりブスの癖に...うぜぇなあいつ。


そう考えていると、ふとあの二人から男を離す方法を思いついた。


「そうだ。アイツをボコせばいいんじゃん」


俺の能力を使えば、強かろうが関係ねぇ。


---ゴゴゴゴッ---


そんな不吉な事を考えていた時、前方にメタルゴーレムが現れた。


「雑魚は邪魔だっつの」


葛木は床に座り込んだまま、手だけをメタルゴーレムに向けると、固有スキルの能力を口にする。


「『接収(ドレイン)』」


すると、メタルゴーレムの体から光の粒子が出てきたかと思うと、それが葛木の手に吸い込まれるように向かっていった。


「力が漲ってくるぜぇ」


葛木は気味の悪い笑みを浮かべると、立ち上がりメタルゴーレムの元へと歩き出す。

そんな葛木にメタルゴーレムは鉄の拳を振り上げると、縦に一気に振り下ろした。それは勇者であろうと当たればタダでは済まない一撃。


だが、その一撃を葛木は片手で受け止めると、メタルゴーレムの腹部に蹴りを入れた。

それだけで、メタルゴーレムは光の粒子と化して消えていってしまう。


何故メタルゴーレムを蹴り--それもたった一発で倒せたのか。それには葛木の固有スキルが大きく関わっている。


葛木の固有スキル--『接収』は相手のステータスを一定時間奪う能力。その効果は、自身のレベルが高い程奪う事の出来る能力値が増えるというものだ。


葛木はライトの方を見ると、ニヤリと笑った。

------------

「何かチャラ勇者がこっち見てニヤニヤしてるんだけど」


「気に障るようでしたら私が排除してきましょうか?」


「んな事したら俺達王都に住めなくなっちゃうぞ」


チャラチャラした奴だが、一応勇者だ。絶対に国から狙われる。


まぁ、何か考えているんだとしても好きにやらせておけばいい。

敵対するなら俺も相応の対応をするけどな!

あ、でも勇者倒しちゃったら俺が国の敵になるのか。それは絶対に嫌だな。ミリカとか仲良い冒険者いるし。


「らいとらいとー」


「ん?どしたー?」


「ごーれむきてるよー」


「おう、教えてくれてありがとなー」


そう言ってリーラの頭を撫でると「えへへー」と可愛く笑ってくれる。

本当は分かってたんだけど、敢えてそれを言わない。そうする事でリーラの笑顔を見れるからなっ!

リーラの笑顔に勇者や騎士達が目を奪われていたのは言うまでもない。


取り敢えず、背後から殴ろうとしてきたメタルゴーレムの拳を避けた後、軽く殴って撃退しておいた。

勇者達の為に残しておいた方が良かったかな?と思ったが、無限に湧くしいいか。

それに勇者達だってもうレベル100を超えている者も多い。ゴーレム一体ではレベルは上がらないだろう。


「もうライト君を超えているのかもしれないな」


不意に俺を呼ぶ誰かがいたのでその方を見る。


「何処かの騎士団長様よりかは確実に強いだろうな」


「はっはっは!その通りかもしれんな」


俺の言った皮肉にバラクマゼは笑って返した。

ステータス的には、勇者は完全にバラクマゼを超えている。

冒険者ランクで言えば、ステータスを見る能力を授かってからS級ランク以上の人は見ていないから具体的には分からないが、静野の修業の際に戦っていたSS級の魔物のステータスより少し下だったのでS級上位ってところか。


因みに、その魔物のステータスはオール1500くらいだ。

更に因みに言っちゃうと、静野のステータスはオール3000以上で、魔法攻撃力に関して言えば5000を超えてしまっている。が、その事に皆気づかないのは静野の影の薄さによるものだろう。流石だ。


「ところでこの勇者の修行っていうのは、今日までなんだよな」


「そうだ。二週間もすまなかった」


「いや、こっちも勇者の話を聞けて楽しかったしいいよ」


実際、修業をしている際に静野から向こうの世界の事を聞いていたが、どれも初めての事ばかりで結構面白いと思っていたのは事実だ。

俺も一応神らしいし、行きたいなーと思った事も何度かあった。

だから初めは嫌だと思っていた勇者修行も、今は悪くはないと思っている。


「そうか、それは良かった」


バラクマゼは安心したように言うと、そろそろ良い時間だな、と皆を集めてダンジョンを出た。


それから、今日でS級のダンジョンに行くのは最後だという事と、俺達とも今日で最後だという事を伝えた。


それを聞いて勇者達はメルやリーラを見て叫んでいたが、俺に対してはあまり...ていうか俺達三人に礼を言った時以外に何も言われなかった。


「これがお顔差別か...」


女子の皆さん、僕がカッコよくなくてごめんなさい。


「ライト」


「ほんっとすみません...え?」


声のする方に振り向くと静野がいた。

いつもは無表情なのだが、今は何か言いたげな表情をしている。


「どした?」


「....あの....ありが、とう」


「お、おう」


恥じらう静野は普段の感じと違ったので、何だか照れくさいな。


「...じゃあ」


「...じゃあ」


胸の前で小さく手を振ってきたので俺も返す。

もっと何か言うべきなのに流石は俺だ。何も浮かばない。


静野と別れた後、勇者に囲まれているメルとリーラを横目に、俺は木陰に移動した。

そしてその場に座って待とうとすると、


「ねぇねぇ~?俺と勝負してくんね~?」


突然あのチャラ勇者に勝負を吹っ掛けられた。


「え、いやだけど」


「え~負けるのが怖いの~?」


「いや、そういうのじゃなくて」


お前相手にすると王都追放なんだよ...

