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<24>勇者修行⑦

「ここに来るのも久しぶりだな」


薄暗い通路を歩きながら俺は呟いた。


今、俺達は前回同様に最後方にいる。

しかしまあこうして後ろから見ると、前とは勇者達の雰囲気が違うのが分かるなぁ。


暫く歩いていると、一匹の魔物が現れた。

見た目ゴブリン。だがその肌は真っ赤に染まっている。

確か...レッドゴブリンだったっけ?


鑑定を使い確認する。


―――――――――――――――――――――――――

レッドゴブリン ♂ 


HP:542


MP:240


攻撃力:519+32


防御力:433


素早さ;444


魔法攻撃力:497


スキル

火魔法Lv4


装備

鉄の剣〈攻撃力+32〉


称号

無し


―――――――――――――――――――――――――

お、あってたか。

ステータスもまぁA級並なので、勇者達なら勝てるだろう。


「こいつはレッドゴブリンだ!ゴブリンとは色が違うだけだが、強さは桁違いだから甘く見るなよ!」


バラクマゼの説明によって勇者達は身構えた。そして勇者達も鑑定を使ったのだろう「ゴブリンの癖にたっか...」等、ステータスを見て驚いている者が多かった。


レッドゴブリンは持っている剣を舐めながら、こちらの様子を伺っている。


「バラクマゼさん!僕からいってもいいですか!」


そんな中、一人の勇者が一歩前に出た。

やはりこいつか。小柄な癖に度胸だけは俺よりあるかもしれない。


「よし!裕樹、やってみろ!」


「はい!」


裕樹は元気良く返事すると、慎重にレッドゴブリンとの距離を詰めていく。

レッドゴブリンも何時でも斬りかかれる様に、剣を構えた。


「行く...よっ!」


飛び出した裕樹が、レッドゴブリンに向けて縦一線に剣を振り下ろした。

レッドゴブリンは剣で受け流す。が、思ったより剣が重かったのか重心が崩れてしまったようだ。

そこに追撃と言わんばかりに、裕樹が斜め上に剣を振り上げる。


「グギャッ!?」


足から首辺りまで斬られ膝をつくレッドゴブリン。

そこにとどめを刺そうと、裕樹が真正面から剣を振り下ろす。


しかし次の瞬間、レッドゴブリンは手を裕樹の方に向けて魔法を放った。


「ッ!?」


火球(ファイアーボール)をもろに食らった裕樹は軽く飛ぶと床に激突する。


「裕樹!?」


勇者の仲間から心配の声が上がり、バラクマゼも少し眉がピクついていた。


が、まあ大丈夫だろう。鑑定で見るもHPはさほど減ってないし、本人も痛いーとは言いつつもまだ余裕そうだし。


「よーし、じゃあ僕の固有スキル使っちゃおうかな」


お、固有スキルを使うのか。鑑定で見たところ『剣製』と書いてあるが...