そんな俺の心情も知らずに、チャラ勇者は笑いながら煽ってくる。


「うわぁ~怖いんだ~、この世界に来てたった数週間の奴に負けるのが怖いんだ~、ねーねーそうなんでしょ?そうなんでしょぉ?」


「いや別に--」


「だよねー!こんな奴に女の子二人も勿体ないよねー!そういう事であの二人は俺が貰うからねー」


落ち着け俺の右手!我慢だ。


「マスター、どうしました?」


俺がこらえていると、勇者達との話は終えたのかメルとリーラが戻ってきた。


「この勇者が喧嘩吹っ掛けてきた」


「勇者の分際でいい気に乗ってますねー。大したことないくせに」


「その大したことない奴にこれから負けるライト君ワロタ」


わ、わろた?なんだそれ。

ていうか、こいつ何でこんな自信があるんだ?戦うつもりはないが、一応ステータスを覗いておこうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

葛木 誠 ♂ Lv94 16歳


職業:勇者


HP:2010


MP:1329


攻撃力:1444+38


防御力:1356


素早さ:1432


魔法攻撃力:1111


スキル

鑑定

言語理解

風魔法LV4


【固有魔法】:接収


装備

鋼の剣〈攻撃力+38〉


称号

勇者〈全ステータスが1.5倍〉

異世界人


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ステータスを見る限りでは他の勇者と比べて低めだな。

それでこの自信...ってことは固有魔法の『接収』ってやつが相当強いのだろうか?


「あなたはお馬鹿ですか?マスターがあなたのような雑魚に負けるわけがないでしょう」


「じゃあなんでさっきから戦ってって言ってるのにやってくれないのかなぁ?ねえ?怖いからなんでしょ?俺に負けるのが!ねえマスター?」


「言わせておけば...」


あ、マズい。メルさんがかなり怒っているご様子だ。


「あーちょっと待った!分かったから!」


チャラ勇者が死ぬ!そう思った俺は、メルの手を引いてその場を離れた。


「マスター...私はアイツが許せません」


「まあまあ、取り敢えず落ち着け。やるから」


王都追放の危機だがしょうがない。怪我を負わせなければ良いんだ。

このまま放置なんてしたらメルさんがどうなるか分からないからな。


「マスターのお手を煩わせるわけにはいきません!私が殺ります」


お前に任せたらチャラ勇者絶対死ぬだろ...

殺気が少し漏れてるぞ。


「いやお前じゃチャラ勇者殺しちゃいかねないから駄目だ。さっきも言ったけど、勇者になんかあったら俺達王都の敵になっちゃうぞ」


まだ何かを言おうとするメルを何とか宥め、俺はチャラ勇者の元へ戻った。


今思えば回避する方法なんて幾らでもあったなぁ。

メルに「創造者の命令に背くのか?」的な事を言って従わせて、チャラ勇者を無視すれば何とかなっただろうし、何よりバラクマゼにチクればよかった。

まぁでも俺も少しは腹が立ったし...いっか。


ここら一帯は特に障害物らしき障害物は無いし、すぐにでも誰か気付くだろう。それまでお相手してあげればいいだけだ。


「よし、じゃあやろうか」


チャラ勇者から少し距離を取る。

戦闘の構えみたいなのは特にないのでそのまま突っ立っていると、チャラ勇者は「オッケー、メルちゃんとリーラちゃん待っててね〜」と相変わらず軽い感じでメルとリーラに手を振った。


「うぅ...」


先程から怯えていたリーラが、遂に泣き出してしまった。


「リーラおいで」


「らいとー!」


走って飛び込んできたリーラを受け止める。

そして「怖くないからなー大丈夫だぞー」と頭を撫でながら言葉をかけてやると、次第に泣き止んでいった。


「もうちょっとの辛抱だからメルと一緒に待っとけ」


「ぅん...」


メルの元へ歩いて行ったリーラを見送り、ほったらかしていたチャラ勇者の方を見る。

何故かチャラ勇者は笑っていた。


「お前の力すげぇわ!メタルゴーレムから吸い取った時より力が湧いてくる」


「どいうこと...?」


「お前とはもう最後かもだから言っちゃうけど、俺の固有スキルは他の人のステータスを奪う事ができるんだよね~」


おぉ、この固有スキルは今まで見てきた勇者の中でも結構強いんじゃないか?


「んでーこの前言ってたの聞いてたんだけど、お前このS級ダンジョンより一つ上のSS級ダンジョンはきついらしいな。つまりぃ、今のお前は俺達と同格かそれより少し上って事だろ?んで今俺がお前のステータスを吸い取っちゃった。さて、これはどういう意味を示すか分かりますぅ?マスター」


つまりこのチャラ勇者はこう言いたいのか。


「今の俺のステータスでは君には勝てないって事だろ?」


「当ったりぃ!」


ふっ、やはりクズ同士合うようだな。

...ま、誰でもわかるんだけどね。


「じゃ、正解したご褒美に一発殴っていいよ?」


チャラ勇者は馬鹿にしたような笑みで言ってきた。

ご丁寧に右頬を突き出すようにだ。


これは期待に応えて全力で殴るしか...


いや駄目だ駄目だ。んなことしたら確実に死ぬじゃねぇか。なんかイライラして不吉なことを考えてしまったが、これは俺の為だ。我慢我慢。


ということで超軽く殴ることにした俺は、チャラ勇者の近くまで寄ると、その頬を殴ろうとしたーー


ーーのだが、


「ざんねーん!殴らせるわけないだろバーカ」


と、チャラ勇者は俺の拳を避け、回し蹴りを放ってきた。

それはシュッと空を切る音が出るほどの早い回し蹴り。

こんなのをもろに食らったら吹っ飛ぶんだろうなー。痛いのかなー。


そんなことを考えながら蹴りを躱す。

続けざまに飛んでくる打撃と蹴りの怒涛のラッシュも同じように躱した。


暫く躱していると、チャラ勇者も焦ってきたようで「んで当たらねーんだよ!」と怒りをぶつけてきた。

そんなのお前より強いからだよ、と心の中で呟いてまた避ける。


次第に疲れてきたのか攻撃の速度が落ちてきた。呼吸も浅い。


「はぁ...はぁ...お前どういう事だよ...」


「何が?」


「...だから、なんで俺の攻撃避けれんだって...言ってんだよ」


「まぁそりゃ?そういう事なんじゃねーの?」


チャラ勇者の真似をして笑いながら言ってみた。

すると、予想通りチャラ勇者は額に青筋を立て、怒りをあらわにした。


「んなわけねぇだろぉぉぉ!!」


チャラ勇者が地を一蹴りする。

それだけで土の表面は禿げ、土埃が盛大に舞った。


「風球(ウインドボール)!」


飛び出した直後に剣を抜いたチャラ勇者は、剣を持つ逆の手で初級風魔法の風球を俺の足元へ放った。

途端に舞う土埃で視界が奪われ、前が見えなくなる。


「死ねぇぇ!」


こいつ馬鹿か。

視界を遮ったのにわざわざ場所を教えてどうするよ。

まぁ、そんなことしなくても何処にいるのかくらい分かるけど。


俺は背後に迫る剣を身を翻して躱した。躱しざまに「実は俺のステータス1万越えなんだよね」とチャラ勇者に耳打ちをする。

その時に一瞬だけ見えたチャラ勇者の顔は衝撃だったのか口が開いたままだった。


その場から離れて、固まっているチャラ勇者を見る。


「おい!お前ら!何をしてる!」


あ、やっと気付いたか。

怒りの形相でこちらへ向かってくるバラクマゼ。

他の勇者達は「喧嘩か?」と何故か少し楽しそうに見ていた。


俺はことの発端を話した。

終始無言で聞いていたバラクマゼは、全て話し終えると溜息を吐いて「すまない」と謝罪してきた。

別に今日で勇者とはお別れだし特には気にしないけどな。


「誠は俺から注意しておく。本当にすまなかった」


バラクマゼに続いて騎士たちも頭を下げる。

...大人数の、しかも王都の騎士団に頭を下げられている俺。


何だかいたたまれない気分になった俺は適当に許して、ささっとその場を離れた。

注目されるの嫌いなんだよ俺。


「これでやっと勇者の修行も終わりかー」


「やっとバラクマゼの呪縛から解放されますね」


「まぁ修業自体は大して悪くはなかったんだけど、最後の最後になぁ...」


未だに固まった様子のチャラ勇者を横目に俺は溜息を漏らす。

すると、とてとてとリーラが寄ってきた。


「らいとのかち?」


「まぁな~」


「えへへー、らいとはさいきょーだね!」


さっきまでは怯えてたのに、途端に笑顔になりやがって。

可愛すぎんだろぉぉぉ!


「リーラの可愛さも最強だね~」


「ひゃぅ!」


リーラに抱き付いて頭を撫でる。

近くに騎士団がいようと構うものか!犯罪者と間違われても俺はリーラから離れんぞ!


メルがジト目で見ようが!俺はやめん!やめんぞぉぉぉ!


その後、バラクマゼに声をかけられるまでずっとリーラを撫でていた俺だった。

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