「『剣製』!」


裕樹がスキル名を唱えると、裕樹の周囲に光の粒子が現れ始めた。

それぞれ集まり形を作っていく粒子。


「剣か...?」


「そのようですね」


「剣を製作...か」


「余り使えないと思いますが...」


「シーッ、今本人いるんだからそんな事言わない」


「すみませんマスター」


小声で謝るメルを横目に、裕樹の方を見ると幾つものそれぞれ異なる剣が宙に浮いていた。


「くらえ!」


裕樹がそういうと、剣がレッドゴブリンの方へ勢いよく向かっていく。


「あ、そういう使い方があるのか...」


なんだ...ただ単に剣を作ってそれを持って戦うだけかと思ったじゃん。


割と速い速度で飛んでいった剣に、レッドゴブリンも咄嗟に回避するも、続けざまに飛んできた剣が足に突き刺さる。


呻き声を上げるも、それを黙らすかの如く飛んでくる剣。

当然足を貫かれているレッドゴブリンは避けることも叶わず、粒子となった。


「やったっ!」


勝利した裕樹がグッと拳を握る。


「良くやった、裕樹。今のでレベルが結構上がったのではないか?」


バラクマゼに言われて裕樹はステータスを唱えると「おぉ!8レベも上がってます!」と驚いていた。


「え、マジで8レベも上がるの!?」


「一週間で20ちょっとしか上がらなかったのに!?」


「いいなぁ」


同じく勇者達も8レベル上がった事に羨ましがるもの等がいた。

そして裕樹が戦って、レッドゴブリンの攻撃を受けたのにも関わらず、平気であることに対して勇者達は安全だと思ったのだろう。

次々と手が上がっては、「次俺!」「私やりたい!」とバラクマゼに訴えていた。


「待て待て。今のはまだA級指定の魔物だったから良かったんだ。まだ安心しきらないように」


「だーいじょぶだいじょぶっすよ。俺達には鑑定もあるからヤバイと思ったら引きますし、ピンチになったらバラクマゼさん達騎士やそこの冒険者さん達が助けてくれるんでしょ?」


勇者の一人が俺の方を見ながら言う。

取り敢えず何かの反応はしとかないとな。


「任せてくれ」


「ま、ってもステータス不明じゃあ強いかどうか分かんないですけどね」


安心しろ!多分世界一強いから!とは言えず、苦笑で返す俺にバラクマゼは不思議に思ったのか「不明?どういう事だ?」と質問してきた。


「あー...いや俺にも何だか分かんねーけど、ステータスを見ようとすると数値が不明になっててな」


神だから...何て事言えない。


「そんな事があるのか...不思議な物だな」


勇者達も次々に俺のステータスを覗き込み、首を傾げている。まぁもう見ていたのか友達と話している勇者もいたが。

というか一部の勇者は何故か驚いた顔をしているが何でだ?


ともあれ、俺のステータスを覗き込むと言う事は、必然的にメルやリーラのステータスも覗き込むという事で、メルに対しては俺と同じ反応を、リーラに関しては「ステータス高っ!?」と素直に驚く者もいれば「幼女に負けた...」と落ち込む者もいた。


そういや、俺の加護の事は何故誰も触れないのだろうか?全能力値×1.5倍の『勇者』の称号より強いのに。


俺がそう考えていると、勇者の一人が気になる事を口にした。


「なぁ、この不明ってなんだ?ライトさんやメルちゃんと同じみたいだけど」


どうやらリーラのステータスの中にも不明と表示されているものがあるらしい。

って事は『ライトの加護』が不明と表示されてるのかもしれないな。皆驚かないし。


「まあその件は後にしてくれ。今はダンジョンの中なんだ。気を引き締めるように。あとライト君達の事だが腕は確かだから安心してほしい」


そう言うバラクマゼに「リーラちゃんであれだからな」と皆納得したような反応をする。


その後、修行を再開した勇者達だったが、まだ一層の為に出てくる魔物はA級の魔物だけだったので、微々たる怪我を負う者が少しいただけで後は順調に倒していった。


そろそろ良い時間なので昼食を取ろうとバラクマゼが言い、ダンジョンの外へ出る。

2、3時間の内に一人三体位倒したので、勇者達のレベルは40手前とかなり強くなっていた。

一人ずば抜けている者もいるが、気付かれなかったのは流石と言えよう。


勇者達がその場に腰掛けたりする中、俺達も半分ほど埋まっている平らな石に座る。

そこでメルやリーラと話しながら待っていると、騎士団の一人が食べ物が入っている包みを持ってきてくれたので受け取る。中にはパンと保存が効く食べ物が幾つか入っていた。


「にしても勇者達は強くなるの早いなぁ」


「この世界に来る前は戦った事は一度も無いと言っていましたが...」


「そうなんだよなー、平穏な生活を送ってた奴らなのにこの世界に慣れるのが早いっていうかさ」


「まぁ...勇者ですし」


「そうだな、勇者だもんな」


納得してパンを齧る。

柔らかい。


「ステータスはまだリーラの方が上だけど、戦ったらリーラ負けるかもな」


「んー?どーしたのー?」


「んいや、何でもないぞ。それより美味いか?」」


「んー...あんまりー」


「ま、保存食だからそりゃそうだろうな。帰ったらミリカの所に飯食いに行こうなー」


リーラの頭を撫でながら言うと、嬉しそうに「うん!」と頷いた。


それから昼食込みの一時間程休憩をして、またダンジョンへ潜った。

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